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大手新聞社による違法長時間労働が相次ぐ:自社の紙面で報じたか?

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はじめに

 読売新聞が違法長時間労働をさせていたなどとして、労基署から是正勧告を受けていたことが分かりました。朝日新聞が報じました。www.asahi.com

 記事によると、読売新聞大阪本社では、労使協定に定める上限(80時間)を超える83時間の時間外労働をさせたことや、労働契約締結時に労働条件を通知する書面を交付していなかったことがわかりました。

 また、読売新聞北陸支社では、労使協定に定める1日の上限を超えて時間外労働をさせた日があったことがわかりました。

解説

36協定について

 記事で出てくる「協定」は、労働基準法36条に規定する「時間外・休日労働協定」のことです。俗に、36協定とも言います。

 労働基準法の労使協定の一種で、その事業所で直接雇用される全労働者の過半数で組織される労働組合(過半数労働組合)、過半数労働組合がない場合は、その事業所で直接雇用される全労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)と、使用者との書面による協定をいいます。ただし全労働者からは、労働基準法41条に規定する管理・監督者は除かれます。

 労使協定には、労働基準監督署に届け出が必要なものとそうでないものが存在しますが、時間外・休日労働協定の場合、労働基準監督署に届け出ることが必要です。

 時間外・休日労働協定(36協定)には、時間外労働の延長時間および休日労働させることのできる日数について労使間で協定する必要があります。

 時間外労働とは、労働基準法32条に規定する法定労働時間を超える労働を意味します。同条の規定により、法定労働時間は、休憩時間を除き1日8時間・週40時間と定められています。ただし、同法40条は、常時10人未満の労働者を使用する一部の業種について週法定労働時間を44時間とする特例を定めています。 

 36協定では、

  1. 1日
  2. 1日を超え3箇月以内の期間
  3. 1年間

について労働時間を延長することのできる時間(延長時間)を定める必要があります。「1日を超え3箇月以内の期間」は、通常は1箇月とされます。

労働契約締結時の書面交付について

 労働基準法15条は、労働者を雇い入れる際、一定事項の労働条件の明示義務を使用者に課しています。一定事項の労働条件には、①絶対的明示事項と②相対的明示事項の2種類があります。このうち、①については、書面による交付が義務付けられています。それぞれの明示事項を列挙します。

絶対的明示事項
  1. 労働契約の期間に関する事項
  2. 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
  3. 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
  4. 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
  5. 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  6. 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
相対的明示事項
  1. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
  2. 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
  3. 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  4. 安全及び衛生に関する事項
  5. 職業訓練に関する事項
  6. 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  7. 表彰及び制裁に関する事項
  8. 休職に関する事項

読売新聞で行われていたことを考察する

 読売新聞大阪本社では、「労基署に届け出た1カ月の時間外労働の上限を3時間超える83時間の時間外労働をさせていた」とあります。ということは、「1日を超え3箇月以内の期間(=1箇月)における延長時間」を80時間と定めていたことがわかります。また、読売新聞北陸支社では、「1日の時間外労働の上限を超えて働かせた日があった」とあります。

 このように、あらかじめ届け出た延長時間の上限を超える時間外労働をさせると、使用者は労働基準法32条違反として労働基準監督署から是正勧告を受けます。

 さらに、読売新聞大阪本社では、「社員と労働契約を結ぶときに労働条件を通知する書面を交付していなかった」とあります。書面交付をしていなかったということなので、労働契約締結時に、絶対的明示事項を労働者に明示していなかったことになります。この場合、労働基準法15条違反として、使用者は労働基準監督署から是正勧告を受けます。

読売新聞は報じたか

 筆者の知るところ、読売新聞が、自社が労基署から是正勧告を受けたことについて報じた形跡は見当たりません。電通も、労働基準法32条違反の罪で有罪判決が下されています。すなわち、程度の差こそあれ、今回報じられた是正勧告事項と同じです。電通のことを散々叩いておきながら、自社が労基署から是正勧告を受けたことを報じないのは、「報道しない自由」を振りかざす卑劣な行為と言えるでしょう。

 電通事件では、山本社長が記者会見を開き、謝罪しました。読売新聞も、労働基準法に違反したことによって是正勧告を受けた事実を自社の紙面を使って報じ、かつ、社長が謝罪会見を開くべきでしょう。そして、読売新聞の記者から質問を受け、違反事項をどのように是正していく意思があるのかを表明すべきです。これくらいしないと、長時間労働や過労死の問題について、いくら紙面を割いて記述しても説得力に欠けます。

他の新聞社はどうか

 他の新聞社についても同様なことが散見されます。北海道新聞は、三田労働基準監督署(東京都)から労働基準法違反の是正勧告を受けていながら、その事実を一切報じていませんでした。

www.mesoscopical.com

 5月23日、朝日・読売・産経・毎日は、北海道新聞社の労働基準法違反を一斉に報道しました。

 北海道新聞では、全社員の7割を超える1064人について、14年2月~16年4月、計約2億8300万円の時間外・休日労働の割増賃金の未払いがあることがわかりました。是正勧告は2016年3月18日付で、同年5月までに当該割増賃金については支給済みと言いますが、支給すればそれで終わりというものではありません。

 是正勧告を受けたことを速やかに自社の紙面を用いて読者に伝えなければ、長時間労働や過労死、賃金不払い残業の問題について何を書いても説得力がありません。社長が会見を開いて、北海道新聞の記者から質問を受ける必要もあったでしょう。

ちゃんと報じた新聞社もある

 日本経済新聞が、昨年9月~今年2月に東京本社総務・経理部門などで36協定違反の不経済な時間外労働をさせていたことも今年の6月に発覚しました。東京労働局中央労働基準監督署は、労働基準法32条違反で同社を是正勧告しました。勧告は5月30日付。

www.mesoscopical.com

 日本経済新聞は、6月27日、自社が労基署から是正勧告を受けたことを報じました。新聞社として、最低限のモラルを守ったと言えるでしょう。しかし、日本経済新聞の社長が記者会見し、謝罪し、同社の記者から、賃金不払い残業が日本経済に与える影響についてなどの質問を受けなければまだ不十分と言えるでしょう。

まとめ

 以上、新聞社の労働基準法違反による是正勧告事例について考察しました。

 北海道新聞や読売新聞のように、報道しない自由を振りかざし最低限のモラルすら守らない新聞社もあれば、日本経済新聞のように自社が労基署から是正勧告を受けたことを報じた新聞社もあります。

 ところで、読売新聞が是正勧告を受けたことを報じた朝日新聞は大丈夫でしょうか?

 週刊現代は、「昨年12月6日付で、朝日新聞が違法長時間労働による是正勧告を受けていた」ことを報じています。

gendai.ismedia.jp

 朝日新聞は、読売新聞の是正勧告について報じると同時に、このことの真偽についても報じるべきです。週刊現代の記事が真実なら、朝日新聞は自社の紙面を割いて、同事項を報じるべきではないでしょうか。週刊現代の記事が真実でないなら、朝日新聞は自社の紙面を割いて、週刊現代に対し抗議すべきではないでしょうか。報道しない自由を振りかざし、同事項の真偽を長期間曖昧にしたままなのは、報道機関としてあまりにも不誠実と言えないでしょうか。

 このように、他社の労働基準法違反について声高に報じる一方で、自社の労働基準法違反については報じないという姿勢は報道機関としての自滅を意味します。このような姿勢を貫くのであれば、今後、新聞が日本の働き方の問題について何を書こうが説得力に欠けるのは間違いないでしょう。