Mesoscopic Systems

働くルールを理解してこれからの働き方について考えよう!

残業時間規制と高度プロフェッショナル制度とは矛盾していない

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はじめに

 連合が、「裁量労働制は過労死を引き起こす働き方、政府の働き方改革実現会議で議論している(長時間労働抑制という)方向性と全く違う。」という主張を繰り広げています。この主張は正しくありません。筆者は裁量労働制で働いた経験がありますが、長時間労働や過労とは無関係でした。裁量労働制においては、自分で業務のPDCAサイクルを回し、時間配分を決定できるからです。

 連合は、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度が、長時間労働の助長に繋がり、働き方改革の方向性と整合性が取れないという主張をしていますが、実際は真逆なのです。もし、高度プロフェッショナル制度で一番割を食うとしたら、年功序列賃金が保障されだらだら残業してその結果年収が1000万を超えているような、大企業中高年正社員のローパフォーマーでしょう。因みに、ローパフォーマーには、労働時間規制の対象外である管理職の役職にはないという意味も込められています。

 総務省統計局によると、日本の総雇用者数は、平成28年12月現在、5798万人です。連合が労働者代表を標榜するならば、ほんの少しの人の主張を代弁するのをやめ、もっと大局的に物事を考えてほしいものです。

ブルーカラーとホワイトカラーの働き方は決定的に異なる

 そもそもブルーカラーは、労働時間に応じて成果を定量化できます。一時間当たり、何個の製品を完成させたかということが利益に直結しているからです。もちろん、技能が熟練し、時間当たりの製品完成個数が上がれば、賃金も上がります。いずれにしても、賃金が時間と連動していることに変わりはありません。

 これに対し、ホワイトカラーにおいては、労働時間と成果とが必ずしも連動していません。利益に直結するような企画やアイディアがすぐに思いつくこともあれば、なかなか思いつかず貢献できないということもあり得るからです。したがって、労働時間と成果とが連動しないホワイトカラーに対しては、成果に応じて報酬が支払われるべきです。

成果型報酬を導入する際に注意すべき点

 そもそも、成果に応じて報酬が支払われることと長時間労働とは無関係です。ただし、この点において注意しておかなければならないことがあります。それは、このような働き方の対象を自らの裁量下で業務を遂行できる場合に限るということです。もしそうでなければ、自分の裁量を超えた大量の業務を抱えることにつながりかねません。そうすると、仕事が一向に終わらないどころか残業代も支払われないというブラック企業のごとき扱いに悪用される危険性があります。

 高度プロフェッショナル制度の創設を盛り込んだ労働基準法改正案に対して「残業代ゼロ法案」というレッテル貼りをしている人たちは、おそらくこの危険性を指摘しているのでしょう。しかし、高度プロフェッショナル制度では使用者の指示を受けないということを法的に明確化すれば、このような危険性を解消できます。

 その一方で、ブラック企業は、サービス残業を強要し現行法すら守っていません。連合は、不必要な誤解を回避するために、高度プロフェッショナル制度の創設とブラック企業のサービス残業の問題とを切り離して議論すべきです。

成果が出せなかったらどうなるのか

 ひょっとしたら、こういう反応が返ってくるかもしれません。一生懸命やっているのに成果が出せなかった場合はどうなるのかと。高度プロフェッショナル制度には、その適用において一定の年収要件が課されています。したがって、成果が出せなかった場合、報酬が下がり、当該制度の対象から外れるだけです。そうすれば、再び労働時間管理の対象となり残業代が支払われます。しかし、再びだらだらと残業していると当該制度の年収要件に該当し、高度プロフェッショナル制度が再度適用されます。

 話は少し逸れますが、プロ野球チームが練習時間に応じて選手に報酬を支払っていたら、筆者はそのチームを決して応援したいとは思わないですね。

現行における裁量労働制について

 現在、日本において高度プロフェッショナル制度は導入されていませんが、それに類似した制度が現行の労働基準法の中にも導入されています。裁量労働制です。これは、業務の遂行上労働者の裁量の余地が大きく、報酬も成果によって支払われるのが適切な業務について、実際の労働時間数に拘わらず一定時間労働したものとみなし得るようにした制度です。

 現在、労働基準法において規定されている裁量労働制には、①専門業務型裁量労働制と②企画業務型裁量労働制があります。筆者はかつて、①のもとで働いていた経験があります。そこで、今回は①の制度について詳しく解説します。

専門業務型裁量労働制

 そもそも、この制度の下で働かせることのできる対象業務が法律で明確に規定されています。 

労働基準法38条の3第1項

業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この条において「対象業務」という。)

 対象業務の範囲としては労働基準法施行規則第24条の2の2第2項および平成15年10月22日厚生労働省告示第三五四号で次のように定められています。

一  人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務

二  情報処理システムの分析又は設計の業務

三  新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送番組の制作のための取材若しくは編集の業務

四  新たなデザインの考案の業務

五  放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務

六   コピーライター、システムコンサルタント、公認会計士、弁護士、建築士、不動産鑑定士、弁理士、税理士、中小企業診断士などの業務

 専門業務型裁量労働制のもとに労働者を働かせるためには、労使協定を締結し、労働基準監督署長に届け出ることが要件とされていますが、その際に、いくつかの事項を定める必要があります。このうち最も重要な事項は、対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、労働者に対し使用者が具体的な指示をしないという点です。すなわち、管理職から、仕事の進め方の具体的な指示もなければ、何時まで会社に居ろといった命令もありません。仮に、そのような指示があった場合、それはもはや裁量労働制とは言いません。

 したがって、裁量労働制と過労死と何の関係があるのかが筆者には全く理解できません。

まとめ

 成果で報酬が支払われるようになると確実に言えることがひとつあります。それは、年功序列型賃金が崩壊するということです。これは、若い人たちに福音をもたらすことになります。年功序列型賃金は、高度成長期の長期雇用契約のもとで次第に発展しました。年齢や勤続年数が重要な評価基準とされるため、若いうちは働きに見合った処遇が得られません。 年功序列型賃金では、若い社員が一生懸命働いて成果に見合った報酬を得ようにも、その一部が中高年の高額な給料に流れているのです。

 慢性的な人材不足にあった高度経済成長期では、若いうちの貢献分を定年まで働き続けることで最終的に清算するため、転職を防止するという機能を果たしていました。しかし高度経済成長期とは異なり、現在のグローバル経済の下では、企業が安定的に存在し続けるとは限りません。そのため、経済情勢変化の荒波が激しく、数年先の見通しも立たない昨今、このような賃金体系はすでに破綻しているのです。ちょうど、年金のシステムと類似しています。そのため、若い人ほど声を大にして、成果型報酬の導入を主張すべきなのです。