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財務次官セクハラ問題:新潮への情報提供は公益通報に当たらない

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はじめに

 ここ数日、財務事務次官によるセクハラ問題が世間の耳目を集めています。昨日放送のTBS系「サンデーモーニング」でも、この問題が話題になりました。番組の中で、ジャーナリストの青木理氏は、「テレ朝の記者が週刊新潮に自分のセクハラ情報を流したことを非難する向きもあるが、公益通報であるという考え方もできる」と持論を述べました(出所:『産経ニュース』2018.04.22)。

 この持論は果たして正しいと言えるのでしょうか。この問題について考える前に、男女雇用機会均等法においてセクハラはどのように規定されているのか詳細を述べます。

男女雇用機会均等法ではどうなっているのか

セクハラの定義

男女雇用機会均等法11条

 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

 厚生労働省の指針は、「職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)」を次のように定義しています。

 法11条第1項に規定する事業主が職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること。

  セクハラには、大別して次の2つが存在します。

  •  「対価型セクシュアルハラスメント」:職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるものをいう。 
  • 「環境型セクシュアルハラスメント」:当該性的な言動により労働者の就業環境が害されるものをいう。

対価型セクシュアルハラスメントについて

 厚生労働省の指針は、対価型セクシャルハラスメントの具体例として次のようなものを挙げています。 

 「対価型セクシュアルハラスメント」とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けることであって、その状況は多様であるが、典型的な例として、次のようなものがある。

イ 事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、当該労働者を解雇すること。

ロ 出張中の車中において上司が労働者の腰、胸等に触ったが、抵抗されたため、当該労働者について不利益な配置転換をすること。

ハ 営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、当該労働者を降格すること。

 すなわち、何らかの人事権を行使し得る者が労働者に「性的な言動」を行い、当該労働者がその対応如何により、解雇、降格、減給等の不利益を受けることを「対価型セクシャルハラスメント」といいます。福田財務次官がテレビ朝日の従業員に対して人事権を発動できる立場にないことは明らかであり、少なくとも「対価型セクシャルハラスメント」にはあたりません。

環境型セクシュアルハラスメントについて

 厚生労働省の指針は、環境型セクシャルハラスメントの具体例として次のようなものを挙げています。 

 「環境型セクシュアルハラスメント」とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることであって、その状況は多様であるが、典型的な例として、次のようなものがある。

イ 事務所内において上司が労働者の腰、胸等に度々触ったため、当該労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること。

ロ 同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、当該労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと。

ハ 労働者が抗議をしているにもかかわらず、事務所内にヌードポスターを掲示しているため、当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと。

 週刊新潮が公開した録音テープは、女性の発言内容の音声が消されている以上、直ちにそれだけを以てセクハラとは断定できません。しかし、仮に録音テープの内容が報道の通りであると仮定するならば、当該発言は、「環境型セクシャルハラスメント」に該当します。

飲食店は職場に該当するか?

 報道によると、福田次官のものとされる一連の発言は、飲食店でなされたといいます。一方、厚生労働省の指針は、セクハラを「職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により労働条件につき不利益を受けたり、就業環境が害されること」と定義しています。では、飲食店など会社以外の場所で行われた性的な言動は、セクハラに該当するでしょうか。

 厚生労働省の指針は、「職場」を次のように定義しています。

 「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、「職場」に含まれる。例えば、取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅等であっても、当該労働者が業務を遂行する場所であればこれに該当する。

 つまり、労働者が通常就業している場所以外であっても、業務遂行性が認められる場所であれば、「職場」と見なされます。女性記者の例で言えば、テレビ朝日以外の場所であっても、取材などの理由により、情報提供者との打ち合わせのために用いられる飲食店も、職場に含まれます。なお、取材ではなく個人的な関係性に基づく会食のために用いられる飲食店は、業務遂行性が認められないため、「職場」には該当しません。

事業主の対応について

 記者会見においてテレビ朝日が発表した内容によると、当該女性記者は、1年半程前から福田財務次官と取材目的で、一対一で会食をしていたといいます。ところが、セクハラ被害があったため、自らの身を守るために会話の内容を録音していたといいます。そして後日、当該女性記者がセクハラの事実を報道すべきと上司に相談したところ、上司は、報道すると本人が特定されいわゆる二次被害が心配されるなどの理由により、報道は難しいと伝えました。上司によるこの対応は正しい行動だったのでしょうか。以下、この点について検討を加えます。

セクハラを防止するために事業主が講ずべき措置について

 厚生労働省の指針は、「事業主は、職場におけるセクシュアルハラスメントを防止するため、雇用管理上次の措置を講じなければならない。」と規定しています。

  1. 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  2. 相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  3. 職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
  4. 1から3までの措置と併せて講ずべき措置

 上記1~4のうち、本件において問題となるのは、3と4です。それぞれについてさらに検討を加えます。

 3.迅速かつ適切な対応について

 厚生労働省の指針に次のような記述があります。 

イ 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること。

(事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認していると認められる例)

① 相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が、相談を行った労働者(以下「相談者」という。)及び職場におけるセクシュアルハラスメントに係る性的な言動の行為者とされる者(以下「行為者」という。)の双方から事実関係を確認すること。

また、相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずること。

② 事実関係を迅速かつ正確に確認しようとしたが、確認が困難な場合などにおいて、法第18条に基づく調停の申請を行うことその他中立な第三者機関に紛争処理を委ねること。

