- はじめに
- 学級委員会をサボった小学生が話し合いを延長しろと言っているのと同じ
- 高度プロフェッショナル制度に「働かせ過ぎ」はありえない
- 「医師による面接指導では働き手の健康は守れない」と言うのは、医師に対する冒とく行為
- 管理職の中に24日間24時間連続で働いている人がいたら教えてほしい
- 審議応召を人質にとって18日間もサボった野党議員が何を言おうと笑止千万
- 時間外労働の上限規制について
- 朝日新聞は、時間外労働と休日労働の違いくらい理解せよ
- まとめ
はじめに
高度プロフェッショナル制度に関して、筆者はこれまでに、一部マスコミによる数々の印象操作やフェイク記事を批判してきましたが、今回の朝日新聞の記事は最も酷いですね。その記事とは、こちら☟です。
学級委員会をサボった小学生が話し合いを延長しろと言っているのと同じ
朝日新聞の記事の冒頭部分に、次のような記述があることが分かります。
主要野党も加わり、本格審議が始まってまだ2週間ほど。働く人の多くに影響する法案は、論戦が深まらぬまま衆院を通ろうとしている(出所:『朝日新聞』2018.05.21)。
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案(内閣提出第63号)(以下、働き方改革関連法案という。)の委員会審議が始まったのは、2018年5月2日です(第15回衆議院厚生労働委員会)。衆議院厚生労働委員会ニュース(第196回国会第15号)には、「質疑者及び主な質疑内容」が記載されています。「委員会ニュース」からも明らかなように、5月2日の委員会審議における野党の質疑者は、浦野靖人衆議院議員(維新)のみとなっています。
一方、立憲・民進・希望・共産・社民・自由の野党6党は、麻生太郎財務相の辞任などを求めて4月20日から審議拒否を続けていたため、5月2日は、審議に参加しませんでした。
有権者の負託を受け当選した国会議員が国会審議を拒否するなど言語道断も甚だしいですが、野党6党による審議拒否の理由は、働き方改革関連法案の内容とは全く関係の無いものでした。彼らはなぜ、5月2日の審議に参加しなかったのでしょうか。
野党6党は、1週間後に開かれた第16回委員会以降は審議に応じていますが、今さら審議時間が短いとドタバタしても仕方ありません。働く人の多くに影響する法案であるならば、審議拒否などせずに、最初から健全な論戦を交わすべきだったのではないでしょうか。
小学生A:
「委員長が嫌いだから学級委員会に参加したくないよ~」
⇒そして、学級委員会をサボる
⇒一週間後、先生に促され学級委員会に復帰
⇒学級委員会の終了期間が近づく
⇒小学生A「先生、話し合いが足りないからもう少し延長してよ~」
いくら小学生でもそんな言い分が通るはずはありません。因みに国会議員にとって先生とは、「有権者の世論」です。野党6党の皆さん、先生はちゃんと見ていますよ。落選したら、審議拒否どころか国会議事堂で座る椅子すら与えられなくなってしまいますよ。
高度プロフェッショナル制度に「働かせ過ぎ」はありえない
ここからは、法律的な議論に移ります。
規制から外れれば、企業は、働かせ過ぎを防ぐ仕組みである深夜・休日労働の割増賃金も払わなくてよくなる(出所:『朝日新聞』2018.05.21)。
これは明らかに印象操作です。確かに、割増賃金は、過重労働に対する労働者への補償の意味合いも込められています。しかし、この場合、労働者が、労働時間管理の対象であることが前提です。
高度プロフェッショナル制度において、「規制から外す」とは、「時間外・休日労働協定(36協定)の対象から外す」という意味です。時間外・休日労働とは、「労働基準法32条から32条の5まで若しくは同法40条の労働時間又は同法35条の休日に関する規定にかかわらず、協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させること」を意味します(労働基準法36条第1項)。
下線部の語尾に注目ください。「労働させること」とあります。すなわち、使役の助動詞が含まれています。したがって、時間外労働や休日労働は、使用者が労働者に対し「時間外勤務命令」や「休日勤務命令」を発令した時に限って可能となります。
これに対し、「時間外・休日労働協定」の締結対象から外される高プロ対象者に対して、使用者は「時間外勤務命令」や「休日勤務命令」を発令することはできません。割増賃金は、使用者が、労働時間を延長し労働させた場合、休日に労働させた場合、深夜に労働させた場合に、労働者に対して支払われるものです(労働基準法37条)。使用者が高プロ対象者に対して「時間外勤務命令」や「休日勤務命令」を発令することができない以上、同法37条の規定の適用から除外されるのは当たり前の話です。
