女性警官にロメロ・スペシャルとは何事か
筆者が初めて下記の記事を読んだとき、我が目を疑いました。これは、完全にセクハラです。滋賀県警では、どういう労務管理がなされていたのでしょうか。
滋賀県警長浜署の男性署員が昨年11月、懇親会で女性署員にプロレス技をかけて写真撮影していた問題で、県警はセクハラ行為にあたるとして、技をかけた40代の巡査長と技かけを手伝って写真撮影した50代の警部補の2人を減給6カ月(10分の1)の懲戒処分にしていたことが県警への取材でわかった。1日付(参照元『朝日新聞』)。
女性警官が掛けられたとされるプロレス技は、「つり天井固め」です。「つり天井固め」は別名、「ロメロ・スペシャル」ともいいます。メキシカンプロレスにおいて有名な必殺技で、考案者のラウル・ロメロ(一説にはリト・ロメロとも)に因んで、そう名付けられました。来日全外国人レスラー名鑑 ラ
日本人では、新日本プロレス所属の獣神サンダー・ライガーがロメロ・スペシャルを得意技としています。以下、サンダー・ライガーの談:
素人が力の加減を分からずに掛けるのは、非常に危険です。掛けられる側が肩を脱臼したり、足首をけがしたりする恐れがあります。相手が女性であれば、なおさらです。スカートであれば“モロ見え”になってしまいますし、手も固められて隠すことができず、完全にセクハラでしょう。くれぐれも、面白半分で掛けないでください(参照元『スポーツ報知』)。
プロレスでは、八百長とまでは言えないものの、ある意味ショーや興行の要素が多く含まれます。したがって、プロレスラーは対戦相手に力の加減を分かった上で技を掛けていると思います。セクハラ行為を止めるのはもちろんですが、危険な行為も絶対に止めましょう。
今回のことを男女雇用機会均等法で考えてみる
今回の滋賀県警の例はセクハラ行為の事例ですが、セクハラ行為は法律上の規定があります。まずは、次の条文をご覧ください。
男女雇用機会均等法11条
事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。
「男女雇用機会均等法」を 正式には、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下、「法」という。)といいます。
第2項の厚生労働大臣指針は、平成18年厚生労働省告示第615号のことを言っています。この指針は、法11条第1項に規定する事業主が雇用管理上講ずべき措置を円滑に実施するために、必要な事項を定めたものです。同指針においては、法11条における「職場」・「労働者」・「性的な言動」の言葉の定義と、セクハラの定義及びどのような場合にセクハラに該当するか等について具体的に定めています。それぞれの言葉の定義は次の通りです。
職場:
「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、「職場」に含まれる。
今回の、ロメロスペシャル技掛けによるセクハラは、職場の懇親会において発生したようです。上司が参加するものであれば懇親会も業務の一環と見なされ、飲食店であっても職場に該当します。
労働者:
「労働者」とは、いわゆる正規労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員等いわゆる非正規労働者を含む事業主が雇用する労働者のすべてをいう。
なお、今回の件と直接関係ありませんが、派遣社員に関しては、法11条第1項に規定に関しては、派遣元ではなく派遣先が雇用管理上必要な措置を講ずべき事業主とみなされます。
性的な言動:
「性的な言動」とは、性的な内容の発言及び性的な行動を指し、この「性的な内容の発言」には、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布すること等が、「性的な行動」には、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布すること等が、それぞれ含まれる。
ロメロ・スペシャルは、必要なく身体に触る行為であるため「性的な行動」に該当します。
指針に規定されるセクハラの定義
同指針では、セクハラをその態様に基づき、対価型セクシャルハラスメントと環境型セクシャルハラスメントの2つに分類しており、それぞれの定義は次のようになっています。
対価型セクシャルハラスメント:
「対価型セクシャルハラスメント」とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けること。
環境型セクシャルハラスメント:
「環境型セクシュアルハラスメント」とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること。
今回の滋賀県警の事例は、「環境型セクシャルハラスメント」に該当します。「環境型セクシャルハラスメント」の状況は多様ですが、厚生労働省の指針では、典型的な例として次の3つを挙げています。
- (イ)事務所内において上司が労働者の腰、胸等に度々触ったため、当該労働者が 苦痛に感じてその就業意欲が低下していること。
- (ロ)同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的 に流布したため、当該労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと。
- (ハ)労働者が抗議をしているにもかかわらず、事務所内にヌードポスターを掲示 しているため、当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと。
女性警官にロメロ・スペシャルをかけたということは、まず、上記(イ)に該当します。 朝日新聞の記事には、当該技かけに関係して、懇親会の参加者がその様子を携帯端末で撮影して一部で共有していたという記述があります。ロメロ・スペシャルという技の態様を考えれば、上記(ロ)に該当する可能性も考えられます。したがって、大臣指針における「環境型セクシャルハラスメント」の典型例のうち、2つも該当する深刻な事例として考えられるでしょう。
事業主が講じるべき雇用管理上の措置について
厚生労働大臣の指針では、事業主が講じるべき雇用管理上の措置について次の4つが示されています。
- 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
- 相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
- 1から3までの措置と併せて講ずべき措置:例プライバシー保護マニュアルの策定など
事業主は、セクハラを防止するために、これらの措置を講じることが法11条第1項において義務付けられています。
まとめ
法11条の趣旨は、事業主に対し、セクハラ防止のために講ずべき措置を厳格に定めるようあらかじめ義務付けたものです。朝日新聞の記事に、「職員に対する指導を徹底し、ハラスメントを許さない環境づくりに努める」とする県警のコメントが載っていました。しかし、セクハラが発生してから環境づくりに努めていたら遅すぎます。