Mesoscopic Systems

働くルールを理解してこれからの働き方について考えよう!

究極のブラック企業:有毒ガスを吸い込み労働者が死亡

f:id:mesoscopic:20180924175411j:plain

はじめに

 今回は、「送検事例をもとに、ブラック企業を検証しその対策を考える」の第19回目です。

  平成30年2月1日、茨城・常総労働基準監督署は、特定化学物質作業主任者を選任していなかったとして、清掃業・産業廃棄物処理業の㈱クリーンフィールド(茨城県常総市)と同社代表取締役を労働安全衛生法第14条違反などの容疑で水戸地検下妻支部に書類送検しました。

事件の概要

書類送検された企業:

㈱クリーンフィールド(茨城県常総市)

≪平成30年2月1日送検≫

  • 同社は、トリクロロエチレンを日常的に使用していたにもかかわらず特定化学物質作業主任者を選任していなかった。
  • さらに、同社は、会社設立以来1度も、屋内作業場の環境測定および特定化学物質健康診断を実施していなかった。
  • 平成29年2月、同社労働者がトリクロロエチレンを吸い込み死亡する労働災害が発生している。

(違反法条:労働安全衛生法14条)

(参照元:『労働新聞社』https://www.rodo.co.jp/column/38838/

 ブラック企業に法的な定義は存在しませんが、深夜まで長時間サービス残業を強いる企業、パワハラが横行する企業、大量採用大量解雇が併存する企業などその類型はさまざまです。しかし、まともな空気すら吸わせないのは究極のブラック企業と言っても過言ではないでしょう。

作業主任者とは何か

 高圧室内作業・ボイラーを取り扱う作業・放射線を取り扱う作業など世の中には、危険・有害な作業がたくさん存在します。当然のことながら、事業者は、こういった危険・有害な作業を労働者に行わせるときは、労働災害を防止するための管理を充分に行わなければなりません。

 労働安全衛生法は、労働災害を防止するための管理を必要とする作業について、その知識・経験を有する者に労働者の指揮等を行わせることを事業者に要請しています。その者を作業主任者といい、危険・有害作業の区分に応じて選任すべきことが規定されています。

 作業主任者を選任すべき作業は、政令で定められており、労働安全衛生法施行令6条に23種類の作業が限定列挙されています。作業主任者は、危険・有害作業の区分に応じてそれぞれ専門知識や経験を有する者でなければなりません。したがって、労働安全衛生法14条は、作業主任者は次のいずれかに該当する者でなければならないと規定しています。

  1. 都道府県労働局長の免許を受けた者
  2. 都道府県労働局長の登録を受けた者が行う技能講習を修了した者

特定化学物質取扱作業について

 労働安全衛生法施行令6条第18号に、「別表第三に掲げる特定化学物質を製造し、又は取り扱う作業」が作業主任者を選任すべき作業の一つに指定されています。ただし、試験研究のためにこれらを取り扱う作業は除かれています。

 別表第三には、たくさんの種類の特定化学物質が限定列挙されていますが、それぞれの特性に応じて、第一類物質・第二類物質・第三類物質という3種類に分類されています。

 第一類物質とは、「がん等の慢性・遅発性障害を引き起こす物質のうち、特に有害性が高く労働者に重度の健康障害を生じるおそれがある特定化学物質」を意味します。第二類物質とは、「がん等の慢性・遅発性障害を引き起こす物質のうち、第1類物質に該当しない特定化学物質」を意味します。第三類物質とは、「大量漏洩により急性中毒を引き起こす特定化学物質」を意味します。

 トリクロロエチレンは、別表第三に掲げる第二類物質の第22の5号において特定化学物質に指定されています。すなわち、トリクロロエチレンを取り扱う作業は、試験研究目的で取り扱う場合を除き、作業主任者を選任すべき作業に該当します。

特定化学物質作業主任者について

 一般的に言って液体の有機化合物は揮発性が高く、その蒸気を吸い込んだ場合、人体に悪影響が及ぼされる可能性があります。したがって、事業者が特定化学物質を労働者に取り扱わせる際、専門知識を有しその取扱いに熟練した労働者を作業主任者に選任する必要があります。