これは、労働基準法41条第2号に規定する管理監督者が、時間外・休日労働協定の締結対象から外され、時間外・休日労働に係る割増賃金の規定の適用から除外されるのと同じロジックです。但し、管理監督者に対しては、使用者は深夜時間帯の割増賃金の支払い義務までは免除されていません。なぜならば、管理監督者は、労務管理の性質上、選択的に深夜に勤務することが期待されないからです。
一方、高プロの対象労働者に対しては、業務のPDCAサイクルを自身の裁量のみで回すことが期待されるため、自身の裁量に応じて選択的に「日中」あるいは「深夜」に労働することが可能です。自らが、深夜労働を希望し選択した以上、深夜時間帯の割増賃金の規定の適用が除外されることは当然です。
これは、「多様な働き方の選択肢を提供し、専門職の方々に能力を発揮して頂く」という加藤厚生労働大臣の説明とも整合性が取れています。
「医師による面接指導では働き手の健康は守れない」と言うのは、医師に対する冒とく行為
医師の面接指導を受けさせる義務もあるが、これで働き手の健康は守れないと野党は指摘(出所:『朝日新聞』2018.05.21)。
高プロにおける「医師による面接指導」とは、「長時間労働者に対する医師による面接指導」を高プロ対象者にも適用するというものです。労働安全衛生法66条の8の規定によると、労働時間が週40時間を超えて、その超えた時間が月100時間を超え、かつ、疲労の蓄積が見られる者の申出に基づいて、事業者は遅滞なく「医師による面接指導」を行わなければならないとされています。
同条の8第5項には、面接指導実施後の措置として、次が掲げられています。
- 就業場所の変更
- 作業の転換
- 労働時間の短縮
- 深夜業の回数の減少等の措置
- 当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告
- その他の適切な措置
これらは全て医師の意見を勘案して講じられます。これでも、働き手の健康が守れないとするならば、何のために産業医が存在するのでしょうか。根も葉もないことを言ったら、全国の産業医が激怒しますよ。
管理職の中に24日間24時間連続で働いている人がいたら教えてほしい
高プロの適用者は年104日は休ませるなどの義務が課されるが、4週間で4日休めば残る24日は24時間働いても違法にならない(出所:『朝日新聞』2018.05.21)。
労働基準法41条第2号に、管理監督者の規定があります。管理監督者は、時間外・休日労働協定の締結対象から外されるため、労働時間・休日・休憩に関する規定の適用から除外されます。高プロ対象者に適用される4週間で4日という休日規定すら存在しません。したがって、理論上は、管理監督者が24日間24時間働いても違法になりません。しかし、実際に24日間24時間働いている管理監督者は果たしてどれだけいるのでしょうか?朝日新聞さん、貴社の「デスク」に、もしそのような人がいたらぜひ教えてください。
なお、世界遺産の比叡山延暦寺では、常行三昧という修行があります。これは、常行堂と呼ばれるお堂の中で90日間、阿弥陀仏を念じながら昼夜歩き続けるという修行です。24時間行うので常行と呼ばれています。90日間、決して坐ることができません。しかし、延暦寺のお坊さんはお堂の中で働いているのではなくて、「自己を見つめる修行」を行っています。
審議応召を人質にとって18日間もサボった野党議員が何を言おうと笑止千万
朝日新聞の記事には、4月の後半から5月初頭にかけて国会の審議拒否をし続け、スーパーゴールデンウィークを謳歌した一部野党議員の指摘が記載されています。
「過労死が増えるのは火を見るより明らかだ」(立憲民主党の長妻昭氏)(出所:『朝日新聞』2018.05.21)
長妻氏は、国会議員として発言に責任をとる必要があります。どこにそんな証拠があるのでしょうか。まだ施行されていない高プロによって過労死が増えるという証拠があるのならば、それを提示する必要があります。なお、高プロとは全然関係ありませんが、長妻氏は、まだ全面施行されていない完全自動運転によって交通事故死が増えるという証拠を持っているのでしょうか。国土交通省や、自動車メーカーが行っていることは間違いですか?もし証拠があるのなら提示してください。
徹夜しないと終わらない仕事を与えられれば、働く時間の事実上の決定権は会社側にある。(国民民主党の大西健介氏)(出所:『朝日新聞』2018.05.21)
大西氏は、高プロの本質を理解していないようです。使用者(会社)側から、徹夜しないと終わらない仕事を与えられている時点で、高プロの対象労働者になりません。先述したように、高プロの場合、日中に仕事をしようと深夜に仕事をしようと、それは対象労働者の選択に委ねられています。使用者が、高プロ対象者に対して、徹夜しないと終わらない仕事を与えた時点で、勤務時間帯を自由に選択できるという裁量権を阻害したことになり、高プロの立法趣旨に反します。労働基準法に違反したとして、是正勧告の対象となります。
