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派遣労働者に事前面接を行うと派遣先に使用者責任が問われる

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はじめに

 労働新聞社の記事です。

 日産自動車㈱(神奈川県横浜市)に派遣されていた派遣労働者の加盟する労働組合が、同社に雇止めを不満とする団体交渉を求めた事件で、神奈川県労働委員会(盛誠吾会長)は、派遣先である同社の使用者性を認め、団交を命令した。自動車デザインにおけるスキルを確認するため、派遣前に過去の作品を提出させるなど事前面接を行っており、一定の使用者性を認めた。(参照元:『労働新聞社』2018.03.21)

 写真の吹き出しにある通り、直接雇わないのなら書類選考や面接はやめましょう。もちろんその対偶も真です。つまり、書類選考や面接をするのなら直接雇いましょう。

事前面接は違法行為

 次の条文をご覧ください。

職業安定法44条

何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。

 派遣労働者に事前面接を行ったり、派遣労働者の履歴書やスキルシートの送付したりすることを「派遣労働者の特定行為」といいます。 

 派遣先が派遣労働者を特定した上で派遣就業させれば、「労働者供給事業」を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令下に置いたことになります。派遣元が、当該特定行為に協力した上で派遣労働者を派遣することは、「労働者供給事業」に該当します。

 職業安定法44条によると、労働者供給事業を行った者も、その労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させた者も処罰の対象となります。したがって、特定行為に協力した派遣元も、特定行為を行った上で派遣労働者を自らの指揮命令下に労働させた派遣先も処罰の対象となります。

 職業安定法44条に違反した者は、同法64条の規定により、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処せられます。

 したがって、履歴書やスキルシートに基づく選考・事前面接等が派遣先によって行われ、現在当該派遣先の指揮命令下にある、または、かつて指揮命令下にあった派遣労働者は、直ちに最寄りの労働局に申告してください。労働局が行政指導を行った場合は、検察庁に刑事告発を依頼するか、派遣労働者自らが検察庁に刑事告訴することが肝要です。

 下記の記事に、労働局の担当窓口等詳細を記載しているのでぜひ参照ください。

www.mesoscopical.com

神奈川県労働委員会の決定について

 労働委員会とは、労働者が団結することを擁護し、労働関係の公正な調整を図ることを目的として、労働組合法に基づき設置された機関で、

  1. 中央労働委員会(国の機関)
  2. 都道府県労働委員会(都道府県の機関)

の2種類が置かれています。神奈川県労働委員会は、全国47都道府県に設置される都道府県労働委員会の一つです。

 労働委員会の機能にはいくつかありますが、このうち重要なのは、「不当労働行為事件の審査」です。本件もこれに該当します。

不当労働行為とは

 次の条文をご覧ください

労働組合法7条

使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。

一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。

二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。

三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。

四 労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第二十七条の十二第一項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。

 労働組合法7条に掲げる各号の一に該当する行為を、不当労働行為と言います。同条に定める通り、使用者は不当労働行為をしてはなりません。

 本件で問題になっているのは、同条第2号のいわゆる団交拒否です。

使用者責任について

 本件は、派遣先による雇止めを不服として派遣労働者の加盟する労働組合が、派遣先に団体交渉に応じることを求めた事件です。ところが、労働組合法上の使用者は、派遣労働者と雇用関係にある派遣元です。派遣労働者と派遣先とは何らの雇用関係がないため、本来ならば団体交渉に応じる責務はありません。

 ただしこれは、派遣先が派遣労働者の特定行為を行わず、かつ、労働者派遣契約を厳密に遵守していればの話です。

 事前面接を行ったり、労働者派遣契約に記載されていない業務命令をおこなっていたりしていれば、派遣先が事実上、派遣労働者の労働条件の決定に直接関与していたことになります。したがって、派遣先も使用者責任を問われることになります。

 事実、今回の事例も、派遣労働者の派遣就業前にデザインスキルに関する事前面接を行っており、神奈川県労働委員会は派遣先に対し、一定の使用者性を認め、団交命令を下しました。

 平たく言うと、労働者派遣法の立法趣旨から逸脱する行為を派遣先が行っていた場合、使用者責任が問われるということです。

 この点に関し、労働新聞社が次のような社説を書いています。大変秀逸な社説なので、ぜひとも一読されることをお勧めします。

www.rodo.co.jp

まとめ

 日産自動車に派遣されていた派遣労働者が雇止めにされ、それを不服として、当該派遣労働者が加盟する労働組合が日産自動車に団体交渉を申し入れたところ、同社が団交拒否しました。本件において重要なのは、事前面接を行っていたことを理由として、同社による団交拒否が不当労働行為と認定されたことです。

 したがって、派遣労働者の皆さん、事前面接を受けたら、派遣先に対し使用者責任を問うことができる場合もあるので、その時の様子をノートに克明に記録しておきましょう。

 ただし、ノートとはnotebookのことであってNOTEのことではありません。