- はじめに
- ウィンドウズ2000とは?
- なぜ「ウィンドウズ2000」が生まれるのか?
- 50代の過払い給与は若い頃に積み立てた分を引き出しているのではない
- 年功序列賃金制は終身雇用を正当化するための賃金形態
- まとめ
はじめに
BUSINESS INSIDERのこの記事、面白いですよ。
新卒で総合商社に入社したものの、なんと3か月で辞めてしまったAさん(23)のエピソードが主体です。
Aさんの話からは、旧態依然とした体制を維持し続ける日本企業にありがちな2つの闇が描かれています。2つの闇とは、一つは新卒等20代の若年労働者が味わう理不尽なパワハラ、もう一つは「ウィンドウズ2000」に代表される中高年ローパーの存在です。Aさんが具体的にどんなパワハラなどを経験して退職に至ったかについては上記の記事を参照していただくとして、ここでは、後者の「ウィンドウズ2000」について考えます。
ウィンドウズ2000とは?
ウィンドウズ2000と聞いてほとんどの人は、マイクロソフト社が2000年にリリースしたOSのことを想像するでしょう。しかし、ここでは、マイクロソフト社のOSのことを言っているのではありません。ここでいう「ウィンドウズ」とは「窓際」、「2000」とは「年収2000万円の高給取り」のことを言っています。
つまり、「ウィンドウズ2000」とは「年収2000万円のローパー」のことです。Aさんの会社の場合、第一線から退いた50代以上の人たちだったそうです。Aさんの元職場に伝わるジョークだそうです。「ウィンドウズ2000」と聞くと時代遅れ感もにじみ出ているし、なるほど面白い表現ですね。
Aさんは、若い頃に強度のパワハラに耐えつつ散々労働投入してきた者の成れの果てを目前にして失望してしまったのでしょう。
なぜ「ウィンドウズ2000」が生まれるのか?
結論を先に言うと、ウィンドウズ2000が出現する背景には、「終身雇用・年功序列」という日本独特の雇用慣行があります。ウィンドウズ2000の発生メカニズムは、年功序列賃金の賃金構造を考えれば、うまく説明がつきます。
年功序列賃金とは?
年齢を横軸にして労働生産性を描いたカーブを生産性カーブといいます。一方、年齢を横軸にして賃金を描いたカーブを賃金カーブといいます。
諸外国であれば、生産性カーブと賃金カーブが一致します。つまり、労働生産性が高い者や高い成果をはじき出した者はそれ相応に高い賃金が得られ、決してその状況が逆転することはありません。ところが、日本では生産性カーブと賃金カーブとが一致せず、ある年齢を境に互いに逆転しています。
年功序列賃金制では、
- 若年労働者の場合:生産性カーブ>賃金カーブ
- 中高年労働者の場合:生産性カーブ<賃金カーブ
のようになっています。
ここで「A>B」とは、両者を規格化して同一のグラフに描いた場合、AがBより上に描かれることを意味します。
生産性と賃金とが拮抗する損益分岐点はちょうど40歳前後と言われています。つまり、20代の若年労働者は生産性の割に賃金が低く、50代の中高年労働者は賃金の割に生産性が低いということです。そして、損益分岐点から年齢が離れれば離れるほど、両曲線の乖離が著しくなっていきます。
年功序列賃金では、両曲線の差を入社年齢から定年まで積分すれば面積が0になるように設計されています。つまり現在の50代は、自分たちが若かったころのマイナス分を現在の過払い給与によって穴埋めしているのです。
これこそが年功序列賃金の本質であり、ウィンドウズ2000が発生するメカニズムです。
50代の過払い給与は若い頃に積み立てた分を引き出しているのではない
現在50代の過払い給与は、彼らが新入社員であった約30年前から約20年をかけてコツコツと積み立てておいた分を、現在引き出しているのではありません。現在の若年労働者の賃金を過少に支払うことで、現在50代の過払い給与の原資を捻出しています。
こういったことは、毎年のように経済が成長し続けかつ若い旺盛な労働力を常に供給し続けられるような状況になければ有効に機能しません。この両方の条件が揃っていたのは高度経済成長期のみで、経済変動が著しく少子化が益々進展している現在においてこれが有効に機能しないのは明らかです。
したがって、若者がウィンドウズ2000を憧れの対象として思い描くのではなく、逆にそれを目の当たりにして何らかの危機感を抱くのはある意味当然のことといえるでしょう。
年功序列賃金制は終身雇用を正当化するための賃金形態
そもそも年功序列賃金制は高度経済成長期において熟練労働者を囲い込むために企業が採った賃金形態でした。定年まで勤めあげることで過不足が解消されるために、終身雇用を正当化する機能として作用しました。
あくまでもこれが可能であったのは、若い頃は安月給で我慢し続けつつも、中高年になって使用者が高報酬で報いるというコミットメントの交換がかつて有効に機能していたからです。
しかしながら現在ではこれが有効に機能しません。現在の経済情勢を鑑みれば、長期的展望に立脚して企業が安泰に存続し続けるとは考えにくく、終身雇用がもはや絵に描いた餅となってしまったからです。したがって、現在高い生産性をはじき出したのであれば、それに呼応して高い報酬で即座に報いるほうが合理的なのは明らかでしょう。
まとめ
日銀の調査によると、中小企業よりも大企業のほうが、生産性カーブと賃金カーブとの乖離が著しく、年功序列賃金の度合いが強いことがわかっています。
業態別では、サービス業よりも製造業のほうが、年功序列賃金の度合いが強いこともわかっています。
上記の考察から、年功序列賃金を採用する限り、従業員の平均年齢が高いほど若年労働者にとって不利に作用することは明らかです。従業員の平均年齢は、損益分岐点と考えてほぼ差し支えありません。つまり、これが高年齢にシフトするほど、若い頃の過少分を過払い給与によって回収する時期が遅延します。
ということは、従業員の平均年齢が高い日本の製造大企業が最も若年労働者にとって不利に作用します。
Aさんは、日本の総合商社から外資系ベンチャーに転職したとのことですが、ある意味賢い選択だと思います。 外資系の場合、年功序列賃金の度合いがそれほど強くないからです。
そのほかには、シャープの例がわかりやすいと思います。液晶事業の不振によりあれほど潰れかかっていたシャープが、EMS世界大手の台湾企業鴻海精密工業に買収された途端に著しく業績が回復したのは有名な話です。現在のシャープは実質的に言って外資系企業です。
鴻海によるシャープ買収の後、鴻海出身の戴正呉(たい・せいご)氏が社長に就任し、給与体系を「信賞必罰」というものに刷新しました。この給与体系は、従来の年功序列型賃金から、成果型賃金への布石となるものです。
変化の激しいこの時代、かつて頑張った者が30年後に報われるのではなく、現在頑張っている者が現在に報われるべきなのです。