 特定化学物質を試験研究以外で取り扱う事業場では、特定化学物質作業主任者を選任する必要があります。特定化学物質作業主任者の資格を得るためには、都道府県労働局長の登録を受けた者が行う技能講習を修了する必要があります。

 特定化学物質作業主任者技能講習は、全国の登録事業者がこれを行っています。特定化学物質作業主任者の資格を得るには2日間の技能講習を受講する必要があります。なお、講習の終わりに、修了試験があります。

 事業者は、特定化学物質作業主任者を選任してしまえばそれでおしまいというわけではありません。誰が作業主任者なのかがわかるように労働者にその氏名等を周知させなければなりません。

 したがって、事業者は、作業主任者を選任したときは、当該作業主任者の氏名及びその者に行なわせる事項を作業場の見やすい箇所に掲示する必要があります(労働安全衛生規則18条)。

作業環境測定について

 事業者は、作業主任者を選任して労働者に周知してしまえばそれでおしまいかというとこれもまた違います。労働者に有害な作業を行わせる際、事業者は、常に快適な職場環境を整える必要があるからです。

 有害な作業においては、一見したところ何の問題がないように見えても、視覚では捉えきれない有害な作業環境要因が潜んでいる場合があります。これを把握するために行われるのが、作業環境測定です。

 作業環境測定は、労働安全衛生法65条に根拠規定があり、作業区分に応じて、測定頻度や測定記録の保存期間などが定められています。特定化学物質を取り扱う屋内事業場の場合、6月以内ごとに1回作業環境測定を行う必要があります。また、測定結果の保存期間は3年間(但しベリリウムについては30年間、石綿については40年間)とされています。

特殊健康診断について

 事業者は、作業主任者を選任して労働者に周知し、一定期間ごとに作業環境測定を行って結果を記録していればそれでOKかというとこれもまた違います。事業者は、当該有害業務に従事する労働者に健康上の悪影響が及んでいないかどうかを確かめる必要があるからです。

 このときに行われるのが、特殊健康診断です。1年以内ごとに1回定期に行われる一般健康診断とは違い、当該有害業務によって健康影響が無かったかを推し量るために、事業者は、特別な検査項目についての健康診断を行わなければなりません。

 なお、特定化学物質取扱業務の特殊健康診断については、特定化学物質障害予防規則39条に詳細な規定があります。同則別表第三には、特殊健康診断の際に必要な検査項目が、特定化学物質の種類に応じて示されています。

 因みに、トリクロロエチレンの場合に必要な検査項目は、以下の通りです。

一 業務の経歴の調査

二 作業条件の簡易な調査

三 テトラクロロエチレン又はトリクロロエチレンによる頭重、頭痛、めまい、食欲不振、悪心、嘔おう吐、腹痛等の他覚症状又は自覚症状の既往歴の有無の検査

四 頭重、頭痛、めまい、食欲不振、悪心、嘔おう吐、腹痛等の他覚症状又は自覚症状の有無の検査

五 尿中の蛋たん白の有無の検査及びトリクロル酢酸又は総三塩化物の量の測定

六 血清グルタミツクオキサロアセチツクトランスアミナーゼ(GOT)、血清グルタミツクピルビツクトランスアミナーゼ(GPT)及び血清ガンマ―グルタミルトランスペプチダーゼ(γ―GTP)の検査

まとめ

 以上、危険・有害業務を労働者に行わせる際に、事業者として最低限なすべき事項を説明してきました。

 同社は、特定化学物質作業主任者を選任せず、作業環境測定も行なわず、特殊健康診断も実施していませんでした。

 このような事業者が労働者に危険・有害業務をさせる資格はありません。

 仕事で特殊な化学物質を取り扱っている方は要注意です。仕事で特定化学物質を取り扱っていて、

  • 作業主任者が誰なのかが分からない
  • 作業環境測定が行われた形跡が全くないあるいは半年を超えて行われていない
  • 特殊健康診断を一度も受診したことがないあるいは半年を超えて受診していない

