Mesoscopic Systems

働くルールを理解してこれからの働き方について考えよう!

「高度プロフェッショナル制度」について

f:id:mesoscopic:20170712073019j:plain

はじめに

 政府は、高収入の専門職を労働時間管理の適用除外とする高度プロフェッショナル制度の創設を盛り込んだ労働基準法改正案を修正する方針を固めました。

高プロの創設を残業代ゼロ法案と言うのは間違っている

 連合やマスコミ各社は、専門職で年収の高い人を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を盛り込んだ労働基準法改正案を「残業代ゼロ法案」と言っています。しかしながら、現行の労働基準法においても、専門職に就いている人を、労働時間管理の対象から外す制度があります。専門業務型裁量労働制です。

専門業務型裁量労働制について

 専門業務型裁量労働制においては、1075万円以上という年収要件は課されていません。すなわち、年収にかかわらず専門業務にさえ就いていれば、時間外・休日労働協定の対象労働者から外されます。但し、労働時間管理の適用除外となるのは、法定時間外労働に関する部分のみです。法定時間外労働とは、1日8時間、週40時間(週44時間の特例あり)を超える労働のことをいいます。

 専門業務型裁量労働制のもとでは、1日何時間働こうが、労使協定で定める時間労働したものとみなされます。たとえば、労使協定で、みなし労働時間を1日8時間と定めた場合、その日の仕事が早く終わって労働時間7時間で帰ろうが、逆に、少し時間がかかってしまって労働時間10時間で帰ろうが、1日8時間労働したものとみなされます。この労働時間制度をみなし労働時間制といいます。ただし、深夜労働や休日労働の割増賃金は、専門業務型裁量労働制の対象労働者にも支給されます。

 ところで、労働基準法には、ノーワーク・ノーペイの原則というものがあります。これは、労働時間管理の対象労働者に遅刻・早退・欠勤があった場合、それに相応する部分の賃金を支払わなくても労働基準法24条の賃金全額払規定に違反しないとする原則のことです。

 1日の労働時間が10時間の場合に2時間分の時間外労働の割増賃金が発生するなら、逆に1時間早く帰ったときは、ノーワーク・ノーペイの原則に則って、1時間分の賃金控除がなされるという意味です。

 これに対し、専門業務に就いている人の多くが、仕事の遂行手段や時間配分の決定において自分自身の裁量によるところが大きいことから、労働時間管理の対象から外し、早く帰ろうが遅く帰ろうが同じ扱いにしているということです。

筆者の経験

 筆者は、かつて専門業務型裁量労働制の下で働いていた経験がありますが、長時間労働や過労とは無縁でした。今日はちょっと疲れたなあと思えば早く帰ればよいだけだし、仕事のきりが良いところまでもう少し頑張ろうと思えば、みなし労働時間より長く働けばよいだけです。いずれにせよ、自分のペースで労働時間の配分を決定し、体調管理ができたことだけは確かです。使用者等とのからみで、もしそれができないようであれば、それはもはや裁量労働制とは言いません。

むしろ日本型雇用慣行のほうが残業代ゼロ雇用慣行

 使用者からの強力な人事権行使が及んでいて、時間外業務命令が発令されたときに明確に拒否できないような職場環境のほうがよっぽど、長時間労働の温床になっていると筆者は思います。さらに言うと、時間管理対象の労働者自らが労働時間を過少申告したり、使用者が労働者に定時間際のタイムカード一斉打刻を強制したりする行為(賃金不払い残業)のほうが、よっぽど残業代ゼロとして問題のある行為です。現行の労働基準法すら守られず、36協定違反や賃金不払い残業が堂々とまかり通っている日本型雇用慣行の方がよっぽど、残業代ゼロの温床になっているのです。

高度プロフェッショナル制度について

高度プロフェッショナル制度とは

 高度プロフェッショナル制度(高プロ)の正式名称は、「特定高度専門業務・成果型労働制」です。労働政策審議会の報告書骨子案には、高プロについて、次のような記述が見られます。

時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにするため、一定の年収要件を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、長時間労働を防止するための措置を講じつつ、時間外・休日労働協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外した新たな労働時間制度の選択肢として、特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル労働制)を設けることが適当

 専門業務型裁量労働制との最大の違いは、深夜・休日労働の割増賃金の支払い義務も適用除外とすることです。

対象業務について

 専門業務型裁量労働制と同じく、制度適用するには、対象業務に就いていることが要件とされます。骨子案では、高プロ対象業務として次のようなものを想定しています。

  • 金融商品の開発業務
  • 金融商品のディーリング業務
  • アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)
  • コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)
  • 研究開発業務等

 この中には、専門業務型裁量労働制の対象業務に含まれていたもの(研究開発業務など)もあり、年収要件さえ満たせば、対象労働者が専門業務型裁量労働制から高プロへと移行する可能性もあります。

健康確保措置等

 高プロの場合、割増賃金支払の算定根拠となる労働時間の把握義務が使用者には課されません。しかし、対象労働者の健康管理維持のために、勤務時間を把握する必要があります。これを、健康管理時間といいます。健康管理時間は、「事業場内に所在していた時間」と「事業場外で業務に従事した場合における労働時間」との合計時間で定義されます。

 その他にも、以下の措置を労使委員会における5分の4以上の多数の決議により講じることが必要とされています。

  1. 労働者に24時間について継続した一定の時間以上の休息時間を与えるものとすること(勤務インターバル制度)。
  2. 健康管理時間が1か月について一定の時間を超えないこととすること(勤務時間上限設定)。
  3. 4週間を通じ4日以上かつ1年間を通じ 104 日以上の休日を与えることとすること(最低休日数)。

 報道によると、年間104日以上の休日付与を使用者に義務付けるよう法案を修正する見通しです。また、長時間労働者の医師による面接指導の実施などについては、一般労働者と同様の措置を講じることが必要とされています。

 裁量労働制においては、使用者が講じるべき健康確保措置を、労使協定に定めることが必要です。一方、高プロでは、健康確保措置が条文に具体的に明記されており、その中に最低休日数や勤務インターバルの規定が盛り込まれている点が特徴的です。

まとめ

 現行の労働基準法に裁量労働制が存在する以上、高プロの創設を盛り込んだ労働基準法改正案を「残業代ゼロ法案」と言うのなら、現行の労働基準法を「残業代ゼロ法」と言う必要があるでしょう。現行の労基法でも残業代が出ない人は、裁量労働制の対象労働者の他にもたくさんいるからです。管理職や秘書がその代表例です。

 高プロの創設を残業代ゼロ法案と言うのなら、豊田真由子議員の元政策秘書の方も、現行の労基法を残業代ゼロ法と言わなくてはならなくなってしまいますね。