はじめに
今回は、「送検事例をもとに、ブラック企業を検証しその対策を考える」の第6回目です。
事件の概要
書類送検された企業:
㈱博仙(東京都中野区)
≪平成29年2月10日送検≫
- 労働者3人に対し、平成26年7月分の賃金全額を所定支払日に支払わなかった。
- 労働者からの申告で賃金未払いが発覚。
- 同社代表取締役は労基署からの繰り返しの指導に応じず逃走を図った。
- そのため、労基署は家宅捜索を行い書類送検した。
(違反法条:最低賃金法4条)
(参照元:『労働新聞社』https://www.rodo.co.jp/column/10379/)
賃金支払いの5原則について
ここまでくるとブラック企業というか、泥棒と同じです。賃金の未払いも監督署の取り締まりの範疇なので、会社近くの労働基準監督署にすぐに申告してください。
賃金の支払いに関しては、労働基準法24条に詳しい定めがあります。
労働基準法24条
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
上記において赤で示したところを、賃金支払いの5原則と言います。上記のただし書きのところは、この5原則に対する例外規定を定めています。下記に賃金支払い5原則の例外の具体的な例を列挙します。
法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合
定期券・借り上げ社宅など
厚生労働省令で定めるものによる場合
金融機関への振り込みなど
最低賃金法について
労働基準法24条第2項では、「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」となっています。したがって、その月の給与振り込み日に給与が支払われず、その月が過ぎてしまった場合、使用者は労働基準法24条違反ということになります。しかし、書類送検に係る違反法条は労働基準法24条ではなく最低賃金法4条となっています。そこで、次の条文をご覧ください。
最低賃金法4条第1項
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
その月の給与振り込み日に給与が支払われず、その月が過ぎてしまった場合、その月の給与は形式的に0円ということになります。したがって、使用者は最低賃金すら支払っていないことになり、最低賃金法4条違反にもなります。労働基準法24条違反については30万円以下の罰金、最低賃金法4条違反については50万円以下の罰金という罰則規定が設けられています。
賃金の未払いのように、違反法条が競合する場合、より重い罰則規定が適用される仕組みになっているのです。
未払い賃金の立替払い制度について
賃金の未払いが発生した場合、即座に労基署へ申告することをお勧めします。なぜなら、事業主が破産した場合、労働者の請求によって、政府が未払い賃金の立替払をするという制度があるからです。事業主の破産手続開始決定の半年前から2年以内の退職日までの未払い賃金について政府が立替払いする制度です。退職金の未払いも含まれます。ただし、全額ではなく80%に相当する額が立替払いの対象となります。立替できる額は、退職時の年齢に応じて、88~296万円の範囲で上限が設けられています。詳細は、下記サイトをご覧ください。未払賃金立替払制度の概要 |厚生労働省
まとめ
会社が潰れても何もしなかったら、使用者が行方不明になってしまって泣き寝入りに終わってしまうかもしれません。とにかく、給料が支払われなくなったら、上記のような制度があるので即座に監督署に駆け込みましょう。上記の制度はあくまでも立替払いの制度です。政府が労働者災害補償保険の事業から労働者に賃金の立替払いをした後、今度は政府が使用者に対し支払いの請求(求償)をします。