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トヨタはテスラと縁を切ったがパナソニックはテスラと仲が良い理由

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はじめに

 古賀さん、この記事最高ですね。

dot.asahi.com

 決して大手メディアが伝えようとしない真実を忌憚なく伝えています。とは言っても、この記事はAERA.dotという朝日新聞系の雑誌に記載されています。

 朝日新聞さん大丈夫でしたか?電通経由で、トヨタから圧力はありませんでしたか?

と、読者が余計な心配をしなければならないというメディア構造は即刻改めてもらいたいですね。

日経新聞記事のニュアンスをわずか12時間で変えてしまうトヨタのメディア戦略

 みなさんは、日本で一番宣伝広告費を使っている企業がどこかご存知でしょうか?

 トヨタです。年間4890億円の広告宣伝費を投じています。

toyokeizai.net

 必然的にメディアに与える影響力も絶大なものになります。古賀さんは、トヨタがテスラ株をすべて売却したことを報じた日経記事のニュアンスがわずか半日で一変してしまったことを指摘しています。そして、古賀さんは、トヨタのテスラ株売却について次のように分析しています。

 普通に解釈すれば、EV開発で先行するテスラに出資して保険をかけていたトヨタが、結局テスラの事業が成功するにつれて相手にされなくなり、電池の供給まで止められ、まったくメリットが無くなったので、やむを得ず株を売ったということになるだろう。

 筆者もこの分析は正しいと思います。理由は、トヨタとテスラの間にはかつて次のような経緯があったからです。

テスラ株の売却について

話はトヨタとGMとの合弁事業まで遡る

 話は遡りますが、今から30年以上前の1984年、トヨタはGMとNUMMIとよばれる合弁会社を設立しました。NUMMIは、GMが閉鎖したカリフォルニア州フリーモントの工場を譲り受け、1984年12月より本格的に生産を開始していました。ところが、リーマンショック直後の2009年、GMの破産に伴いトヨタとGMとの合弁事業の解消が発表されました。その結果、フリーモントの工場は、閉鎖状態になっていました。

トヨタとテスラの業務提携へ

 そんな中、2010年5月20日、トヨタがテスラ株を買い取る形で両社の業務提携が始まりました。トヨタはテスラとの業務提携に伴い、閉鎖となっていたフリーモントの工場で、EVの共同開発・生産を始めることになりました。EVパワートレイン部はテスラが開発し、トヨタは既存モデルをベースに車体部分を担当することになりました。こうして、両社は、トヨタが販売していたRAV4にテスラのEV技術を搭載した電気自動車「RAV4EV」の開発・販売に至りました。しかし、実際には販売が振るわず、両社の企業文化の確執等もあり、2014年、共同プロジェクトはわずか4年で終了してしまいました。

共同プロジェクトがポシャってから、トヨタはFCVへと大きく舵を切る

 以降、トヨタはEV開発に距離を置くようになり、環境対応車として燃料電池車(FCV)の開発に大きく身を乗り出すようになりました。しかしその間、環境対応車の世界的潮流はどんどんEVへと傾いていきました。トヨタもこの流れには看過できなくなり、2016年ついに、FCVとの両にらみで、EVの開発に乗り出すことを発表しました。

 一方、設立当初から首尾一貫してEV開発に注力していたテスラの時価総額は、その間にうなぎ上りに上昇していき、2017年の4月、ついにGMを追い抜き、時価総額で全米首位の自動車メーカーに躍り出ました。

www.bloomberg.co.jp

 上記のような経緯があったため、トヨタはテスラから次第に相手にされなくなり、全株式を売却せざるを得なくなったものと解釈できます。したがって、古賀さんの指摘はとても鋭いのです。

