Mesoscopic Systems

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「部下の代わりに自分が残業」という管理職の本音はおかしくないか?

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はじめに

面白そうな記事だったので今回取り上げてみました。

news.mynavi.jp

ボスの日とは何ぞ

上記の記事によると、「ボスの日」(10月16日)とは、上司と部下が円滑な関係を築けるよう、部下がボスを労わり、感謝する日で、アメリカでは「ボスの日」に、部下が上司をランチに招待したり、プレゼントを贈ったりする文化があるそうです。

あるNPO法人が、「ボスの日」推進キャンペーンを実施するそうですが、おそらく日本では普及しないでしょう。

なぜなら、多くの日本企業では、ほぼ毎日部下が上司に対してプレゼントを贈っているからです。

日本で部下が上司に対して贈っているプレゼントとは何か?

多くの日本企業においては、年功序列賃金という賃金形態が採られています。

年功序列賃金制のもとでは、生産性、すなわち労働者が時間当たりに創出する付加価値と、受け取る賃金とが一致していません。

年功序列賃金制では、賃金カーブが意図的に歪められ、中高年労働者に対しては生産性以上に過大に賃金が支払われ、若年労働者に対しては生産性の割に賃金が過少に支払われています。

年功序列賃金制のもとでは、若年労働者から中高年労働者へと所得移転させることによって、全体の均衡を保っています(下図参照)。

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出所:日本銀行調査統計局

すなわち、多くの日本企業においては、休日を除いてほぼ毎日、賃金という形で部下が上司にプレゼントを贈っているのです。

「ボスの日」を定着させたいのなら年功序列賃金を改めるべき

アメリカでは、中高年に対し生産性以上の過大な賃金が支払われることはありえないので、「ボスの日」が定着したのでしょう。

部下が上司を食事に招待したり、上司にプレゼントを贈ったりという「ボスの日」を定着させたいのなら、まず、年功序列賃金制を改めるべきでしょう。

そうすれば、部下も、たまには上司を労おうという気になるでしょう。

「部下の代わりに自分が残業」という管理職の本音はおかしくないか?

上記マイナビの記事のタイトルには、「部下の代わりに自分が残業」という記述が見られます。これっておかしくないでしょうか?

およそ管理職というのは、部下の労働時間や仕事の割り当てを管理しているはずです。

本来部下がやるべき業務まで逆にあてがわれ、残業しているのであれば、「部下の代わりに自分が残業」していると言えますが、そうでなければ、自分の仕事のために自分が居残っているだけです。

仕事をこなすのが遅いからそうなっているだけではないでしょうか。

労働基準法上の管理監督者には残業という概念が存在しない

管理職の中には、労働基準法の管理監督者の扱いがされている方がいます。

労働基準法の管理監督者とは、業務の性質上、法定労働時間や週休制の適用になじまない人たちのことです。

したがって、労働時間の算定方法が一般の労働者と異なります。

労働基準法41条に管理監督者の労働時間の規定があります。

労働基準法41条

この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

一  (略)

二  事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

三  (略)

法41条によって適用除外となる規定の範囲は、次の通りです。

  1. 労働時間の原則と特例、休憩時間及び休日
  2. 時間外休日労働及び時間外休日労働に関する割増賃金
  3. 年少者の労働時間、休日及び妊産婦の労働時間

以下、1~3それぞれについて、詳細を論じます。 

1について

管理監督者は、労働基準法32条および40条の法定労働時間の原則および特例が適用されません。

つまり、管理監督者が1日8時間を超えてあるいは週40時間(特例44時間)を超えて働いたとしても、それを、法定時間外労働と言わないということです。すなわち、管理監督者には残業という概念がありません。

また、管理監督者は、法34条の休憩規定も適用除外とされます。

したがって、例えば、管理監督者が8時間休憩なしで、ぶっ通し働いても労働基準法違反にはなりません。

また、法35条の休日規定も適用されません。

法35条では、週1日以上あるいは4週間で4日以上の休日を使用者は労働者に与えなければならないことになっていますが、管理監督者は、これらの休日なしで働いても労働基準法違反にはなりません。

2について

法定労働時間を超える時間を労働者に働かせる場合、法36条の規定に基づいて、使用者は労使間で36協定を締結する必要があります。しかし、管理監督者にはそもそも法定時間外労働という概念そのものが存在しないので、36協定の締結対象から除外されています。

また、36協定の締結対象から除外されているので、管理監督者に対しては、法37条に規定する時間外・休日労働の割増賃金の支払い義務も発生しません。

3について

さすがに、年少者で管理監督者というのは存在しないと考えられるので、ここでは除外します。

管理監督者に対しては、法66条に規定する、妊産婦の労働時間の適用が除外されています。

では、法66条の妊産婦の労働時間とはどういうものなのでしょうか?

