はじめに
平成29年5月10日より厚生労働省は、ブラック企業リストを公開しています。ブラック企業リストは、平成28年12月26日開催の第4回長時間労働削減推進本部でとりまとめられた「『過労死等ゼロ』緊急対策」の決定事項に基づくものです。 同推進本部は、過労死等ゼロを目指す取組強化の一環として、労働基準関係法令違反に係る公表事案を厚生労働省本省及び都道府県労働局のホームページに一定期間掲載することを決定しました。 労働基準関係法令とは、労働基準監督署が所管する法令を意味します。具体的には、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、じん肺法、家内労働法、賃金の支払の確保等に関する法律などの法律を指します。
従来は、労働基準関係法令違反に係る公表事案を、全国47都道府県の労働局ホームページに掲載していました。しかし、各都道府県労働局によって掲載基準がまちまちで、社名を公表する場合もあれば、社名を伏せている場合もありました。筆者の印象では、大阪労働局は企業名を公表した上で、送検事案をホームページに積極的に記載していたと思います。今回、厚生労働省本省が公表したリストは、労働基準関係法令違反による送検事案について都道府県労働局ごとに、わかりやすく表にまとめられています。
ブラック企業リストについて
リストを見た印象
厚生労働省は公式には、「ブラック企業リスト」のことを「労働基準関係法令違反に係る公表事案」と言っています。平成30年6月29日現在、平成29年6月1日から平成30年5月31日までの1年間に労働基準関係法令違反で書類送検された事案が同リストに掲載されています。
厚生労働省によると、送検事案だけでなく局長指導事案についても本省および局のホームページで公表するとしています。局長指導事案とは、複数の事業場を有する社会的に影響力の大きい企業(いわゆる大企業)において、違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた場合、労働局長が企業の経営トップに対し指導し、その旨を公表した事案のことです。下記は、局長指導について詳細を書いた記事です。ぜひ参考ください。
リストの掲載内容・掲載期間について
掲載内容は次の6点です。
- 企業・事業場名称
- 所在地
- 公表日
- 違反法条項
- 事案概要
- その他参考事項
厚生労働省によると、掲載期間は公表日から概ね1年間とし、毎月ホームページで更新していくとしています。つまり更新の際1年以上経過したものは、ホームページから削除されていきます。
さらに、公表日から概ね1年以内であっても、
- 送検事案において、ホームページに掲載を続ける必要性がなくなったと認められる場合
- 局長指導事案において、是正及び改善が確認された場合
は、速やかにホームページから削除するとしています。
つまり、ブラック企業リストはアーカイブ化されないので、みなさんは絶対に見逃さないように毎月厚生労働省のホームページを確認しましょう。
リストの中の注目企業
リストのうち、筆者が注目した企業をいくつかピックアップします。これまでに本サイトで記事にした事例も含まれているので、参考ください。
①電通
②パナソニック
③コノミヤ
④日本郵便
⑤森永乳業
毎日新聞は肝心なことをちゃんと読者に知らせよう!
毎日新聞も、厚生労働省による送検事例公表事案のホームページ掲載について報道しました。
しかし、毎日新聞の記事では肝心なことがひとつ抜け落ちています。ブラック企業リストのURLです。そこで筆者は、同リストのURLを示します。
ブラック企業リストURL
このリストを一人でも多くの人に見てもらわなくては意味がありません。毎日新聞は、同リストのURLをちゃんと報道しましょう。
まとめ
今まで各都道府県労働局が別々に公表していた送検事例を厚生労働省本省がリストにまとめ公表したことは、ブラック企業撲滅のために一歩前進したと言えるでしょう。しかし、このリストに記載された企業はブラック企業のほんの一部にしか過ぎません。
通常、労働基準関係法令違反を確認するためには、全国の労働基準監督署が臨検と呼ばれる立ち入り調査を行わなければなりません。臨検によって違反の事実を確認したら、監督署は通常、当該違反事実の是正勧告を一旦行います。是正勧告しても一向に改められず法令違反を繰り返せば、監督署は司法処分(書類送検)の手続きを始めます。
労働基準監督署による臨検には、次の2通りがあります。
- 定期監督によるもの
- 労働者の申告によるもの
臨検を行うことができる労働基準監督官の絶対数は全国で不足しています。定期監督によって、全国の事業所全部を監督官が訪れ、法令違反の事実がないか検査するためには何十年と時間がかかってしまいます。法令違反の事実を確認するためには、労働者の申告によるものが効率的なのです。
労働基準法104条
事業場に、この法律又はこの法律に基づいて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。
2 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。
このように、労働者による申告は、労働基準法104条1項が規定する労働者の権利です。 しかし、平成27年中の監督実施件数169,236件のうち申告監督は22,312件と、全体の約13%にしか過ぎません。監督官が効率的に臨検を実施するためには、申告監督の件数を過半数にする必要があるでしょう。そのために、働く人ひとりひとりが監督署に違反事実をどんどん報告する必要があるのです。
同条2項は、使用者が申告したことを理由として労働者に対して不利益な取り扱いをすること禁止しています。よって、労働時間が長い・残業代が出ない・休日がないなど何か少しでもおかしいと思ったら安心して監督署に相談しましょう。
つまり、ブラック企業リストを作り上げるのは厚生労働省でもマスコミでもなく、労働者である皆さんひとりひとりなのです。