はじめに
今回は、「送検事例をもとに、ブラック企業を検証しその対策を考える」の第17回目です。
平成29年11月9日、十日町労働基準監督署は、労働者にフォークリフトを無資格で運転させていたとして、農事組合法人グリーンアース津南と同組合代表理事を労働安全衛生法違反の容疑で新潟地検長岡支部に書類送検しました。
事件の概要
書類送検された企業:
農事組合法人グリーンアース津南
(新潟県中魚沼郡津南町)
≪平成29年11月9日送検≫
- 十日町労基署は平成29年7月、同法人に対してフォークリフトの無資格運転に関する是正指導を実施。
- 同年10月の再監督時、同法人は法違反を是正していなかった。
- そこで同労基署は書類送検に踏み切った。
(違反法条:労働安全衛生法61条)
(参照元:『労働新聞社』 https://www.rodo.co.jp/column/32207/)
フォークリフトの運転には資格が必要
前回は、建設機械の一種であるローラーの運転業務に就く際に必要な特別教育について解説しました。
ローラーの運転業務には、就業制限規定が特に設けられておらず、法定の特別教育を受講すれば、誰でもローラーを運転(但し道路上を走行させる運転を除く。)することができます。
しかし、フォークリフトは違います。最大荷重が1トン以上のフォークリフトの運転業務には、就業制限規定が設けられています。
「資格を有する者でなければ、当該業務に就かせてはならない」ことが労働安全衛生法において規定されています。
就業制限について
次の条文をご覧ください。
労働安全衛生法61条第1項
事業者は、クレーンの運転その他の業務で、政令で定めるものについては、都道府県労働局長の当該業務に係る免許を受けた者又は都道府県労働局長の登録を受けた者が行う当該業務に係る技能講習を修了した者その他厚生労働省令で定める資格を有する者でなければ、当該業務に就かせてはならない。
このように労働安全衛生法は、クレーンの運転その他一定の業務について就業制限を設けています。
就業制限に係る業務16種類
労働安全衛生施行令20条は、就業制限に係る業務16種類を次のように定めています。
労働安全衛生施行令20条
一 発破の場合におけるせん孔、装てん、結線、点火並びに不発の装薬又は残薬の点検及び処理の業務
二 制限荷重が五トン以上の揚貨装置の運転の業務
(揚貨装置とは、船舶に取り付けられたクレーン状の装置のことで、制限荷重が5トン以上の場合は資格が必要です。一方、5トン未満の揚貨装置の場合は資格は必要ありませんが、特別教育が必要です。)
三 ボイラー(小型ボイラーを除く。)の取扱いの業務
四 前号のボイラー又は第一種圧力容器(小型圧力容器を除く。)の溶接(自動溶接機による溶接、管(ボイラーにあつては、主蒸気管及び給水管を除く。)の周継手の溶接及び圧縮応力以外の応力を生じない部分の溶接を除く。)の業務
五 ボイラー(小型ボイラー及び次に掲げるボイラーを除く。)又は第六条第十七号の第一種圧力容器の整備の業務
六 つり上げ荷重が五トン以上のクレーン(跨こ線テルハを除く。)の運転の業務
七 つり上げ荷重が一トン以上の移動式クレーンの運転(道路上を走行させる運転を除く。)の業務
八 つり上げ荷重が五トン以上のデリックの運転の業務
九 潜水器を用い、かつ、空気圧縮機若しくは手押しポンプによる送気又はボンベからの給気を受けて、水中において行う業務
十 可燃性ガス及び酸素を用いて行なう金属の溶接、溶断又は加熱の業務
十一 最大荷重が一トン以上のフォークリフトの運転(道路上を走行させる運転を除く。)の業務
十二 機体重量が三トン以上の別表第七第一号、第二号、第三号又は第六号に掲げる建設機械で、動力を用い、かつ、不特定の場所に自走することができるものの運転(道路上を走行させる運転を除く。)の業務
就業制限に係る建設機械
別表第七第一号、第二号、第三号又は第六号に掲げる建設機械とは、次の通りです。
一 整地・運搬・積込み用機械1 ブル・ドーザー2 モーター・グレーダー3 トラクター・シヨベル4 ずり積機5 スクレーパー6 スクレープ・ドーザー7 1から6までに掲げる機械に類するものとして厚生労働省令で定める機械二 掘削用機械1 パワー・シヨベル2 ドラグ・シヨベル3 ドラグライン4 クラムシエル5 バケツト掘削機6 トレンチヤー7 1から6までに掲げる機械に類するものとして厚生労働省令で定める機械三 基礎工事用機械1 くい打機2 くい抜機3 アース・ドリル4 リバース・サーキユレーシヨン・ドリル5 せん孔機(チユービングマシンを有するものに限る。)6 アース・オーガー7 ペーパー・ドレーン・マシン8 1から7までに掲げる機械に類するものとして厚生労働省令で定める機械六 解体用機械1 ブレーカ2 1に掲げる機械に類するものとして厚生労働省令で定める機械
