Mesoscopic Systems

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防じんマスクを着用させず危険な作業をさせれば書類送検されて当然

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はじめに

 今回は、「送検事例をもとに、ブラック企業を検証しその対策を考える」の第20回目です。

 平成30年8月24日、相模原労働基準監督署は、アーク溶接を労働者に行わせる際の安全対策を怠ったとして、東京濾器㈱(神奈川県横浜市都筑区)と同社相模第1工場の現場責任者を労働安全衛生法第22条違反の容疑で横浜地検相模原支部に書類送検しました。

事件の概要

書類送検された企業:

東京濾器㈱(横浜市都筑区)

≪平成30年8月24日送検≫

  • 同社は、アーク溶接を労働者に行わせる際に、防塵マスクを着用させていなかった。
  • 同労基署は、同社に対し、労働者にアーク溶接を行わせる際に、防じんマスクを着用させるよう指導していた。
  • 平成29年度の監督指導のなかで再び同様の違反がみつかったため、書類送検に踏み切った。

(違反法条:労働安全衛生法22条)

(参照元:『労働新聞社』 https://www.rodo.co.jp/column/33027/

健康障害防止措置について

 まずは、次の条文をご覧ください。

労働安全衛生法22条

事業者は、次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

一 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害

二 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害

三 計器監視、精密工作等の作業による健康障害

四 排気、排液又は残さい物による健康障害

 本件は、粉じんによる健康障害の防止措置を事業者が怠ったことによる送検事案です。粉じんに関しては、粉じん障害防止規則という詳細な規定が設けられています。事業者は、この規定にしたがい、粉じん作業に従事する労働者の健康障害防止措置を講ずる責務があります。

粉じん障害防止規則について

 本件は、監督署の指導を無視し、アーク溶接作業に従事する労働者に防じんマスクを適切に着用させていなかったことにより、書類送検された事案です。防じんマスク等呼吸用保護具に関しては、粉じん障害防止規則27条第1項に次のような規定があります。

粉じん障害防止規則27条第1項(抄)

事業者は、別表第三に掲げる作業(次項に規定する作業を除く。)に労働者を従事させる場合(第七条第一項各号又は第二項各号に該当する場合を除く。)にあつては、当該作業に従事する労働者に有効な呼吸用保護具(別表第三第五号に掲げる作業に労働者を従事させる場合にあつては、送気マスク又は空気呼吸器に限る。)を使用させなければならない。

 別表第三には様々な作業が掲げられていますが、同表第14号に、「別表第一第十九号から第二十号の二までに掲げる作業」というものがあります。このうちの、「別表第一第二十号の二に掲げる作業」とは、「金属をアーク溶接する作業」のことです。すなわち、アーク溶接作業は、防じんマスクを着用すべき作業に該当します。

防じんマスクについて

 防じんマスクであればどんなものでもよいのかというとそうではありません。そこで、次の条文をご覧ください。

労働安全衛生法44条の2第1項(抄)

第四十二条の機械等のうち、別表第四に掲げる機械等で政令で定めるものを製造し、又は輸入した者は、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣の登録を受けた者(以下「登録型式検定機関」という。)が行う当該機械等の型式についての検定を受けなければならない。

 別表第四第5号に、「防じんマスク」が指定されています。すなわち、防じんマスクは、登録型式検定機関が行う型式検定(国家検定)を受けなければなりません。

 また、同法44条の2第5項には次のような規定があります。

労働安全衛生法44条の2第5項(抄)

型式検定を受けた者は、当該型式検定に合格した型式の機械等を本邦において製造し、又は本邦に輸入したときは、当該機械等に、厚生労働省令で定めるところにより、型式検定に合格した型式の機械等である旨の表示を付さなければならない。

 同条項の表示を、「型式検定合格標章」といいます。防じんマスクの「型式検定合格標章」は次のようなものです。

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 同法44条の2第7項の規定により、上記のような「型式検定合格標章」が付されていないマスクを使用してはなりません。

 なお、平成30年4月25日に、防じんマスクの規格の一部を改正する告示(平成30年厚生労働省告示第214号)が公布され、翌日、厚生労働省労働基準局長が通達基発0426第5号「機械等検定規則の一部を改正する省令の施行及び防じんマスクの規格の適用について」を発出しました。

アーク溶接はこんなにも危険な作業

 本件では、労働災害は発生していなかったのにもかかわらず、労基署が送検に踏み切りました。労基署が、同社の対応にそこまで怒ったのはなぜでしょうか。

 それは、防じんマスクを着用せずにアーク溶接の作業を続ければ、労働者が有害な粉じん(ヒューム)にさらされることにより、「じん肺」を引き起こす可能性があるからです。

じん肺とは

 厚生労働省の、「アーク溶接作業における粉じん対策」によると、「じん肺の新規有所見者は減少傾向にあるものの、依然として年間250人近くの新規有所見者が発生しており、そのなかでも金属製品製造業、機械器具製 造業を始めとして、アーク溶接作業に係る作業者の占める割合が約4分の1となっている状況」とのことです。すなわち、アーク溶接作業は、数ある粉じん作業のうち特に危険な作業です。

 厚生労働省は、アーク溶接作業によるじん肺の発症要因を次のように解説しています。 

アーク溶接のヒューム等の粉じんのうち、微細な粉じんは肺の奥深くの肺胞にまで入り込み、そこに沈着します。これらの粉じんを吸い続けると、肺内では、線維増殖が起こり、肺が固くなって呼吸が困難になります。これが「じん肺」です。じん肺になると、肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎等の病気にかかりやすくなり、また、かかった場合には治りにくくなるといわれています。

じん肺の初期にはほとんど自覚症状がありませんが、進んでくると息切れが起こり、せきやたんが出たりします。さらに進むと息切れがひどくなり、歩いただけでも息が苦しく、動悸がして仕事もできなくなります。今日吸い込んだ粉じんで明日すぐに発病するということではなく、長期間吸入し続けると、その後粉じん作業を離れてしまっても、数年あるいは10数年を経てじん肺が発症することがあります。

(出所:厚生労働省『アーク溶接作業における粉じん対策』2ページ)

まとめ

 このように、国家検定マスクを装着せずにアーク溶接による粉じんを吸い続けると、数年・10数年という長期間を経てじん肺が発症する可能性があります。じん肺は直ちに自覚症状は無いものの発症した場合歩いただけで呼吸困難に陥るという恐ろしい病気です。

 労働者をこのような危険に晒すことは決して許されず、直ちに事業活動を停止し、安全対策を施すべきでしょう。

 「直ちに影響がない」とか言って逃げ切ろうとする民主党のような真似は絶対に止めましょう。