妊産婦の労働時間について

労働基準法で言うところの妊産婦とは、「妊娠中の女性及び産後一年を経過しない女性」(法64条の3)のことです。労働基準法では、母性保護の観点から、妊産婦の労働時間に対して次のように一定の制限事項を設けています。

労働基準法66条

 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第三十二条の二第一項、第三十二条の四第一項及び第三十二条の五第一項の規定にかかわらず、一週間について第三十二条第一項の労働時間、一日について同条第二項の労働時間を超えて労働させてはならない。

2  使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第三十三条第一項及び第三項並びに第三十六条第一項の規定にかかわらず、時間外労働をさせてはならず、又は休日に労働させてはならない。

3  使用者は、妊産婦が請求した場合においては、深夜業をさせてはならない。

このように、妊産婦が請求した場合、変形労働時間制(フレックスを除く)の規定にかかわらず法定時間外労働をさせてはならず、また、36協定の内容にかかわらず、時間外・休日労働をさせてはならないことになっています。

災害・公務による臨時の時間外・休日労働も、妊産婦が請求すれば、これをさせてはなりません。

ところが、法41条に規定する管理監督者の場合、そもそも、法定労働時間・休憩・休日の規定を適用する余地が無いため、管理監督者が仮に妊産婦であったとしても、法66条第1・2項の規定は適用されません。

平たく言うと、妊産婦が管理監督者の場合は、そもそも時間外労働や休日労働という概念が存在しないので、法66条第1・2項の規定が適用されないということです。

管理監督者であっても適用されるもの

一方、管理監督者であっても、深夜業に関する割増賃金規定は適用されます。

ということは、管理監督者が妊産婦であれば、その請求に基づく深夜業の禁止規定(法66条第3項)も適用されます。

管理職は法定の管理監督者と必ずしも一致しない

いわゆる管理職と呼ばれる職位に属しているからと言って、直ちに法で規定するところの管理監督者と同一視できるかと言ったらそうではありません。

法定の管理監督者に該当するか否かは、その名称如何を問わず、あくまでもその実態に即して判断されます。

労働基準法上の管理監督者と認められるためには、次に掲げる3つの要件全てを満たすことが必要です。

  1. 経営方針の決定に参画するあるいは労務管理上の指揮権限を有するなど経営者と一体的な立場にあること
  2. 出退勤の管理を受けず、独自の裁量で勤務時間を決定できること
  3. 職務の重要性に見合う賃金を受けていること(例:管理職手当が別途支給されているなど)

また、この3つの要件は必要条件であって十分条件ではないため、この3つの要件を満たしているからと言って、直ちに法定の管理監督者に適用する義務はありません。

現行法に規定する管理監督者の制度は、職務権限上、労働時間管理の対象から外し、勤務時間を労働者の自由裁量に委ねるという制度です。

したがって、管理監督者として労働時間管理の対象から外されているのに、職務権限を実質的に保有していなければ、法41条の運用を歪めるものであり、決して許されません。

高プロに反対する人は、名ばかり管理職がいるから管理職はいらないと言っているのと同じ

現在、高度プロフェッショナル制度(高プロ)の創設を巡って盛んに議論されていますが、高プロは、職務内容の性質上、労働時間管理の対象から外し、勤務時間を労働者の自由裁量に委ねるという制度です。

したがって、高プロも、職務遂行上の時間配分の決定に関し、労働者の自由裁量が認められなければ、高プロの対象労働者に選定することができません。

だからといって、これが、高プロの創設そのものを否定する論理には繋がりません。そのようなケースを発見次第、労働基準法違反として、監督署が是正勧告を行えばよいだけです。

「長時間労働に繋がる恐れがあるから高プロの創設に反対」というのは、「名ばかり管理職の問題があるから管理監督者はいらない」と言っているに等しいのです。

まとめ

ボスの日を普及させようとするNPO法人の代表理事は、次のように語っています。

ボスの日を盛り上げることで、上司と部下が良好な関係を築き、お互いをリスペクトしあうような職場風土づくりや、本当の意味での働き方改革につなげていきたい(参照元:マイナビ)

はたしてそうでしょうか?

特定の期日を設けて、部下が上司に、食事を奢ったりプレゼントをしたぐらいで、互いにリスペクトし合えるでしょうか?

「喉元過ぎればなんとやら」で、すぐにどうかなってしまうでしょう。

上司が部下からリスペクトされるためには、ただ一つの方法しか残されていません。

それは、生産性相応分の賃金しか受け取らないと上司が宣言することです。

つまり、年功序列賃金制を止めると会社が宣言した日こそ、部下が上司にお祝いのプレゼントをしてくれる日になることでしょう。