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月100時間未満の時間外労働で労基署が過労死認定した事例:山口労基署

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はじめに

 次のような報道がなされました。

www.nikkei.com

 山口労働基準監督署は、2015年に死亡した会社員の女性に関し、死亡前6か月間の休日が4日しかなかったとして、今年2月に労災を認定しました。女性の1日の労働時間は8時間前後で、死亡直前の時間外労働は約71~77時間でした。

 すなわち、

厚生労働省の過労死認定基準

「発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合、あるいは、発症前2か月ないし6か月間にわたって1ヶ月あたりおおむね80時間を超える時間外労働」

 を下回っています。

 先日、月100未満の時間外労働で労基署が過労死認定したスーパーいなげやの事例を紹介しました。

www.mesoscopical.com

 今回も、月100未満の時間外労働で労基署が過労死認定した事例です。いなげやの例からも山口の例からも明らかなように、月100時間未満の時間外労働でも過労死の危険性が十分にあるのです。

 山口労働基準監督署は、過労死認定に際し、女性の休日が死亡前6か月間で4日しかなかったこと、15年8月14日~11月12日の間は1日も休みがなかったことを重視しました。6か月間に4日しか休みが無いというのは、明らかに労働基準法違反です。そこで、今回は、労働基準法の休日規定について考えます。

労働基準法上の休日の規定

 土曜日日曜日祝日を休日とする方が多いと思います。しかし、世の中を見渡せば、土日祝に働いている方もいます。例えば、デパートで働いている方が典型例ですし、新幹線も土日祝を含め毎日運行しています。では、労働基準法は休日をどのように規定しているのでしょうか。そこで、 次の条文をご覧ください。

労働基準法35条

使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも一回の休日を与えなければならない。

2 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。

 このように、労働基準法の条文には、休日に関して土曜日・日曜日・祝日といった文言はどこにも出てきません。したがって、法律上は土曜日・日曜日・祝日を休日とする必要はありません。ただし、法35条によれば、休日について次の2つの規定があることがわかります。

①原則:毎週少なくとも1回の休日

②変形休日制:4週間を通じ4日以上の休日

 すなわち、使用者が上記①または②の規定による休日を労働者に与えなければ法35条違反となります。

①原則規定について

 法律上「週」とは、就業規則に別段の定めが無い場合は、日曜日から土曜日までの歴週をいいます。使用者は、この間に少なくとも1回の休日を労働者に与えなければなりません。もちろん、少なくとも週1回の休日が確保されている限り、休日が土日祝である必要はありません。また、休日は一斉に与えられる必要もありません。交代勤務制の人でそれぞれ休日が違うことを考えればよく分かると思います。

 また、休日の「日」については、原則的に1暦日すなわち午前0時から午後12時までの24時間のことをいいます。但し、工場労働者の方のように、8時間3交代制の勤務形態の方は、例えば午前8時から翌日午前8時までといったように、休日として継続24時間が与えられれば差し支えないとされています。

②変形休日制について

 労働基準法上の休日は①が原則ですが、例外もあります。この例外規定のことを、変形休日制といいます。変形休日制を採る場合、使用者は4週間を通じ4日以上の休日を労働者に与えなければならないことになっています。但し、4週間を通じ4日以上といっても、4週間をどのように区切るかによって話が違ってきます。したがって、就業規則等によってあらかじめ4週間の起算日が定められている必要があります。起算日とは、4週間の区切り方を特定するために基準となる日のことをいいます。

休日に労働した場合はどうなるか

 納期が迫っているときなど、場合によっては休日に労働しなければならないときがあるかもしれません。しかし、そのような場合でも休日労働の代わりとなる休日を使用者が与えなければ、同法35条違反になります。休日労働の代わりとなる休日には次の2種類があります。

  1. 休日の振替
  2. 代休

 この2つは、一見同じように見えて、その取扱いが異なります。では、この2つの違いをそれぞれみていきましょう。

休日の振替について

 休日の振替とは、あらかじめ休日とされた日を労働日とした場合に、その代償として他の労働日を休日とすることです。例えば、5月7日(日)を法定休日とします。何らかの理由で、5月7日に出勤しなければならないことになったとします。休日の振替とは、5月7日より前の日、すなわち、5月6日以前に、あらかじめ、代わりとなる休日を特定しておくことをいいます。「あらかじめ」というところが休日の振替をするために重要な要件です。

 その他には、就業規則に休日を振り返ることができる旨の規定が設けられていること、4週4日の法定休日が確保されていることなどの要件があります。

代休について

 代休とは、休日労働が行われたときに、その代償として事後的に、特定の労働日の労働義務を免除することをいいます。したがって、休日労働を行う日まで何も決めておらず、その後に代わりとなる休みをとった場合、代休となります。

休日の振替と代休との本質的な違い

 法定休日に出勤をし、代償としての休日が同じ日だとしても、あらかじめその日が特定されていたかどうかによって、法律上の取り扱いが異なります。具体的には、休日の振替と代休とで、時間外・休日労働の割増賃金の取り扱いが異なります。

 休日の振替の場合、法定休日より前の日にあらかじめ代わりとなる休日を特定しているので、本来法定休日であった日の労働はもはや休日労働とはいいません。したがって、休日の振替の場合、休日労働の割増賃金の支払い義務は使用者に発生しません。しかし、当該労働によって、週40時間の法定労働時間を超えた場合、その超えた分について、時間外労働の割増賃金(25%以上)の支払い義務が使用者に発生します。

 一方、代休の場合は、事後的に代わりとなる休日を特定するので、法定休日における労働は休日労働の扱いになります。したがって、代休においては、休日労働の割増賃金(35%以上)の支払い義務が使用者に発生します。

休日労働まとめ

 休日は疲労の蓄積を解消するために重要な日です。したがって、働くための最低基準である労働基準法の休日規定を知っておくことは重要です。下記にこれまで述べたことのまとめをします。

① 自分が、㋐原則・㋑変形休日制のどちらの休日規定が適用されているかを知る。

② ㋐の場合、少なくとも週に1日、㋑の場合、4週間に4日以上の休日が確保されているかを確認する。

③ 法定休日とされた日に労働しなければならなくなったとき、近接した日に代わりとなる休日がとれることを知る。

④ 法定休日とされた日に労働する場合、その日より前にあらかじめ代わりとなる休日を設定しているか、それまで何も決めていないかによって、法律上の取り扱いが異なることを知る。

 最低限この4つを知っていれば、身を守るのに役立ちます。

まとめ

 以上、見てきたように、6か月間で休日が4日しかないとか、連続91日間勤務というのは明らかに労働基準法違反です。報道によると、死亡した女性が勤務していた会社の社長は、「休日労働は本人が希望していた」と釈明しているそうです。しかし、これは全く理由になりません。なぜならば、労働基準法が強行法規であるからです。

 例えば、使用者と労働者との間で「6か月間で休日が4日」という労働契約を締結したとします。しかし、当該契約は、「6か月間で休日が4日」という部分が、労働基準法35条で定める基準に達しておらず、労働基準法13条の規定により無効となります。そして、無効となった部分は、法35条の基準に修正されます。したがって、仮に本人が希望したとしても、使用者が6か月間で休日を4日しか与えないということは、労働基準法35条に違反し、許されないのです。

 因みに、使用者が労働基準法35条(休日規定)に違反した場合、「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」という罰則が適用されます。