ところで、野党議員によって質問主意書の提出が著しく遅延され、徹夜覚悟で慌てて答弁書の作成を余儀なくされている中央省庁の官僚が気の毒でなりません。つまりこういうことです。
徹夜しないと終わらない仕事を与えられれば、(官僚が)働く時間の事実上の決定権は野党側にある。
なお、国家公務員一般職は、国家公務員法附則16条の規定により、労働基準法の適用除外とされているため、高度プロフェッショナル制度の対象に中央省庁の官僚を含めることはできません。
時間外労働の上限規制について
繁忙月の上限「100時間」は、労災認定の目安とされる過労死ラインのため、過労死遺族から批判がある(出所:『朝日新聞』2018.05.21)。
フェイクニュースです。繁忙月においては、「100時間未満(休日労働含む)を限度に設定すること」が必要です。すなわち、100時間そのものは含まれません。「以下」と「未満」の違いくらいは算数で習ったと思います。
朝日新聞は、時間外労働と休日労働の違いくらい理解せよ
実際は休日労働を含めた上限である「2~6カ月平均が80時間」の12カ月分で、年960時間まで時間外労働をさせられる「抜け穴」をめぐる議論も積み残しのままだ(出所:『朝日新聞』2018.0521)。
複数月(2ないしは6か月)についても同様に、「平均80時間(休日労働含む)を超えない範囲に設定」することが必要です。今回、労働基準法改正案に盛り込まれているのは、「時間外労働の上限規制」であって「休日労働の上限規制」は盛り込まれていません。そこで、もう一度、時間外労働と休日労働の定義を述べます。
- 時間外労働:使用者が、労働基準法32条から32条の5まで若しくは40条の労働時間に関する規定にかかわらず、労働時間を延長し労働させること。
- 休日労働:使用者が、労働基準法35条の休日に関する規定にかかわらず、休日に労働させること。
因みに、労働基準法32条から32条の5まで若しくは40条とは、変形労働時間制を含む法定労働時間について規定する条文です。一方、労働基準法35条は、1週間に少なくとも1回若しくは4週間を通じ少なくとも4日以上という法定休日について規定する条文です。つまり、その定義において根拠となる条文が異なるため、両者は全く性質の異なるものです。
ここで、時間外労働の上限規制について振り返ります。
今般の労働基準法改正によって盛り込まれる「時間外労働の上限規制」とは、臨時的な特別な事情がある場合において、時間外労働を
- 年720時間を超えない範囲に設定
- 1か月100時間未満(休日労働含む)に設定
- 複数月平均80時間(休日労働含む)を超えない範囲に設定
することです。1~3は、それぞれ独立した項目に盛り込まれているので、これらのうちどれか一つでも満たされなければ労働基準法違反になります。したがって、「年960時間まで時間外労働をさせられる『抜け穴』」という記述は法的に誤りです。
ところで、皆さんは、次のアとイのうちどちらがより強い規制だと思いますか?
ア.「時間外労働を、1か月100時間未満(休日労働含む)に設定」
イ.「時間外労働を、1か月100時間未満(休日労働含まない)に設定」
答えは、「ア」です。
例えば、ある月にちょうど20時間の休日労働を行ったとします。「ア」の場合、時間外労働は80時間未満に抑えなければなりません。ところが、「イ」の場合、20時間の休日労働を行ったにもかかわらず、その月は、100時間未満の時間外労働が容認されてしまいます。すなわち、「イ」の場合、80時間でも90時間でも時間外労働が許されます。したがって、(休日労働含む)という文言が盛り込まれていた方が強い規制になるのです。
朝日新聞の記事は、時間外労働と休日労働とを独立事象とみなさず、それらを混同し、議論を展開しているという意味において、完全なフェイクと言えるでしょう。
まとめ
以上、朝日新聞記事における数々の印象操作、記載の誤りについて検証しました。
当ブログにおける本記事の見出し「『誤りは明らか』朝日新聞、高プロに関するフェイク記事を垂れ流しへ」は、法律的な論拠に基づいて、朝日新聞の当該記事が、間違いだらけの「フェイクニュース」であることを示しています。
一方で、朝日新聞の「『過労死増は明らか』働き方法案、論点残したまま採決へ」という見出しはどうでしょうか。働き方法案によって「過労死増は明らか」と断定する論拠はどこに存在するのでしょうか。何らかの客観的なデータに基づいて、「過労死増は明らか」と断定したのでしょうか。
筆者には、立憲民主党長妻氏の発言の一部を切り取って、見出しに据え置いたとしか思えません。
ところで、朝日新聞の記事は、次のような文章で締めくくられています。
議論が尽くされたとの理屈は通らない(出所:『朝日新聞』2018.05.21)。
だったら、朝日新聞は、どうして「過労死増は明らか」という断定的な見出しを記事に掲げたのでしょうか。