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厚労省からブラック企業と疑われた企業の何%が法律に違反していたか

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はじめに

 平成29年5月10日に厚生労働省がホームページ上で、ブラック企業リストを公開しました。このリストには、労基署からの是正勧告にも耳を貸さず改善しない、重大な労働災害を引き起こしたなどの理由で、書類送検された334の企業名が公開されています。

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 労働基準関係法令の違反で書類送検されるような企業はブラック企業中のブラック企業です。

 労働基準法や労働安全衛生法などに違反し労基署から書類送検されることはもとより、是正勧告を受けている時点でブラック企業であると筆者は考えます。そこで、ここでは労基署から是正勧告された企業のことをブラック企業と定義します。下記の記事において示したように、是正勧告事案まで含めれば書類送検によって社名公表に至った事案の100倍まで数が膨れ上がります。

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 今回は、是正勧告事例について、詳しく考えます。

過重労働解消キャンペーンについて

  平成28年11月、厚生労働省は、「過重労働解消キャンペーン」を実施し、ブラック企業の疑いのある企業に対し重点的な監督を行いました。「ブラック企業の疑いのある企業」は次の通りです。

  1. 長時間労働による過労死に係る労災請求が行われた事業場
  2. ハローワークや労働基準監督署に寄せられた相談を端緒にブラック企業の疑いのある企業(多くの労働者からハロワや労基署にブラックだと苦情のあった企業

 1については、過労死を引き起こしたのですから、法違反の疑いがかけられるのは当然です。一方、2については、多くの労働者からの苦情と労働基準関係法令違反との相関性がどれくらいあるのかが非常に興味深いところです。そこで、全国の労基署が、1・2の企業に対し、実際に法違反が認められるかどうかを確かめるために重点監督を実施したわけです。

過重労働解消キャンペーンにおける重点確認事項

 労働基準関係法令はたくさんありますが、過重労働解消キャンペーンでは長時間労働の解消が目的なので、重点確認事項として次の4つに絞られています。

  1. 時間外・休日労働が時間外・休日労働協定(36協定)の範囲内であるか
  2. 賃金不払残業(いわゆるサビ残)がないか
  3. 不適切な労働時間管理がないか
  4. 長時間労働者については、医師による面接指導等、健康確保措置が着実に講じられているか

重点監督の実施結果はどうであったか

 平成29年3月、厚生労働省は、「過重労働解消キャンペーン」の重点監督の実施結果を公表しました。平成28年度の過重労働解消キャンペーンでは、7,014事業場に対し重点監督を実施しました。このうち4,711事業場(全体の 67.2%)で労働基準関係法令違反が認められ是正勧告書が交付されました。すなわち、標題の問いの答えは、67.2%です。

 厚生労働省がブラックだと疑いをかけた企業の多くは、ハロワや労基署に寄せられた多くの労働者からの苦情に基づいています。しかし、ほとんどの労働者は、労働基準関係法令について詳細を知らないと思います。にもかかわらず、67.2%は驚異の数字だと筆者は思います。つまり、何となくこの会社はブラックだなという労働者の感覚と、実際にその会社が法違反を犯していることとはかなり相関性があるのです。

監督結果をもう少し詳しく見てみよう

 厚生労働省は、労働基準関係法令の違反により是正勧告した4,711事業場のうち、具体的にどのような法違反があったのかの状況についても公開しています。

 主な違反事項として、

  1. 労働時間
  2. 賃金不払い残業
  3. 健康障害防止対策

の3つを挙げています。以下、それぞれについてみていきます。

1.労働時間について

 労働基準法32条違反の件数です。具体的には、36協定で定める限度時間を超えて時間外労働を行わせていたものなどの件数です。全体の39.5%にあたる2,773事業場が同条違反を犯していました。

2.賃金不払い残業について

 労働基準法37条違反の件数です。具体的には、賃金不払い残業が認められた件数です。全体の6.5%にあたる459事業場が同条違反を犯していました。

3.健康障害防止対策について

 労働安全衛生法18条・66条・66条の8違反の件数です。全体の10.4%にあたる、728事業場で、同条違反を犯していました。

 労働安全衛生法18条は、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに衛生委員会の設置を事業者に義務付けています。衛生委員会では、次の事項を調査審議し、事業者に意見を述べることとされています。

  1. 労働者の健康障害防止対策
  2. 労働者の健康増進対策
  3. 労働災害の原因及び再発防止対策で、衛星に係るもの
  4. その他重要事項

 衛生委員会は、毎月1回以上開催しなければなりません。したがって、常時50人以上の労働者を使用する事業場において衛生委員会を設置していない、あるいは設置していても月1回以上開催していないと、労働安全衛生法18条違反となります。

 労働安全衛生法66条は、事業者が労働者に対して各種健康診断の実施を義務付けています。健康診断には、一般健康診断・特殊健康診断・都道府県労働局長の指示による臨時の健康診断があります。これらの実施を怠ると、同条違反となります。

 労働安全衛生法66条の8は、月100時間を超える時間外・休日労働を行った労働者が申し出れば、医師による面接指導の実施を使用者に義務付けています。これを怠ると、同条違反になります。

 衛生委員会の実施・健康診断・医師による面接指導これらは全て労働者の健康にかかわることです。したがって、健康障害防止対策の関連条項に違反する企業は、労働者に対する健康管理意識が希薄な企業ということになります。

労働時間の管理方法について

 厚生労働省のガイドラインは、労働時間管理について、①使用者自らが現認する・②タイムカードまたはIC、IDカードを基礎とするのいずれかが望ましいと定めています。労働時間管理について自己申告制を採用している企業では、長時間労働の実態が把握しづらくなる可能性があり、注意しなければなりません。そのため、重点監督指導では、事業場における労働時間の管理方法の調査も行われました。

 その結果は下のグラフの通りです。

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 ブラック企業の疑いのある企業においては、労働時間の把握方法として、30%が自己申告制を採用しています。筆者はこれを決して低くない数字だと思いますが、皆さんはどう考えますか。

まとめ

 このように、労働者の情報提供に基づき、厚生労働省が監督したところ、実に70%近い企業に法違反が認められました。たった1か月間の重点監督で4,711もの事業場が是正勧告されたのですから、実際にはおびただしい数のブラック企業が日本に存在することが容易に想像できます。ブラック企業リストに記載された334の事例は氷山のほんの一角に過ぎないこともこの事実が示しています。

 したがって、ブラック企業を撲滅するためには、労働者の情報提供が最も重要なのです。情報提供の方法は、次の記事に詳細を記載しています。

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 少しでもおかしいと思ったら、ブラック労働の実態を労働基準監督署に遠慮なく申告すべきです。申告監督の件数が増えれば、効率的にブラック労働の撲滅に繋がることが、今般の重点監督によって示されたのです。