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NHKで残業代未払い:大晦日の歌番組の前に検証番組を放送しよう

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はじめに

 NHK山口放送局で残業代の未払いがあったとして、山口労働基準監督署が先月、労働基準法違反で同放送局に是正勧告をしていたことがわかりました。勧告は9月29日付。朝日新聞が報じています。

www.asahi.com

 同放送局では、一部の職員に、自己申告による勤務時間がタイムカードから算定された勤務時間より短くなっていたといいます。労基署の指摘を受け同放送局内で勤務実態を調査した結果、今年4~6月、11人の職員に計約9万2千円分の未払い残業代があることがわかりました。朝日新聞の他に、毎日新聞や産経新聞が報じましたが、筆者の知るところ、NHKが同是正勧告について報じた形跡は見当たりません。

解説

 平成29年1月20日、厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を策定しました。その趣旨は次の通りです。

 労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有している。

 しかしながら、現状をみると、労働時間の把握に係る自己申告制(労働者が自己の労働時間を自主的に申告することにより労働時間を把握するもの。以下同じ。)の不適正な運用等に伴い、同法に違反する過重な長時間労働や割増賃金の未払いといった問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるところである。

 このため、本ガイドラインでは、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置を具体的に明らかにする。

 NHK山口放送局の事例は、本ガイドラインの趣旨に反する典型例です。では、本ガイドラインで推奨されている適正な労働時間把握方法について検証していきます。

労働時間を把握する方法

 本ガイドラインでは、使用者が労働時間を把握する方法として次の2つを原則としています。 

  • ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
  • タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。

 労働時間把握においてタイムカード制と自己申告制が併存する場合は、原則的に前者の方式によって把握された労働時間が優先されます。本事案は、両者の方式によって把握された労働時間に乖離が見られたため、タイムカードに基づく客観的データが優先されました。

 一方、「やむを得ず自己申告制によって労働時間把握をする場合は、次の措置を講じなければならない」と定められています。

 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。

 特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。

 すなわち、タイムカードが存在しない場合でも、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、その他の客観的傍証によって自己申告により把握した労働時間に補正を加えなければならないことになっています。

 実態調査の結果、タイムカードその他客観的資料によって把握される労働時間より短く実態把握がなされていた場合、労働基準法違反の疑いが発生します。客観的データに基づく時間外労働時間よりも短い実態把握がなされていれば、賃金不払い残業に該当し、労働基準法37条違反により、使用者は労基署から是正勧告を受けます。

ブラック企業がブラック企業の問題を報道しても何の説得力も無い

 確かに、ブラック企業問題について最も早い段階から報道していたのはNHKです。これに伴って、NHKはこれまでにブラック企業問題をテーマにした様々な番組を制作してきました。しかし、番組の制作主体たるNHKにブラック労働が横行していては何の説得力もありません。

 今回の問題についてNHK広報局は、残業代の未払いは職員の入力ミスや勘違いによるものだったと説明したうえで、「職員の理解が十分でない部分があったことから、先月から全国の各放送局で勉強会を実施し、勤務制度の周知徹底を図っている」とコメントしています。

 であるならば、NHKは、いったいどのような入力ミスが行われていたのかやどのような勘違いが発生していたのかについて検証番組を制作すべきです。また、勉強会を実施するとしていますが、どのような勉強会が行われ、そこから何を得たのかについてドキュメンタリー番組を制作すべきでしょう。さらに、同是正勧告についてNHK会長が謝罪会見を開き、NHKの記者から労務環境改善の方向性について質問を受けるべきでしょう。

 それらができなければ、NHKがブラック企業や長時間労働の問題について何を報道しても、視聴者から信じてもらえないでしょう。

まとめ

 NHKは、他にも問題を引き起こしています。「NHK女性記者過労死」の隠ぺい問題です。NHK記者として都庁などを担当していた佐戸未和さん(当時31歳)が159時間にものぼる時間外労働の末、2013年7月うっ血性心不全で亡くなっていたことが最近わかりました。

 佐戸さんが亡くなった2013年7月以降も、NHKは佐戸さんの過労死の事実を伏せたまま、ブラック企業に関する番組を何度も放送しています。取材活動を最前線で行う記者の一人が、ブラック労働の果てに過労死していたという事実は、日本社会において如何にブラック企業問題が根深い問題かを表しています。

 ブラック企業問題の発信源たるNHKにブラック労働が横行していたという事実は、NHK報道の信頼性を根底から覆す結果に繋がったことでしょう。