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年功序列賃金は身分的拘束を伴う賃金制度だという客観的事実

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はじめに

素晴らしい内容の記事を久々に見つけました。

toyokeizai.net

ソリティア上司・ローパーおじさんの発生要因、その背景にある日本型雇用の問題点を見事に洗い出しています。

出所は、東洋経済オンライン(東洋経済新報社)の記事です。

さすが、内閣総理大臣石橋湛山を輩出した雑誌社だけあって、時代の先を見据えています。

他社の記事と比べたら、一線を画すものがあります。

 石橋湛山東洋経済新報社初代社長

ジャーナリスト時代は、「小日本主義」を唱え、軍国主義下の日本で公然と植民地放棄を主張する。

昭和31年12月23日、第55代内閣総理大臣に指名される。

しかし、病のため短命内閣に終わった。

後任の首相には、岸信介(安倍首相の祖父)が任命される。

石橋湛山がもっと早く総理大臣になっていたら、日本の歴史も大きく変わっていたかもしれませんね。

東洋経済の記事について考える

東洋経済の当該記事は、東京大学の中原准教授とアスリートの為末大さんの対談形式です。

日本型雇用の問題点を見事に指摘しています。

筆者が最も注目したのは、次の記述です。

中原:若い会社員の人たちは、このまま単線エスカレーターに乗っていても、下り坂になって昔と同じように賃金が支払われない可能性が高いのに、同じパフォーマンスを求められるのは割に合わないと考えます。

もうごまかしようのないところまで来ているんですね。

さらに、これからの人生は、「組織のなかで過ごす人生(組織人生)」よりも、「自分の仕事人生(組織によらず仕事をしていきながら暮らす人生)」が長くなることが予想される。

出典:東洋経済オンライン(2017年7月5日)

ここでいう、単線エスカレーターとは、年功序列賃金のことを意味しています。

そこで、今回は、年功序列賃金について深く掘り下げます。

生産性カーブと賃金カーブが一致しない年功序列賃金

一般的に言って、生産性カーブはある程度の年齢になると頭打ちになり、その後徐々に低下していきます。

本来ならば、それに呼応するように賃金が決定されるべきものですが、日本ではそうなっていません。

年功序列賃金が未だ強固に生き残っているからです。

年功序列賃金では、若い頃の賃金を低めに設定することで、過少に支払われていた分を中高年になって回収する制度です。

言わば、若い頃に給料の一部を会社に預けておいて、中高年になってそれを取り戻すという社内預金の制度によく似たシステムです。

しかし、社内預金であれば、労働者が貯蓄金の返還請求をした時は、遅滞なくそれを変換しなければならないと法律で定められています(労働基準法18条第5項)。

したがって、その会社を辞めるからと言って、今まで預けた分を取りっぱぐれることはありません。

しかしながら、年功序列賃金は、会社を辞めたら、中高年になってから過少分の穴埋めをすることができなくなり、今まで預けた分を取りっぱぐれるという仕組みになっています。

よって、不当な身柄拘束に繋がるために労働基準法において禁止されている強制貯金に近い性質を帯びたものと理解できます。

労働基準法が禁止する強制労働とは?

労働基準法に次のような条文があります。

労働基準法5条

使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

いわゆる強制労働の禁止を規定した条文です。

使用者がこの規定に違反した場合、労働基準法では最も重い罰則の、一年以上十年以下の懲役又は二十万円以上三百万円以下の罰金に処せられます。

この規定は、日本国憲法の次の条文を踏まえたものです。

日本国憲法18条

何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

では、労働基準法5条に違反するような、不当な身柄拘束を伴う強制労働として具体的にどのようなものがあるでしょうか?

労働基準法は、次の3つを強制労働に該当するとして禁止しています。

  1. 賠償予定の禁止
  2. 前借金相殺の禁止
  3. 強制貯金の禁止

では、それぞれ考えてみます。

①賠償予定の禁止

労働基準法16条

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

賠償予定を伴う労働契約については、兵庫県姫路市の「わんずまざー保育園」で問題になったことがあります。

兵庫県姫路市の「わんずまざー保育園」(小幡育子園長)が、保育士に「遅刻で罰金1万円」など不当な労働条件を課していたことが、同市の調査で分かった。

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このようなことは、不当な身柄拘束に繋がる恐れがあり、労働基準法16条で禁止されています。

②前借金相殺の禁止

以前、牛丼チェーンの吉野家の奨学金制度が強制労働に当たるかどうかについて考えたことがあります。

www.mesoscopical.com

吉野家の奨学金制度について

  • 2018年4月に入学する高校生アルバイトから希望者を募り、大学入学後吉野家の店舗で週3時間以上アルバイトをすることが、当該奨学金の貸与の条件
  • 大学卒業後吉野家に入社し、4年間勤務すれば、返済が免除される仕組み
  • 在学中にアルバイトを辞めたり、入社後4年間続かなかった場合は、それまでに貸与された奨学金を全額返済する必要がある

