読売新聞の記事の概要
2017年2月16日の読売新聞の記事です。
労基署、知事らを書類送検…県が賃金未払い容疑 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
記事の概要
- 奈良労働基準監督署(奈良市)が荒井知事と、当時の県中央こども家庭相談センターの幹部ら3人を、労働基準法違反(賃金未払い)の疑いで書類送検していたことが、関係者への取材でわかった
- 奈良県が非常勤嘱託職員の女性に対し、14年4月9日~6月18日の間に、計約3時間分の時間外労働の賃金約3500円が未払いだったという容疑
- 同センターの笹川宏樹所長は「書類送検されているとは知らなかった」としている
- 県人事課は「労基署からの指導に基づき必要な支払いは済ませており、対応済み」としている
この記事を読んだとき、俄かに信じがたいものがありました。不思議な点がいくつかあるので考えてみたいと思います。
読売新聞の記事の不思議な点をいくつかまとめてみた
不思議な点1
通常このように大きなニュースとなると、記者クラブメディアは一斉報道するはずなのですが、なぜか読売新聞の独自の記事になっていて他社は一切報道していません。
不思議な点2
2017年2月16日に読売新聞が一回報道しただけで、今のところ後追い報道の形跡が見られません。
不思議な点3
書類送検された本人がその事実を知らないということがあるのでしょうか。記事によると奈良県知事も書類送検されたことになっています。知事も知らなかったということですか。
不思議な点4
記事には「関係者の取材でわかった」とありますが、関係者って誰でしょうか。関係者とは労基署の方ですか検察庁の方ですかそれとも奈良県の方ですか。
不思議な点5
記事によると「昨年11月18日付」とありますが、送検期日のことですか。3か月以上経ちますがそれからどうなったのでしょうか。
不思議な点6
県人事課は「労基署からの指導に基づき必要な支払いは済ませており、対応済み」とありますが、労基署は是正勧告することなく一発送検したということですか。
この読売の記事、本当に謎だらけです。
公務員の場合の時間外労働の取り扱いについて
労働基準法上の適用除外者
今回の読売新聞の記事は、公務員の賃金未払いについて書かれています。公務員の場合、一般の労働者と比べて労働基準法における取り扱いが異なります。そこで、今回は労働基準法の適用が除外されている、適用除外者について考えてみます。
まずは、次の条文をご覧ください。
労働基準法116条
第一条から第十一条まで、次項、第百十七条から第百十九条まで及び第百二十一条の規定を除き、この法律は、船員法 (昭和二十二年法律第百号)第一条第一項 に規定する船員については、適用しない。
2 この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。
このように、一部の職種や事業に従事する人は労働基準法の適用が除外されています。順にそれを追っていきます。
①船員
船員は、総則規定や罰則規定の一部を除き労働基準法の適用が除外されています。海上労働の特殊性から別に法律が設けられているためです。労働時間や休日などについては船員法の規定が適用されます。
②同居の親族のみを使用する事業
いわゆる家族で自営業を営んでいる方々です。さすがに、家族同士で36協定がどうこうとかやってられませんよね。しかし、自営業でも家族ならびに家族以外の労働者を同時に使用していれば取り扱いが異なります。その場合は、次の条件全てを満たせば家族を労働者として取り扱います。
- 事業主の指揮命令下にあることが明確なこと
- 労働時間の管理・賃金の決定や支払い方法が他の労働者と同様であること
- 賃金が就労の実態に応じて支払われていること
要は、家族でも、時間管理や賃金の面で他の労働者と比べて特別扱いをしていなければ労働者として扱うということです。
③家事使用人
いわゆるお手伝いさんのことです。しかし、お手伝いさんを事業としている者に雇われている場合は労働者として取り扱われます。
公務員の場合はどうなるのか
次の条文もご覧ください。
労働基準法112条
この法律及びこの法律に基いて発する命令は、国、都道府県、市町村その他これに準ずべきものについても適用あるものとする。
公務員について具体的には次のように適用が除外されています。
⑴国家公務員の場合
一般職の職員には適用されない
⑵地方公務員の場合
一般職の職員には一部適用が除外されている
地方公務員一般職の場合、労働基準法の労働時間に係る規定(労働基準法32条第一項・第二項・36条・37条)はそのまま適用されます。したがって、1日8時間・週40時間を超えた時間外労働については、割増賃金を支払わなければなりません。
まとめ
今回の奈良県のケースでは、地方公務員一般職に該当するので、時間外労働をした分、割増賃金が発生します。したがって、例え都道府県や市町村であっても、労働者が申告すれば労基署はサービス残業が無いか臨検を行うことができます。しかし、いくらなんでも今回のケースで県知事が書類送検されたとか、本人が知らないままに書類送検されていたとかいうのは俄かには信じがたいです。