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厚生労働省による究極の愚策「正社員転換・待遇改善実現プラン」

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はじめに

「正社員転換・待遇改善実現プラン」

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11651000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu-Kikakuka/0000110905.pdf

 筆者は、かつてこのような愚策を目にしたことがありません。

日本でエリートとされる中央省庁のキャリア官僚がこのような策を大真面目に練っていたのでしょうか?

実態を知らない机上の空論とはまさにこのことでしょう。

正社員至上主義は危険な思想

正社員至上主義を唱えれば唱えるほど、労働者のマインドがますます保守化します。

すると、労働市場が硬直化し、使用者が正社員に対して行使しうる人事権がさらに強力になっていきます。

しかし、先行き不透明な経済情勢にあって定年まで会社が存続すると確信が持てる若い人ははたしてどれだけいるでしょうか?

定年まで雇用される保障が無いにもかかわらず、使用者による人事権だけがますます肥大化する中、一つの会社にとどまるメリットがどこにあるでしょうか?

厚労省は、どこの正社員への転換を言っているのか?

そもそも厚労省の役人はどこの正社員への転換を言っているのでしょうか?

大企業正社員なのか中小企業正社員なのかはたまたその両方でしょうか?

あるいは単に、期間の定めのない雇用形態への転換を言っているのでしょうか?

しかし、一口に期間の定めのない雇用と言っても企業別労働組合の存否によってその意味合いが決定的に異なります。

不当解雇に対し民事訴訟で抗しうる十分な資金力を持った労働組合が会社に存在すれば話は別ですが、労働組合が存在しない中小企業では多くの場合解雇権濫用法理が厳格に守られていません。

すなわち、多くの中小企業では、期間の定めのない雇用という正社員たるそもそも論が形骸化しているのです。

 厚労省の官僚はこれらの事実をどれだけ理解しているでしょうか?

自分たちだけは天下り先を含め絶対的な雇用が約束されているので、おそらくこのようなことは全く理解していないでしょう。

正社員転換・待遇改善実現プランの主要な目標

正社員転換・待遇改善実現プランの主要な目標は、次の通りです。

 ■不本意非正規

○不本意非正規雇用労働者の割合(全体平均):10%以下

(平成26年平均:18.1%)

■若者

○新規大学卒業者の正社員就職の割合:95%

(平成27年3月卒:92.2%)

○新規高校卒業者の正社員就職の割合:96%

(平成27年3月卒:94.1%)

■待遇改善

○正社員と非正規雇用労働者の賃金格差の縮小を図る。

厚労省はそろそろ正規・非正規に代わる新たな呼称を考案したらどうか

だいたい、不本意非正規という表現の仕方が気に入らないですね。

およそ、「非正規」と一括りにされている労働者は次のいずれか1つ以上の条件で働いている人たちのことです。

  1. 期間の定めがある
  2. 1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者に比して短い
  3. 間接雇用である

正社員及び1~3の非正規社員を就業実態に即すならば、

  • 正社員は、「無限定社員
  • 1は「期間従業員」あるいは「期間労働者」
  • 2は法律上の定義そのまま「短時間労働者」
  • 3も法律上の定義そのまま「派遣労働者」

と呼称するのが適当でしょう。

因みになぜ正社員を「無限定社員」と呼ぶべきかというと、勤務地・職種・労働時間・出向先などの決定が無限定に使用者の裁量に委ねられているからです。

しかし、以下においては混乱を避けるため敢えて「正社員」や「非正規」の呼称を用います。

不本意非正規とは何のことか?

そもそも、不本意非正規とは何のことを言っているのでしょう。

単に、「非正規」の中で、現状の待遇に満足していない人のことを言っているに過ぎないのではないでしょうか。

であるとするならば、反対に、「正社員」の中にもその無限定性ゆえに現状の待遇に満足していない人もいるはずです。

雇用を流動化し、同一労働同一賃金を実現すればこれらは一気に解決する話です。

また、正規・非正規の対立構図に帰着せず、豊富な職業訓練メニューの充実・成果型報酬の大規模導入で生産性向上を図れば、労働者全ての待遇改善が図れるのではないでしょうか。

若者について

 新規学卒者の正社員就職率を数%増やしてどうなるのでしょうか?

それよりも、圧倒的大多数の若者が3年以内に離職しています。

したがって、このような数値目標を掲げても誤差の範囲内です。

新卒一括採用の雇用慣例を無くせば、このような数値化自体が意味を無くすでしょう。

また、新規学卒時の景況感で、正社員就職率が変動するリスクも回避できるでしょう。

待遇改善について

 現在の雇用慣行の下では不可能です。

日本の労働市場において、企業別労働組合が存在する限り、正社員と非正規雇用労働者との賃金格差が縮小することはあり得ないからです。

毎年、春先から春闘といって大企業を中心に使用者と企業別労働組合との経済闘争主体の労使交渉が始まります。

この労使交渉においては、非正規労働者の待遇改善は図られません。

なぜなら、正社員は企業別労働組合の組合員にならないといけないのに対し、逆に非正規労働者は通常は当該組合の組合員になれないからです。

当然のことながら、組合は組合員の待遇改善のために労使交渉を行います。

すなわち、非正規社員は蚊帳の外なのです。

人件費の総量は毎年決まっています。

したがって、労働組合が春闘で賃上げを獲得すればするほど、非正規社員はその分だけ賃金が下がるような仕組みになっているのです。

たまに、組合は非正規社員の待遇の改善も言うことがありますが実質的にはお題目にしかすぎません。

実際は、こうした批判をかわす為のガス抜きにしか過ぎないのです。

厚生労働省は、この仕組みにメスを入れないで、どうやって賃金格差の縮小を図るというのでしょうか?

まとめ

 このように、「正社員転換・待遇改善実現プラン」は全く無意味な政策です。

その理由は以上に示した通りです。

その他に、この政策が全く無意味であることを如実に示す事実があります。

それは、全国の労働局・労働基準監督署・ハローワークにおびただしい数の非正規職員が勤務しているにもかかわらず、彼らが正職員になれる可能性は0だという事実です。

また、これら非正規職員と正規職員との待遇格差は、民間企業においてよりも大きな開きがあります。

最低賃金近くの時給で働いている非正規職員の方もいます。

同プランにおける取組の一つに、「ハローワークにおける正社員求人の積極的な確保や、正社員就職に向けた担当者制による支援等」というのがあります。

しかし、当のハローワークにおいて、非正規職員の比率が半数を超えるようなところも存在します。

 お上自らが襟元を正さずに強固な身分制を敷いているのを見て、民間企業がこのようなプランに同調するとはとても思えないですね。

 先日、パナソニックの労働基準法違反を受けて、大阪労働局がプラチナくるみんの認定を取り消したことを紹介しました。 

www.mesoscopical.com

 この記事の中で、これほどの言行不一致を見たことが無いと述べました。

 

しかし、パナソニック以上の言行不一致の事例がまさか厚生労働省に存在するとは夢にも思いませんでしたね。