イーロン・マスクは稀代の天才

 しかし、共同事業の売り上げ不振があったからと言って、あの稀代の天才経営者イーロン・マスクと縁を切ったのは非常に勿体なかったと思います。

 イーロン・マスクは、テスラだけでなく、別の会社も経営しています。とりわけ有名なのは、SpaceX社という、宇宙輸送サービスの会社です。2017年3月30日、SpaceX社は、打ち上げ後に回収したロケットを再度打ち上げ、世界初となる洋上での再回収に成功しました。これにより、宇宙輸送コストが従来の100分の1になることが期待されています。

水素社会など来てもらっては困る

 トヨタは、テスラとの業務提携を解消し、2014年に初の量産型燃料電池車ミライを発表しました。一方で、イーロン・マスクは、「水素社会など来ない」と言って、燃料電池車にミライは無い事を声高に主張するようになりました。

 しかし、古賀さんも指摘するように、エコカー開発の世界的潮流は明らかにEVです。

www.mesoscopical.com

 エコカー戦略のかじ取りを大きく見誤った経営者の罪は大きいですね。でも、国民にしてみれば、燃料電池車のミライが無くなったことで、水素インフラ整備に多額の税金が無駄に投入されることを回避できてよかったと思います。やはり、既存インフラで十分対応できるEVを時代は明らかに要請しているのです。

プリウスPHVの電動航続距離はわずか68km

 みなさんは、PHV(プラグインハイブリッド車)を知っていますか?これは、従来のハイブリッド車(HV)に外部充電ポートが兼ね備えられていて、電動(EV)モードでも走行できるという代物です。

 今年から、米カリフォルニア州では、ZEV規制と言って排ガス車の規制が大幅に強化されます。これにともない、今年の秋モデルから、ハイブリッド車が排ガスゼロ車の対象から外されます。PHVは航続距離が短いとはいえ一応電動モードのみで走行が可能なため、ZEV規制における排ガスゼロ車の対象からは外されていません。そこで、トヨタが開発したのが、プリウスPHVです。

 しかし、よく考えてみてください。わざわざ外部から充電できるのであれば、EVで十分ですよね。PHVは言わば、ハイブリッド車と電気自動車とのハイブリッドのような車です。PHVを購入した人が、電動モードのみで走行するでしょうか。結局、近くのガソリンスタンドまで行って、ガソリンを充填し、HVモードで走行することになると思います。消費者からすると、複雑この上ない代物です。その分車体価格も高くなるし、ガソリンエンジン搭載スペースを確保しなければならないので、電池をそんなに載せられなくなりますよね。したがって、プリウスPHVの電動航続距離が68kmとショボくなるのは当たり前なのです。(*注:中国BYD Autoが開発したPHV「F3DM」は、電動モードの航続距離が約96kmとプリウスPHVよりはマシです。それでも、中国国内ではほとんど売れていないようです。)

 筆者は、少し前のガラパゴスケータイを思い出しました。複雑な機能ばかりついていて、使いにくいことこの上ないんですよね。このマーケティング戦略の失敗によって、比較的シンプルな構造を望む外国人には全く受けませんでした。PHVはこの再来を見ているかのようです。

68kmは日本橋から東海道五十三次の何番目の宿場までか

 68kmとは、江戸日本橋から東海道を下ってちょうど平塚宿(東海道五十三次の7番目の宿場)の辺りまでです。江戸時代の飛脚で1日にもっと長い距離を走る人も中にはいたのではないでしょうか。フルマラソンや50km競歩に少し毛が生えた程度。なお、比叡山延暦寺の千日回峰行では、全行程84kmを一日で廻る京都大回りという修行があります。プリウスPHVが電欠で止まっても、京都の阿闍梨さんは、まだ先を歩くことができるのです。