 結論的に言うと、この制度は、強制労働には当たりません。

しかし、奨学金を完済するまで吉野家に勤務しなければならないような仕組みであれば、強制労働に該当する可能性があります。 

③強制貯金の禁止

労働基準法18条

使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。

「労働契約に付随して」とは、貯金をすることが労働契約の締結や存続の条件となっていることをいいます。

平たく言うと、「貯蓄の契約をしない限り雇ってもらえない」・「貯蓄を解約すれば、解雇される」というような労働契約です。

このようなことは、労働基準法で禁止されています。

しかし、労働者の任意になす預貯金を使用者が委託を受けて管理することは、差し支えないとされています。

年功序列賃金と強制貯金との類似性を考えてみる

年功序列賃金体系における賃金カーブは、その会社の労働者に一律に適用されます。

すなわち、労働契約締結の際に、労働者と個別に決定されるものではありません。

言わば、強制的に決められています。

初任給がみな同じ額からスタートという点がこれを現していますね。

つまり、ある人は初任給を高めに設定する代わりに中高年で回収できる額を少なめに設定し、またある人は、初任給を低めに設定する代わりに中高年で回収できる額を多めに設定するということはできません。

また、年功で賃金カーブが一律に決められているので、会社を辞めてしまったら全てリセットされます。

すなわち、若い頃低めの賃金で我慢していた分を、中高年で回収するということができなくなってしまいます。

そもそも年功序列賃金は、高度成長期に熟練労働者を囲い込むために企業が考え出した雇用慣行です。

当初の発想そのものが身分的拘束を伴うものだったのです。

年功序列賃金は、強制貯金に近い制度ですが、中高年になってパーフォーマンスが落ちていくことに備えて、掛け捨て型の保険に強制的に加入させられていると言ったほうがより適切かもしれません。

年功序列賃金は、中高年になってパフォーマンスが下がっていくことを保険事故として、パフォーマンスの下がり具合に比例して徐々に保険金が支払われるような制度です。

年功序列賃金は企業が年金保険事業をやっているようなもの

高度成長期のように企業が成長著しい頃は、賃金カーブもうなぎ上りでした。

したがって、若い頃少々低賃金で甘んじても、中高年になって容易にそれを回収することができました。

翻って、企業の成長がそれほど見込めないような現代では、どのようなことが起こるでしょうか?

企業の業績が悪くなったり、成長が望めなければ、賃金カーブの傾きを小さくせざるを得なくなります。

これは、現実に起こっている現象です。

人間の生産性カーブは、時代が移り変わってもそれほど変わるものではありません。

つまり、若い人が高生産性なのは今も昔も変わりないし、中高年のおっさんが低生産性なのは今も昔も変わりません。

しかし、賃金カーブの傾きだけが変わってしまったら、若い頃会社に預ける分が肥大化して、逆に、中高年になって回収できる分が縮小します。

これが、年功序列賃金が崩壊に向かっていることの本質です。

また、企業全体としてみた場合は、企業内の年齢構成にも依存します。

かつてのように、有り余る生産年齢人口があって、企業の成長も著しく、若い人がどんどん入ってくるような時代であれば、企業が年功序列賃金制を採用することに絶対的なアドバンテージがありました。

なぜなら、企業の年齢構成を若年層にシフトすることができ、その分、人件費の総体を低く抑えることができたからです。

しかし、終身雇用によって雇用が硬直化し、少子化等の影響で若い人があまり入ってこなければ、企業の年齢構成が高年齢側にシフトすることはある意味自然現象です。

こうなってしまうと、賃金カーブを限りなく横軸に平行になるよう近づけなければ年功序列賃金を維持できなくなることは明らかでしょう。

つまり、年功序列賃金制は、破綻しかかっている保険屋に、掛け捨て型の保険を掛けているようなものです。

まとめ

年功序列賃金は、制度の受け入れが入社の条件であり(つまり強制)、しかも身分的拘束を伴う賃金体系です。

かつて何ら疑問を持つことなくなく受け入れられていたのは賃金カーブの傾きが著しく、若い頃低賃金に甘んじた分を中高年になって容易に回収できたせいでしょう。

しかし、今では、賃金カーブの傾きが小さくなり、よほど長期的スパンに立脚しないと回収できなくなっています。

これが、辞めるに辞められない状況を生み出しており、さらに労働市場を硬直化させるという悪循環を形成しています。

近年、大きな社会問題となっている長時間労働・パワハラ・職場いじめの問題にも、これ状況が深く関与していることは間違いないでしょう。

ここで、もう一度憲法18条を思い出してください。

憲法18条(抄)

何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。

 

少子化・低成長期の現在、年功序列賃金はこの憲法の理念に反した賃金体系になりつつあるのです。