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過重労働撲滅特別対策班(かとく)は驚異的な起訴率を誇っている

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はじめに 

 厚生労働省東京労働局が20日、電通の山本社長から任意で事情を聴取していたことがわかりました。厚生労働省は愛知・京都・大阪の3つの支社における労働基準法違反容疑について、法人としての電通と幹部を近く書類送検する方針です。

電通に対する捜査は終結するのか

 報道では、「一連の捜査を終結する」という言葉が出てきます。しかし、終結するのは、あくまでも厚生労働省による捜査です。電通に対する捜査自体はまだ終結していません。検察による捜査がまだ残っているからです。

労基署が書類送検したらどうなるのか

 労基署からの書類送検を受けて、検察の捜査によって起訴・不起訴の判断がなされます。では、労基署が書類送検した場合、どれくらいの事案が起訴されるのでしょうか。

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 平成27年の場合、起訴率は42.5%となっています。そして、検察が起訴した場合、裁判所で有罪と認定される率(有罪率)は、100%です。したがって、電通が起訴されるのかどうかが最も注目すべきことなのです。

過重労働撲滅特別対策班(通称かとく)

 先ほどの起訴率は、全国の労働局・労働基準監督署が行った書類送検の起訴率です。電通本社の立件に関しては、過重労働撲滅特別対策班(通称かとく)が深く関与しています。「かとく」は、過重労働の撲滅に全力で取り組む専門組織として、2015年4月1日に東京労働局と大阪労働局において発足しました。発足時、東京に7名・大阪に6名の労働基準監督官が「かとく」に配属されました。ところが、「かとく」は、これまでの全国平均と比べ、驚異的な起訴率を誇っているのです。

かとくのこれまでの送検事例 

 昨年の10月20日時点で、「かとく」が書類送検したのは、東京が2件で、大阪が3件の計5件です。このうち4件が起訴に至っています。すなわち起訴率は80%です。「かとく」による送検事例の母数が少ないので、一概には言えませんが、42.5%という数字に比べれば80%は驚異の数字だと筆者は思います。

 大阪労働局の「かとく」がコノミヤを書類送検した2016年10月20日から約2か月後の同年12月28日に東京労働局の「かとく」が電通を労働基準法違反容疑で書類送検しました。東京労働局の「かとく」が書類送検した労働基準法違反事件は、電通の前に2件ありますが、いずれも起訴に至っています。

 「かとく」発足から2016年末までの「かとく」による送検事例を次表にまとめます。

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裁判所はどう判断するか

 労働基準法違反などの労働事件においては、通常は検察は略式起訴をおこないます。略式起訴を受け裁判所は有罪か無罪かの判断をしますが、有罪と認定した場合、裁判所は罰金などの略式命令を下します。

 ところが、最近、労働基準法違反などの罪で検察からの略式起訴を受け、裁判所が、「略式不相当」として、通常の公開形式による刑事裁判を開くケースが相次いでいます。特に、大阪簡易裁判所においてそのようなケースが増えています。したがって、検察がもし電通を略式起訴した場合、裁判所がどのような判断を示すかが次に注目すべき点でしょう。

まとめ

 4月24日時点で、電通3支社の労働基準法違反容疑について厚生労働省が書類送検をまだ行っておらず、電通事件に対する検察庁の対応も決定していません。これほど大規模かつ長期間にわたる捜査を必要とした電通事件に対し、検察庁が今後どのような対応を取るのか注目に値します。しかし、電通一社を書類送検・起訴したところで、全国に蔓延する長時間労働の問題が解決するはずもありません。

 電通事件は、人々に過労死や長時間労働の問題について深く考察するきっかけを与えたという点においては、一つの重要な出来事です。しかし電通事件が終結した後も、日本が長時間労働に至りやすい構造的な問題はいったいどこにあるのかについて引き続き議論していかなければなりません。さもなくば、結局は何も変わらなかったという結果に陥りかねません。