高校球児が甲子園で泣くのは美しいが、経営者が株主総会で泣くのは美しくない

 古賀茂明氏は、トヨタの株主総会における豊田章男社長の様子を次のように伝えています。

 総会最後の豊田章男社長の締めの言葉は、「株主からの応援にも近い質問にこみあげるものがあったのか、涙ぐみながらの挨拶となった」そうである。

 高校球児が甲子園で敗戦を喫した時、甲子園の砂を持ち帰りますよね。涙をぬぐいながら、甲子園の砂をかき集めている姿。非常に美しい光景ですよね。負けた方にも、よく頑張ったと称えたい気持ちになります。しかし敗戦チームの監督が、マスコミのインタビューを受けながらメソメソするでしょうか。智将ならば、敗戦の要因を終始冷静沈着に分析するはずです。ちなみに、章男社長のボンボン経営については、下記記事参照を。

biz-journal.jp

何でもかんでもエコカーと称して税金を無駄遣いするな

 古賀さんが指摘するように、自動車業界への経産省の役人の天下りは有名な話ですよね。エコカー減税は経済産業省が取り仕切っています。天下り官僚の生活保障のために国民の税金を蔑ろにするのはやめてもらいたいですね。

 古賀さんによると、2016年度までは、新車の9割が「エコカー」減税の対象となっていたそうです。これでは、事実上、国民の税金が自動車業界に還流しているのと同じです。自動車を必要としないあるいは欲しいとも思わない国民が多数存在するのに、この人たちに何と説明するのでしょうか。逆に、日本でエコカーとされなかった車はいったいどんだけ排ガス出しとんねんって感じです。

 また、このような制度は大局的に見ると日本の産業振興も損ないます。こうやって、経産省の天下り役人が元職場と結託して、護送船団方式で業界を守ろうとするから開発スピードが遅れるんです。これでは競争が損なわれ、とても世界に伍して渡り歩くことはできません。

 人件費が安く、為替レートも有利に働いていた高度経済成長期だったら、護送船団方式によって競争を抑制し、安価でそこそこの性能のものを大量生産していればある程度対応できたでしょう。しかし、今はそういうわけにもいきません。そうこうしているうちに、やっと昨年になりトヨタがEV開発にも乗り出すと発表しました。しかし、世界の他の自動車メーカーに比べれば、何周も周回遅れしてしまい、もはや時すでに遅しですね。

トヨタと対照的なパナソニックの先見の明

 これと対照的なのがパナソニックです。パナソニックは、家電業界と親和性が高いものとして電気自動車の将来性にいち早く着目し、電気自動車用の電池セル生産事業を成長産業として位置付けました。そして、2009年、パナソニックは、テスラと業務提携契約を交わしました。さらに、2014年にはパナソニックは、ギガファクトリーと呼ばれる大規模電池工場の建設にもテスラと合意し、現在は本格的な稼働が始まっています。また、2016年末には、パナソニックは、テスラと、太陽光パネル事業でも提携すると発表しました。

www.nikkei.com

 さらに今年初め、自動運転分野においても、パナソニックはテスラと提携拡大を検討しているとの報道がなされています。

www.nikkei.com

 このように、パナソニックは、テスラとの業務提携をどんどん深化させています。

まとめ

 パナソニックはもともと社名が今とは違っていました。2008年10月1日をもって社名を「松下電器産業株式会社」から「パナソニック株式会社」に変更しました。社名から、「松下」という文字が消えたわけです。社名変更の決断をするにあたり、大坪社長(当時の社長)は、幸之助語録をむさぼるように読み漁ったそうです。すると大坪社長は、松下幸之助の次のような言葉が出てきたと雑誌インタビューで語っています。

「グローバルな経営には松下という社名とナショナルというブランドはわかりにくいんじゃないか」

「いずれそういう時がきて必要であれば、社名を変えるのは意に介さない」

 当時松下幸之助は、役員に、「存命中に社名変更というようなことをいずれやる時がくるだろう」とも話していたそうです。さすが経営の神様、経営のためには社名から自分の名前が消えても良いとおっしゃる。 

 しかし、トヨタ自動車の社名からトヨタの文字が消えることは恐らくなさそうですね。