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パナソニックを税制上の優遇認定取り消し処分:大阪労働局

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はじめに

 パナソニックが富山県の工場で違法長時間労働をさせたとして、労働基準法違反の疑いで書類送検されたことを受け、大阪労働局は、同社が認定を受けている税制上の優遇を取り消す方針を固めました。

mainichi.jp

 税制上の優遇とは、くるみん税制のことです。報道によると、パナソニックはプラチナくるみん認定を受け、税制上の優遇を受けていたそうです。今回の報道は、税制優遇措置の取り消し方針を大阪労働局が固めたというもので、パナソニック側から辞退の申し出があったわけではありません。

 一方、電通は、違法な長時間労働による書類送検を受けて、くるみん認定の辞退を申し出ました。なお、くるみん認定を受けても税制上の優遇措置はあります。

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パナソニックはくるみん認定を受けるに値するか

 くるみん認定は、仕事と子育ての両立に積極的な取り組みを行っている企業に対し「子育てサポート企業」として厚生労働大臣が認定するもので、平成28年12月末時点で2634社が同認定を受けています。

 プラチナくるみん認定は、くるみん認定を受けた企業のうち、さらに相当程度「子育てサポート」の取り組みを行っている企業として厚生労働大臣が認定するもので、平成28年12月末時点で108社が同認定を受けています。

 くるみんやプラチナくるみんの認定を受けた企業は、自社の商品や、労働者の募集広告などにくるみんマークプラチナくるみんマークといったシンボルマークを付すことができます。どんなデザインかは、下記のリンクを参照してください。

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 また、 子育てサポートの他に、仕事と介護の両立の環境整備に取り組む企業として、厚生労働大臣が認定した証として、トモニンというシンボルマークを付すことができます。

 パナソニックは富山の工場で、労働者3人に対し、最長月138時間の違法残業を行わせていた容疑で、砺波労働基準監督署に書類送検されています。 

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 月138時間の違法残業を行わせた企業が、くるみん認定を受けるに値しないことは言うまでもありません。

次世代育成支援対策推進法について

 くるみん認定には根拠となる法律があり、厚生労働省はこの法律に基づいて認定事業を行っています。 くるみん認定の根拠法は、次世代育成支援対策推進法(以下法という。)というものです。この法律は、平成15年7月に成立し施行された比較的新しい法律です。当初、平成27年3月31日までの時限立法でしたが、平成37年3月31日まで10年間延長されました。今回はこの法律について説明します。 

事業主の責務

法5条 

事業主は、基本理念にのっとり、その雇用する労働者に係る多様な労働条件の整備その他の労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために必要な雇用環境の整備を行うことにより自ら次世代育成支援対策を実施するよう努めるとともに、国又は地方公共団体が講ずる次世代育成支援対策に協力しなければならない。

 電通といいパナソニックといい、月100時間を超える残業をさせて書類送検されるような企業が、職業生活と家庭生活との両立が図られるような環境整備をする責務を果たしていないことは明らかです。 

一般事業主行動計画について

法12条第1項

国及び地方公共団体以外の事業主(以下「一般事業主」という。)であって、常時雇用する労働者の数が百人を超えるものは、行動計画策定指針に即して、一般事業主行動計画(一般事業主が実施する次世代育成支援対策に関する計画をいう。以下同じ。)を策定し、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣にその旨を届け出なければならない。これを変更したときも同様とする。

 このように、従業員数が100人を超える民間企業は、一般事業主行動計画を届けなければならないことになっています。これは、義務規定のため、正当な理由なく届出を行わないときは、同条第6項の規定により、行政当局から勧告を受けます。また、一般事業主行動計画には、同条第2項の規定により、次の3つを定めることになっています。 

  1. 計画期間
  2. 次世代育成支援対策の実施により達成しようとする目標
  3. 実施しようとする次世代育成支援対策の内容及びその実施時期

次世代育成支援対策について

 次世代育成支援対策の定義は法2条に規定されています。 

法2条 

この法律において「次世代育成支援対策」とは、次代の社会を担う子どもを育成し、又は育成しようとする家庭に対する支援その他の次代の社会を担う子どもが健やかに生まれ、かつ、育成される環境の整備のための国若しくは地方公共団体が講ずる施策又は事業主が行う雇用環境の整備その他の取組をいう。

 簡潔に言うと、「次世代育成支援対策」とは「子育て支援」のことです。パナソニック富山工場での長時間労働によって同社40代男性が昨年6月に死亡し、過労死が認定されましたが、男性の死因は過労自殺だったそうです。

www.sankei.com

くるみん認定について

 くるみん認定の根拠条文は次の通りです。電通は、この条文に基づいて、くるみん認定を受けていました。

法13条

 厚生労働大臣は、第十二条第一項又は第四項の規定による届出をした一般事業主からの申請に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、当該事業主について、雇用環境の整備に関し、行動計画策定指針に照らし適切な一般事業主行動計画を策定したこと、当該一般事業主行動計画を実施し、当該一般事業主行動計画に定めた目標を達成したことその他の厚生労働省令で定める基準に適合するものである旨の認定を行うことができる。

くるみんマークについて

 くるみんマークの根拠条文は次の通りとなっています。

法14条第1項

前条の認定を受けた一般事業主(以下「認定一般事業主」という。)は、商品又は役務、その広告又は取引に用いる書類若しくは通信その他の厚生労働省令で定めるもの(次項及び第十五条の四第一項において「広告等」という。)に厚生労働大臣の定める表示を付することができる。

プラチナくるみん認定について

 プラチナくるみん認定の根拠条文は次の通りです。パナソニックは、この規定に基づきプラチナくるみんの認定を受けていました。

法15条の2

厚生労働大臣は、認定一般事業主からの申請に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、当該認定一般事業主について、雇用環境の整備に関し、行動計画策定指針に照らし適切な一般事業主行動計画(その計画期間の末日が、当該認定一般事業主が第十三条の認定を受けた日以後であるものに限る。)を策定したこと、当該一般事業主行動計画を実施し、当該一般事業主行動計画に定めた目標を達成したこと、当該認定一般事業主の次世代育成支援対策の実施の状況が優良なものであることその他の厚生労働省令で定める基準に適合するものである旨の認定を行うことができる。

 

認定取り消しについて

 プラチナくるみんの認定取り消しの根拠条文は次の通りです。

法15条の5

 厚生労働大臣は、特例認定一般事業主が次の各号のいずれかに該当するときは、第十五条の二の認定を取り消すことができる。

一  第十五条の規定により第十三条の認定を取り消すとき。

二  第十五条の二に規定する基準に適合しなくなったと認めるとき。

三  第十五条の三第二項の規定による公表をせず、又は虚偽の公表をしたとき。

四  前号に掲げる場合のほか、この法律又はこの法律に基づく命令に違反したとき。

五  前各号に掲げる場合のほか、特例認定一般事業主として適当でなくなったと認めるとき。

 大阪労働局は、この規定に基づき今回、パナソニックのプラチナくるみん認定取り消しの方針を固めました。

税制優遇措置(くるみん税制)について

 くるみん認定やプラチナくるみん認定を受けると、事業所内保育施設や授乳コーナーなど「次世代育成支援に資する一定の資産」について割増償却を行うことができる、税制優遇措置(くるみん税制)を受けることができます。

まとめ

 毎日新聞の記事には、「パナソニック、税制上の優遇措置取り消しへ」という見出しが掲げられています。ということは、プラチナくるみんもくるみんも取り消しということです。過労で人が亡くなっているのですから、当然でしょう。