はじめに
今回は、「送検事例をもとに、ブラック企業を検証しその対策を考える」の第8回目です。本来健康を増進させるべき温泉旅館で、実に不健康な事件が起きました。
事件の概要
書類送検された企業:
黄金崎不老不死温泉(青森県深浦町)
≪平成29年4月14日送検≫
- 36協定を締結せずに、従業員23人に違法な時間外・休日労働をさせていた
- 1か月の時間外・休日労働は最大約161時間
- 22人分の時間外労働の割増賃金計約350万円を支払わなかった
- 平成27年に一度是正勧告されたにもかかわらず、改善しなかった
- そのため、労基署は悪質性が高いとみて書類送検した
(違反法条:労働基準法32条・37条)
(参照元:『河北新報』)
週法定労働時間について
労働基準法32条は、1日8時間・週40時間を超えて労働させてはならないと規定しています。但し、常時10人未満の労働者を使用する次の①~④の業種においては、1週間の法定労働時間は44時間となっています。
- 商業
- 映画・演劇業(映画の製作事業を除く)
- 保健衛生業
- 接客娯楽業
温泉旅館は4に該当しますが、報道の通り、不老不死温泉は常時使用する労働者が10人以上ですので、週法定労働時間は原則通り40時間となります。
36協定について
不老不死温泉では、36協定が締結されていませんでした。この場合、一切の残業が認められません。したがって、従業員に1時間でも時間外労働をさせたら労働基準法違反です。
賃金不払い残業について
36協定を締結しない違法な時間外労働であっても、法定労働時間の超過労働分については、割増賃金を支払わなければなりません。不老不死温泉では、22人分の割増賃金を支払っていなかったため、労働基準法37条違反になります。
まとめ
労働基準法106条は、使用者は36協定等を労働者に周知させなければならないと規定しています。
労働基準法106条第1項
使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、~中略~第三十六条第一項~中略~に規定する協定~中略~を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
条文の第三十六条第一項に規定する協定が36協定を意味しています。また厚生労働省令で定める方法には次の3通りがあります。
- 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
- 書面を労働者に交付すること。
- 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
したがって、自分が勤務する会社の36協定の内容を、上記1~3のいずれかの方法で必ず確認しましょう。 温泉旅館の社長さん、いくら不老不死と銘打っても、書類送検されたら一気に老化が進んでしまうので気を付けましょう。