 このように、当該労働者からセクハラ被害の相談があった場合、事業主は、迅速かつ正確に事実関係の確認をしなければなりません。では、テレビ朝日は、当該女性記者および福田次官の双方から迅速かつ正確に事実関係の確認をおこなったでしょうか。女性記者が、セクハラ被害の内容を週刊新潮に情報提供しているということは、テレビ朝日は少なくとも福田次官に対しては迅速に事実関係の確認を行っていないはずです。

 なお、どうしても確認が困難な場合であれば、「法18条に基づく調停の申請を行うことその他中立な第三者機関に紛争処理を委ねること。」とされています。テレビ朝日は、当該女性記者からセクハラ被害の相談があった当初の段階において、中立な第三者機関に紛争処理を委ねたという報道も全くされていません。したがって、少なくともこの時点においては、テレビ朝日は、雇用管理上必要な措置を講じていないことになり、法11条第1項に反することになります。法第18条に基づく調停の申請については、後ほど詳しく述べます。

 厚生労働省の指針に次のような記述もあります。 

ハ イにより、職場におけるセクシュアルハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと。

(措置を適正に行っていると認められる例)

①就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における職場におけるセクシュアルハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。あわせて事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪等の措置を講ずること。

②法第18条に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対して講ずること。

 このように、セクシュアルハラスメントの事実確認ができた場合は、行為者に対する措置を適正に行わなければなりません。本件の場合は、相談者と行為者とが別々の組織に属するという特殊な事例であるため、行為者に対し人事上の措置を直接講ずることはできませんが、少なくとも、テレビ朝日が、相談者と行為者とを引き離すための配置転換を迅速に行うことはできたはずです。しかし、そのような形跡は見当たらず、その結果、当該女性記者がセクハラ被害を申し出ていたにもかかわらず、1年半も取材が継続されていたことになります。テレビ朝日の篠塚浩取締役報道局長も、同社によるこの不適切な対応について反省の弁を述べています。

 以上をまとめると、当該女性記者からセクハラの相談を受けた際、当初テレビ朝日が取るべき対応は、

  1. 福田財務次官にセクハラの事実関係を迅速に確認すること
  2. 確認が取れない場合は、中立な第三者機関に紛争処理を委ねること
  3. セクハラの事実を確認次第、福田財務次官の取材を当該女性記者にさせないこと

 であったことになります。

 4.1から3までの措置と併せて講ずべき措置について

 厚生労働省の指針は、併せて講ずべき措置として、次の措置を挙げています。

 イ 職場におけるセクシュアルハラスメントに係る相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものであることから、相談への対応又は当該セクシュアルハラスメントに係る事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること。

 このように、セクハラに関しては、相談者のみならず行為者のプライバシーも保護されています。したがって、当初上司が相談を受けた際に、当該女性記者に、「報道すると本人が特定されいわゆる二次被害が心配されるなどの理由により、報道は難しい。」と回答したのは正しい行動です。

 しかしながら、当該女性記者が、週刊新潮に録音内容などの情報を提供してしまったことは、事業主として必要な措置を講じなかったことの証です。なぜなら、行為者にもプライバシーがある旨をテレビ朝日が当該女性記者に周知していなかったからです。もしその措置を事業主が適切に講じていれば、当該女性記者は行為者にもプライバシーがあることを認識するに至り、少なくとも当該事実を週刊誌に情報提供することはなかったでしょう。

青木理氏の意見について

 ここで、最初の問題に立ち戻ります。

サンデープロジェクトのコメンテーター青木理氏の発言

「テレ朝の記者が週刊新潮に自分のセクハラ情報を流したことを非難する向きもあるが、公益通報であるという考え方もできる」

 結論を先に言うと、この発言は正しくありません。

 公益通報の定義は、公益通報者保護法2条に規定されています。公益通報とは、労働者が、会社の役員、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、処分・勧告権限のある行政機関や発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に通報することをいいます。通報対象事実としては、対象となる法律(及びこれに基づく命令)に違反する犯罪行為又は最終的に刑罰につながる行為が考えられます。

 しかし、対象となる法律に、男女雇用機会均等法は含まれません。

 したがって、セクハラ情報を週刊誌に流布したことは、公益通報に該当しません。これは、男女雇用機会均等法が強行法規でないことにも起因します。セクハラは、あくまでも民事上のトラブルに該当し、当事者による紛争解決が促されています。

 セクハラの紛争解決には、次の2つの方法があります。

  1. 都道府県労働局長による助言・指導・勧告(法17条)
  2. 紛争調整委員会による調停(法18条)

 厚生労働省の指針に示されている、「法第18条に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置」とはこれらのことを意味します。

まとめ

 以上のように、セクハラは本来当事者間で解決すべき問題であり、当該事実を公表することが公益には繋がりません。また、セクハラに関しては、相談者のみならず行為者のプライバシーも保護しなければならないとされています。したがって、当初自社で報道すべきでないと決断したテレビ朝日の上司の行動は正しい行動です。

 しかし、その後に迅速な措置を講じなかったことが誤っています。テレビ朝日は、行為者とされる福田次官への迅速な事実確認を怠り、当該女性記者の配置転換も検討しなかったため、当該女性記者の精神的抑圧を肥大化させ、それが結果として、週刊誌報道へと繋がりました。

 最近では、当該女性記者の実名と顔写真がインターネット上で広がっています。つまり、結局のところ、行為者のみならず相談者のプライバシーを保護することにも繋がりませんでした。なるべく早い段階で、然るべき行政機関(労働局のこと)に調停の申請をすべきだったのです。

 テレビ朝日は、今頃抗議文を送っているようでは遅すぎるのです。

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