はじめに
パナソニックの工場で過労死が相次いでいます。報道をまとめます。
①パナソニック森田工場(福井県福井市)
- 平成27年10月20日、パナソニック森田工場に勤務する40代男性が夜勤明けの帰宅途中に意識を失い、死亡。死因はくも膜下出血。
- 福井労働基準監督署が長時間労働による過労死と労災認定(平成29年1月31日付)。
- 死亡する前の2カ月間、過労死ラインとされる月80時間ほどの時間外労働が続いていたと遺族代理人が明らかにした。
②パナソニック富山工場(富山県砺波市)
- パナソニック富山工場で働く40代の男性が、平成28年6月に死亡。
- 砺波労働基準監督署が平成29年2月に長時間労働による過労死と労災認定。
- 会社側は男性の死因や仕事内容を明らかにしていないが、死亡直前の時間外労働は月に100時間を超えていて「長時間労働の実態があった」と認めている。
日本経済新聞・毎日新聞・朝日新聞・中日新聞等が報道していますが、いずれもベタ記事で短いものでした。報道すらしていない新聞社もありました。因みに、東洋経済新報社が広告宣伝費の多い企業ランキングを発表しています。
パナソニックは9位で、1042億円の広告宣伝費を投じています。
工場労働における労働過密性
工場労働の場合、騒音や温度変化等身体に悪影響を与える作業環境が考えられます。裁量労働制や高度プロフェッショナル制度とは異なり、ブルーカラー(工場労働者)は製造ラインに拘束されており、労働者の裁量にゆだねる領域が狭くなります。このような拘束性の高い職場では、過重負荷が特に高まります。それゆえ長時間労働に至らないよう労務管理を特に徹底すべきです。短期間に工場での過労死が相次いでいるということは、労務管理に何か問題があった可能性を否定できません。
都道府県労働局長の会見
富山の地元放送局である北日本放送は、2017年3月3日に行われた厚生労働省富山労働局 山崎英生局長の定例会見の様子をアップしました(参照元:長時間労働でパナソニック社員死亡、労災認定|KNBニュース|北日本放送|KNB WEB )。
山崎局長の談:
「過重労働や長時間労働を含めましてそういったもので労働者がけがをしたり病気になったりまたは、亡くなったりすることはあってはならないと考えている。」
日本では労働基準監督官が少なすぎます。もし、労働者が亡くなる前に、労働基準監督官が同事業所の監督に訪れて、労務管理の是正を勧告していたら、このようなことは起こらなかったかもしれません。労働基準監督署は、都道府県労働局の下部組織です。「過労死はあってはならないと考えている」のであれば、「監督官を増やす」とか「定期監督の頻度を上げる」とかもっと具体的なことを言うべきです。
厚生労働省基発第1063号通達について
最近新聞報道等で、過労死認定基準という言葉をよく目にするようになりました。過労死認定基準とは、厚生労働省基発第1063号を意味します。 近年になってやっと、長時間労働と過労死の因果関係が盛んに叫ばれるようになり、世間に周知されるようになりました。
労働時間に着目した場合の過労死ラインは、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働です。その他にも、極度の精神的緊張や騒音や温度環境等作業環境要因も加味されます。働く上で、極めて重要な資料ですので、みなさんもこれを熟読し、自分の現在の働き方と比較検討することをお勧めします。
脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準
脳血管疾患及び虚血性心疾患等による過労死認定については、先述の「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(基発第1063号)に基づいて、相当因果関係の判断がなされます。認定要件を簡単にまとめます。
認定要件:
次の(1)、(2)又は(3)の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、「その他業務に起因することが明らかな疾病」として取り扱う。
(1) 発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと。
(2) 発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと。
(3) 発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと。
疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間が長いほど、業務の過重性が増すところであり、具体的には、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて、
① 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること
② 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること
まとめ
このように、明確かつ詳細な過労死認定基準が定められているのに、過労死の報道が後を絶ちません。過労死認定要件がまだ労働者に詳しく周知されていないことも考えられます。