はじめに
今回は、「送検事例をもとに、ブラック企業を検証しその対策を考える」の第7回目です。写真では年貢と書きましたが、実際には年貢ではなく残業代です。つまり、残業代はお上に支払うべきものではなく、労働者に支払うべきものを敢えてここで強調しておきます。
事件の概要
書類送検された企業:
あきた湖東農業協同組合
(秋田県南秋田郡五城目町)
≪平成29年3月13日送検≫
- 従業員が残業時間を記入して提出していた複写式の「伝票」を、幹部が毎月数枚間引きし、残業時間を過小にみせかけていた
- その結果、36協定違反の違法な残業を行わせていた上、残業代の一部も支払っていなかった
- 平成27年に一度是正勧告されたにもかかわらず、改善しなかった
- そのため、労基署は悪質性が高いとみて書類送検した
(違反法条:労働基準法32条)
(参照元:『労働新聞社』https://www.rodo.co.jp/column/10863/)
長時間労働から身を守る方法
今回の事例は、残業時間の過少申告ではなく、残業時間の記録の改ざんという極めて悪質な事例です。以前、パナソニックの事例をもとに長時間労働から身を守る方法について解説しました。下記の記事からポイントをまとめます。
長時間労働を抑制するための3つのポイント
- 毎日の残業時間をノートやメモ帳に記しておく
- 36協定の概念を理解し、自分が就いている業務について延長時間を把握する
- 毎月の給与明細を確認する
これら3つのポイントを念頭に入れていれば、今回のような被害は防げたかもしれません。 今回のように、使用者が残業時間を過少に改ざんしてしまうことに備えて、毎日の残業時間を自分自身でも記録しておくことが重要です。併せて、毎日の始業・終業時刻も自分で記録しておくとよいです。
36協定違反について
今回の事例では、36協定違反が見られました。記事によると、この事業所の36協定における延長時間は1日6時間・1か月45時間となっています。自らの残業時間が、これら延長時間の限度を超えた時点で、それ以上の残業をする法的履行義務が消滅します。もし事前にこれらの数字を知っていれば、ノートの記録をもとに違法な残業が防げたはずです。したがって、②の36協定の延長時間を把握することが何より重要なのです。
また、そもそも36協定が事業所で締結されていない場合は、法定労働時間を超える労働をする法的履行義務が全くありません。つまり、一切残業をする必要がありません。ここで、法定労働時間とは、1日8時間・週40時間のことです。事業所に36協定が存在しない場合は、法定労働時間を超えたら、使用者から残業の指示を受けても帰宅するようにしましょう。
残業代について
今回のケースでは、36協定違反に加え、残業代の一部についても支払われていなかったようです。使用者が残業代を支払わないという行為(賃金不払い残業)は、違法行為です。給与明細は、残業代が正当に支払われているかどうかを確認する証拠にもなりますので、ちゃんと残しておきましょう。
まとめ
今回は農協の事例です。農協というと農家の方が作ったお米も取り扱っていることでしょう。稲作において豊作の年と不作の年があるのと同様に、資本主義社会において業務の繁閑があるのは当たり前のことです。記事には、本件に関する労基署のコメントとして、「長時間労働は業務量が多かったためであり、仕事量の調整や人員増加といった対策を講じなかった」ということが記載されていました。
「今年は実りがいいなあ⤴」と言う暇があったら、人を雇うべきでしょう。