十三 最大荷重が一トン以上のショベルローダー又はフォークローダーの運転(道路上を走行させる運転を除く。)の業務
十四 最大積載量が一トン以上の不整地運搬車の運転(道路上を走行させる運転を除く。)の業務
十五 作業床の高さが十メートル以上の高所作業車の運転(道路上を走行させる運転を除く。)の業務
十六 制限荷重が一トン以上の揚貨装置又はつり上げ荷重が一トン以上のクレーン、移動式クレーン若しくはデリックの玉掛けの業務
フォークリフトは最大荷重1トン以上と1トン未満で扱いが異なる
フォークリフトの場合、最大荷重が1トン未満であれば、特別教育を受講することにより、運転業務(道路上を走行させる運転を除く。)に就くことができます。
しかし、最大荷重が1トン以上であれば、所定の技能講習を終了し、資格を取得する必要があります。
技能講習は、次の通り規定されています。
労働安全衛生法76条
第十四条又は第六十一条第一項の技能講習(以下「技能講習」という。)は、別表第十八に掲げる区分ごとに、学科講習又は実技講習によって行う。
2 技能講習を行なった者は、当該技能講習を修了した者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、技能講習修了証を交付しなければならない。
3 技能講習の受講資格及び受講手続その他技能講習の実施について必要な事項は、厚生労働省令で定める。
フォークリフトの運転については、労働安全衛生法別表18第9号に掲げられる「フォークリフト運転技能講習」を受講する必要があります。
講習の細目については、以下の規定にあるように、「厚生労働大臣が定める」としています。
労働安全衛生規則83条
第七十九条から前条までに定めるもののほか、法別表第十八第一号から第十七号まで及び 第二十八号から第三十五号までに掲げる技能講習の実施について必要な事項は、厚生労働大臣が定める。
上記の規定に基づき、フオークリフト運転技能講習規程を定めています。第2条に講習内容の詳細についての規程がみられます。
フオークリフト運転技能講習規程第2条
技能講習のうち学科講習は、次の表の上欄に掲げる講習科目に応じ、それぞれ、同表の中欄に掲げる範囲について同表の下欄に掲げる講習時間により、教本等必要な教材を用いて行うものとする。
2 技能講習のうち実技講習は、次の表の上欄に掲げる講習科目に応じ、それぞれ、同表の中欄に掲げる範囲について同表の下欄に掲げる講習時間により行なうものとする。
学科と実技の詳細は、次の表のとおりです。
一方、最大荷重1トン未満のフォークリフトの運転(道路上を走行させる運転を除く。)の業務に必要な、特別教育については、労働安全衛生規則39条の規程に基づき、安全衛生特別教育規程第7条に具体的な内容が定められています。
具体的な教育課程は次の表の通りとなっています。
最大荷重1トン以上のフォークリフトの運転業務の場合に必要な、「フォークリフト運転技能講習」の場合と比べ、簡易的な内容になっています。
フォークリフトで一般公道を走るときは別の資格が必要
これまでは、労働安全衛生法の範疇で、フォークリフトの運転業務について考えていきました。「フォークリフト運転技能講習」(最大荷重1トン以上の場合)もしくは、「フォークリフト運転特別教育」(最大荷重1トン未満の場合)を受講し修了すれば、事業所内であればフォークリフト運転業務に就くことができます。
しかしながら、この資格だけではフォークリフトで一般公道を走ることはできません。フォークリフトで一般公道を走るためには、道路交通法規定の大型特殊自動車免許、小型特殊自動車免許が必要です。
まとめ
このように、フォークリフトについては、最大荷重に応じて取り扱いが異なることに留意が必要です。
今回の事例は、当初、監督署がフォークリフトの無資格運転につき是正勧告をおこなったものの、再監督によって改められていなかったため書類送検されたという事例です。
フォークリフトで1トン以上のお米を運搬する際は、特別教育でなく資格が必要です。
ところで、新潟県の魚沼というと、全国有数の米どころです。
しかし、いくら運ぶ米が多いと言っても監督署の指摘を無視すると書類送検されるので気を付けましょう。