上記のいずれの場合も、事業者は労働安全衛生法に違反します。その場合は、直ちに、事業場に最寄りの労働基準監督署に申告してください。参考資料として、労働安全衛生法施行令が指定する特定化学物質の一覧表を示します。ぜひ参考ください。

別表第三 特定化学物質(第六条、第九条の三、第十七条、第十八条、第十八条の二、第二十一条、第二十二条関係)

一 第一類物質

1 ジクロルベンジジン及びその塩

2 アルフア―ナフチルアミン及びその塩

3 塩素化ビフエニル(別名PCB)

4 オルト―トリジン及びその塩

5 ジアニシジン及びその塩

6 ベリリウム及びその化合物

7 ベンゾトリクロリド

8 1から6までに掲げる物をその重量の一パーセントを超えて含有し、又は7に掲げる物をその重量の〇・五パーセントを超えて含有する製剤その他の物(合金にあつては、ベリリウムをその重量の三パーセントを超えて含有するものに限る。)

二 第二類物質

1 アクリルアミド

2 アクリロニトリル

3 アルキル水銀化合物(アルキル基がメチル基又はエチル基である物に限る。)

3の2 インジウム化合物

3の3 エチルベンゼン

4 エチレンイミン

5 エチレンオキシド

6 塩化ビニル

7 塩素

8 オーラミン

8の2 オルト―トルイジン

9 オルト―フタロジニトリル

10 カドミウム及びその化合物

11 クロム酸及びその塩

11の2 クロロホルム

12 クロロメチルメチルエーテル

13 五酸化バナジウム

13の2 コバルト及びその無機化合物

14 コールタール

15 酸化プロピレン

15の2 三酸化二アンチモン

16 シアン化カリウム

17 シアン化水素

18 シアン化ナトリウム

18の2 四塩化炭素

18の3 一・四―ジオキサン

18の4 一・二―ジクロロエタン(別名二塩化エチレン)

19 三・三’―ジクロロ―四・四’―ジアミノジフエニルメタン

19の2 一・二―ジクロロプロパン

19の3 ジクロロメタン(別名二塩化メチレン)

19の4 ジメチル―二・二―ジクロロビニルホスフェイト(別名DDVP)

19の5 一・一―ジメチルヒドラジン

20 臭化メチル

21 重クロム酸及びその塩

22 水銀及びその無機化合物(硫化水銀を除く。)

22の2 スチレン

22の3 一・一・二・二―テトラクロロエタン(別名四塩化アセチレン)

22の4 テトラクロロエチレン(別名パークロルエチレン)

22の5 トリクロロエチレン

23 トリレンジイソシアネート

23の2 ナフタレン

23の3 ニツケル化合物(24に掲げる物を除き、粉状の物に限る。)

24 ニツケルカルボニル

25 ニトログリコール

26 パラ―ジメチルアミノアゾベンゼン

27 パラ―ニトロクロルベンゼン

27の2  砒ひ素及びその化合物(アルシン及び砒ひ化ガリウムを除く。)

28  弗ふつ化水素

29 ベータ―プロピオラクトン

30 ベンゼン

31 ペンタクロルフエノール(別名PCP)及びそのナトリウム塩

31の2 ホルムアルデヒド

32 マゼンタ

33 マンガン及びその化合物(塩基性酸化マンガンを除く。)

33の2 メチルイソブチルケトン

34  沃よう化メチル

34の2 リフラクトリーセラミックファイバー

35 硫化水素

36 硫酸ジメチル

37 1から36までに掲げる物を含有する製剤その他の物で、厚生労働省令で定めるもの

三 第三類物質

1 アンモニア

2 一酸化炭素

3 塩化水素

4 硝酸

5 二酸化硫黄

6 フエノール

7 ホスゲン

8 硫酸

9 1から8までに掲げる物を含有する製剤その他の物で、厚生労働省令で定めるもの