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広告業界のガリバー電通が一寸法師になっても鬼十則を退治できる

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はじめに

 先日、次のような記事を投稿しました。 

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 それから8日経過しましたが、電通の指名停止処分について明らかになったのは、次の通りです。

経済産業省

経済産業省が、労働基準法違反で略式起訴された電通を来月10日までの1カ月間、イベントの入札に参加できなくなる指名停止にしたことが12日、分かった(参照元:『産経新聞』2017.07.12)。

厚生労働省

厚生労働省は13日までに、大手広告代理店の電通(東京都)を来年1月6日まで6カ月間の指名停止とした。処分は7日付(参照元:『時事ドットコムニュース』2017.07.13)。

大阪府・大阪市

大阪府は14日、電通を8月13日までの1カ月間、入札参加停止とすると発表した。停止期間中は各部局ごとに結ぶ随意契約も禁止する。また、大阪市も12日から8月11日まで1カ月の入札参加停止の措置とした(参照元:『産経新聞』2017.07.14)。

佐賀県

佐賀県は14日、労働基準法違反の罪で略式起訴された広告大手の電通(本社・東京)を18日から1カ月間の入札参加停止にした(参照元:『佐賀新聞』2017.07.15)。

それぞれの指名停止について考える

経済産業省について

 経産省の処分は、空気どころか水素くらい軽い処分としか言いようがありません。自動車の動力源としての水素はもはや必要なくなりましたが、電通に対する水素のように軽い処分も国民は望んでいません。

厚生労働省について

 厚生労働省の処分(指名停止期間6か月)も軽すぎます。そもそもこの事件、厚労省の捜査から始まったのではないでしょうか。水素ほどでないにせよ、まさに空気と言ってもいいような処分内容です。因みに、労働基準法違反の最高刑は、懲役10年です。筆者は、これと同じ10年くらいが妥当ではないのかと思っていました。

地方公共団体について

 厚生労働省の処分が明るみになってから、大阪府・大阪市・佐賀県と、電通に対する処分内容が次々と明るみになりました。いずれも、入札参加停止1か月という内容です。やはり、厚生労働省の処分が甘かったことが影響しているのではないでしょうか。厚生労働省が10年くらいの処分を決定していれば、均衡を考慮して、もう少し厳しい処分になっていたのではないでしょうか。

電通の独立監督委員会について

 2017年2月14日、電通は次のような記者発表を行いました。

 電通は十四日、新入社員の過労自殺問題を受け、労働環境改革に関する独立監督委員会を二十八日付で設置すると発表した。

 委員会は、検察庁出身の弁護士や厚生労働省元局長ら3人で構成。社外取締役には元労働事務次官の松原亘子氏が新たに就く。

 ヤメ検、厚労省元局長、元労働事務次官…。随分と錚々たるメンバーを選びましたね。でも、天下りばっかりです。これは、今もちゃんと機能しているでしょうか。筆者は、こういう非独立組織が今回の空気のような厚労省の処分に何らかの影響を与えているのではないかと勘ぐってしまいます。やっぱり、過労死遺族や過労で電通を辞めた人など電通から被害を受けた人を委員に加えてこそ、真の「独立監督委員会」と言えるのではないでしょうか。

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そもそも検察の略式起訴はどうだったのか

 電通が略式起訴されたことに対し、東京簡裁が、略式不相当と思料し、公開形式による裁判を開くことを決めました。NHKなどは、これを異例の対応などと報じていますが、実は珍しくも何ともなく最近の傾向なのです。最近、大阪簡裁では、労働基準法違反などの罪で検察が略式起訴したことに対し、「略式不相当」と思料するケースが増えてきています。

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 具体的には、スーパー玉出(2016年11月1日)、サトレストランシステムズ(2017年3月6日)、コノミヤ(2017年3月21日)のケースがあります。なお、括弧内は、裁判所が略式不相当として公開裁判を開くことを決定した日です。いずれもここ最近のケースです。したがって、東京でどのような判断が下されるか注目が集まっていました。東京簡裁の裁判官が良識のある人で良かったと思います。

公開形式の裁判の場合、法人の代表者が出廷しなければならなくなる

刑事訴訟法27条第1項

被告人又は被疑者が法人であるときは、その代表者が、訴訟行為についてこれを代表する。

 一連の電通事件において、検察から略式起訴をされたのは、個人(自然人)ではなく、電通という会社そのもの(法人)です。したがって、被告人は電通です。今回、東京簡易裁判所が、略式不相当として、公開形式による裁判を開くことを決めました。したがって、被告人は裁判所に出廷しなければならないことになります。しかし、まさか電通という会社が歩いて裁判所に行くわけにはいきません。この場合は、法人の代表者が、代表として裁判所に出廷しなければならなくなります。

 現在、電通の代表者は、山本敏博 代表取締役社長と他2名です。電通事件で今後注目すべき点は、裁判で山本社長が何を述べるかです。果たして、電通の山本社長は、被告人質問においてどのような反省の弁を述べるでしょうか。

ガリバーが一寸法師になっても構わない

 経済産業省といい、厚生労働省といい、電通に対する行政処分としてはあまりにも軽すぎると思います。特に、厚生労働省の6か月という軽い処分は、他の官公庁に対して示しが付かず、「厚労省ですら6か月なら、うちはもっと軽くしておこうか…」ということが今後も続きそうです。筆者は最低でも3年、そして10年くらいが妥当と思っていました。

 「それではとても雇用が維持できない」という異論が直ちに出てくると思いますが、仕方ありません。オリンパス然り、東芝然り、最近企業の不祥事が相次いでいます。企業イメージの失墜に繋がり、売り上げの大幅ダウンにも繋がりました。しかし、ブラック企業に勤める従業員が業績の良い他社にスムースに労働移動できないことの方がもっと問題なのです。終身雇用の名のもとに、一つの企業に一蓮托生し、ずっと我慢し続ける必要はないのです。

まとめ

 御伽草子に出てくる一寸法師は、最初は体長一寸(約3cm)くらいの小さな子供でした。ところが、鬼を退治し、鬼から打ち出の小槌を得て、六尺(約180cm)くらいまで成長したといいます。 

 広告業界のガリバーも、一寸法師のように一旦小さくなって、鬼十則を退治してから再び大きくなっても構わないのではないでしょうか。