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改正職業安定法はブラック企業の取り締まり強化につながるか?

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はじめに

 平成29年3月16日、「雇用保険法等の一部を改正する法律案」が衆院本会議で可決しました。雇用保険料率、来年度から下げ 法改正案が衆院通過 :日本経済新聞

 そして、平成29年3月31日、同法律案は参院本会議で可決し成立しました。「雇用保険法等の一部を改正する法律」には、雇用保険法のほかに職業安定法の改正も盛り込まれています。今回の、職業安定法の改正は、ブラック企業の取り締まり強化を目的とするものです。はたして、有効に機能するでしょうか。以下、具体的な改正点についてみていきます。

職業安定法改正について

具体的な改正内容は、次の通りです。 

(1)①ハローワークや職業紹介事業者等の全ての求人を対象(※)に、一定の労働関係法令違反を繰り返す求人者等の求人を受理しないことを可能とする。②職業紹介事業者に紹介実績等の情報提供を義務付ける。③ハローワークでも、職業紹介事業者に関する情報を提供する。

〔※現行はハローワークにおける新卒者向け求人のみ〕

(2)求人者について、虚偽の求人申込みを罰則の対象とする。また、勧告(従わない場合は公表)など指導監督の規定を整備する。

(3)募集情報等提供事業(※)について、募集情報の適正化等のために講ずべき措置を指針(大臣告示)で定めることとするとともに、指導監督の規定を整備する。 〔※求人情報サイト、求人情報誌等〕

(4)求人者・募集者について、採用時の条件があらかじめ示した条件と異なる場合等に、その内容を求職者に明示することを義務付ける。

求人不受理の制度について

 現行では、ハローワークにおける新卒者向け求人のみを対象として、一定の労働関係法令違反を繰り返す求人者等の求人を受理しないことが可能となっています。今回の改正点は、不受理とする対象求人の幅を、職業紹介事業者等のものや、一般求人にまで広げるという点です。求人不受理の制度については、次の記事において説明しました。

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 同制度について再度詳細を述べます。現在、労働関係法令違反のあった事業所の新卒求人については、職業安定法第5条の5の適用から除外し不受理とする制度があります。対象となる事業所は次の通りです。

①労働基準法と最低賃金法の対象条項に違反した事業所

②男⼥雇⽤機会均等法と育児介護休業法の対象条項に違反した事業所

 ①についてもう少し詳しく解説します。①の対象条項とは次の通りです。対象条項に違反する具体例として当サイトで紹介した記事と併せて紹介します。

強制労働の禁止(労働基準法第5条)
賃⾦関係(最低賃⾦、割増賃⾦等) (労働基準法第24条、第37条第1項及び第4項、最低賃⾦法第4条第1項) 

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労働時間(労働基準法第32条) 

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休憩、休⽇、年次有給休暇 (労働基準法第34条、第35条第1項、第39条第1項、第2項、第5項及び第7項) 

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求人を不受理とする期間について

 求人を不受理とする期間については、労働関係法令違反について是正勧告を受けた場合(不受理期間A)と書類送検された場合(不受理期間B)とで異なります。

不受理期間Aについて

1年間に2回以上同一条項について是正勧告を受けている場合

違法な⻑時間労働を繰り返している企業として公表された場合

について、是正後6か月が経過するまでです。

不受理期間Bについて 

 書類送検された場合の不受理期間は1年間です。ただし、送検から1年経過していても、是正から6カ月経過していない場合は、不受理期間が延⻑となります。

罰則規定について

 今回の職業安定法改正で、虚偽の求人申し込みを行った求人者に対して、罰則規定が設けられることになりました。具体的には次の通りです。

虚偽の条件を提示して、公共職業安定所又は職業紹介を行う者に求人の申込みを行った者について 、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処するものとすること。

今回の職業安定法改正についての見解

 今回の改正で、効果がありそうだと筆者が思ったのは、(1)不受理とする対象求人の幅を全ての求人に広げたこと(2)罰則規定を設けたことです。労働関係諸法令に違反した事業所の求人を不受理とすることで、少なくともそのような企業への入口を塞ぐことができます。人を雇えないとなると企業として死活問題なので、法違反への抑制効果としてある程度は期待できるでしょう。

 しかし、より実効性あるものにするためには、禊期間(求人を不受理とする期間)を半年や1年ではなくもっと長くするべきでしょう。

筆者が、今回の改正案で甚だ疑問に思ったのは、求人を不受理とする対象事業所に職業安定法に違反した企業が含まれていないことです。

 職業安定法違反とは、つまり、求人詐欺を行った企業のことです。求人詐欺を行った企業に対し、今回新たに罰則規定や勧告規定を設けるのなら、少なくとも、労基法違反や最賃法違反を行った企業と同等に扱うべきでしょう。

 その他の改正点については、あまり効果を期待できません。特に、

(4)求人者・募集者について、採用時の条件があらかじめ示した条件と異なる場合等に、その内容を求職者に明示することを義務付ける。

では不十分です。

 現行でも、労働基準法15条の規定により、労働契約締結時における労働条件の明示義務が使用者に課されています。採用時の条件とは内定段階の条件ことを言っているのでしょうか。そもそも、「採用時の条件とあらかじめ示した条件とが異なる場合」を求人詐欺と言います。本来なら、内定段階で労働条件の明示義務を課した上で、「採用時の条件とあらかじめ示した条件とが異なる場合」を職業安定法違反とすべきでしょう。そして、この場合にも罰則規定を設け、一定期間当該事業所の求人を不受理とすべきです。

 ブラック企業の場合、ほぼ間違いなく採用時の条件とあらかじめ示した条件とが異なります。なぜなら、ブラック企業で行われているブラックな労働条件をそのまま素直に求人票に書いたら誰も応募してこないからです。 すなわち、その採用過程において条件が変化していくこと自体がブラック企業の証なのです。