Mesoscopic Systems

働くルールを理解してこれからの働き方について考えよう!

いくら水素が宇宙で一番豊富でも利用できなければミライはない

f:id:mesoscopic:20170830004208j:plain

はじめに

 宇宙で一番豊富といわれる、クリーンエネルギー、水素

 トヨタのサイトに出てくるコメントです。それがどうしたのでしょう。

木星や土星や太陽に行くことはできない

 木星や土星といった巨大ガス惑星の組成は、水素やヘリウムといった軽元素が中心です。太陽も同様に、水素やヘリウムといった軽元素が主たる組成です。

 しかし、我々が、木星や土星や太陽に行くことができるでしょうか。私たち人間はこの地球上に存在しているのであり、宇宙空間に存在する水素を利用できない以上、いくら宇宙で一番豊富に存在しようが全く意味がありません。

化石燃料を動力源とする自動車をこれ以上増やしてはならない

 地球温暖化は、地表面から放射される赤外線を吸収する温室効果ガスの大気圏濃度が上昇することにより、気温上昇がもたらされる現象です。温室効果ガスの中で、地球温暖化に最も影響を与えているのが二酸化炭素です。太陽活動に因るという説も存在しますが、それが気候変動に与える寄与は数%と小さく、太陽活動だけでは現在の気温上昇を説明できないことが指摘されています。

 化石燃料を燃やして二酸化炭素を大気圏に拡散してしまった以上、エントロピー増大の法則から言って、それを再び化石燃料に戻すことはできません。これ以上、化石燃料を動力源とするガソリン車やハイブリッド車の台数を増やすことは許されないのです。 

地球上の水素はどうか

 水素貯蔵型燃料電池の燃料は水素です。しかし、水素は水分子や有機化合物の中に取り込まれる形で存在しており、水素分子単独で地球上に存在することは殆どありません。水素やヘリウムなどの軽い元素は、宇宙空間に散逸してしまうからです。 

水素は必ずしもクリーンなエネルギーとは限らない

 トヨタのサイトでは、「水素はクリーンなエネルギー」とありますが、必ずしもそうとは限りません。

 皆さんは、水素というと原子核が陽子1つの軽水素のことを頭に浮かべると思います。しかし、水素にはこの他に2種類の同位体が存在します。

 1つは、原子核が陽子1つと中性子1つとで構成される重水素と呼ばれるものです。これは、安定同位体として存在します。もう1つは、原子核が陽子1つと中性子2つとで構成される三重水素と呼ばれるものです。これは、放射性同位体として存在し、半減期が12.32年で、β線 (18.6 keV)を放射します。また、水素は水素爆弾の原料となっています。重水素や三重水素の核融合反応を利用したものが水素爆弾です。

 さらに、先述の通り、水素は、地球上において単独で存在することは殆どなく、何らかの化合物として存在します。多くは有機化合物または水として存在します。有機化合物の中には、ベンゼンやトルエンなど人体に有害なものが数多く存在します。もちろんこれらにも、水素が含まれます。

 つまり、組成として水素が多く含まれるかどうかを論じても無駄なのです。

 水素がクリーンなエネルギー源だと主張するには、何らかのクリーンな化合物の中に存在する水素をクリーンな手段で単離したときに限られます。すなわち、自然エネルギー由来の電力を用いて水を電気分解して得られる水素のみがクリーンなエネルギー源としての水素ということになります。

 しかし、よく考えてみてください。そうして得られた水素を燃料として燃料電池で発電し電気エネルギーとして利用するくらいだったら、自然エネルギーで発電した電気エネルギーを直接利用する方がずっと効率がよいのは自明の理でしょう。 

水素は軽すぎるから簡単には運べない

 水素をエネルギー源として利用するためには、水素製造工場からエネルギー消費地まで水素を運搬しなければなりません。しかし、これをどのように運搬したらよいのでしょうか。

 そもそも地球上に水素が単独で存在し得ないのはその軽さ故です。空気よりも軽いゆえ、せっかく単離しても放っておくと宇宙空間に散逸していきます。したがって、水素を運搬するためには、何らかの形で閉じ込めを行わなくてはなりません。

 閉じ込めには次の3種類が考えられます。

  1. 物理的に閉じ込め散逸を防止する。
  2. 液化して散逸を防止する。
  3. 別の物質に吸収させ散逸を防止する。

 原理的には、これらの方法によって運搬ができなくもないですが、経済合理性の観点から、これらは全て無駄な作業です。なぜなら、そのために余計なエネルギーと資材を必要とするからです。

 1は、物理的に閉じ込めるために水素製造工場からエネルギー消費地までパイプラインを新たに整備する必要があります。一方、水素エネルギーに変換せず、電気エネルギーを直接利用するのであれば送電線という既存インフラで対応できます。これを鑑みれば、水素パイプラインは荒唐無稽な話です。

 2の水素を液化するというのも無駄な作業です。水素を液化するためには莫大な電気エネルギーを余分に必要とします。だったら、その電気エネルギーを直接送電線に送り込んだ方がはるかに合理的です。しかも、これだけドライバー不足が懸念されているのに、余計な運搬物を増やして、ドライバーに負担をかけるのも問題があります。送電線で電気を送るだけなら、ドライバーを必要としません。

 3の他の物質に吸収させるという方法も無駄な作業です。超無駄な作業と言っても過言ではありません。もともと、単独では存在しないというのが水素の特徴でした。莫大な電気エネルギーを使ってせっかく水素を単離したのに、それを再び何らかの物質に化合させてしまうとは、これほど愚かなことは無いでしょう。

 さらに、化合物を運搬後、エネルギー消費地において再び水素を単離するために、さらに無駄なエネルギーを要します。化合物を運搬するドライバーも必要で、安全衛生上問題があります。

 政府の水素タウン構想では、化合物としてメチルシクロヘキサンを用いる方法が提案されています。 

www.mesoscopical.com

 これは、トルエンに水素を化合させる方法ですが、トルエンは中枢神経麻痺作用のある毒物です。このように人体に有害な物質まで用いて水素を運搬するのがクリーンでエコと言えるのでしょうか。

まとめ

 以上のように、水素を自動車などのエネルギー源として用いることは、無駄なエネルギーを消費し、余計な運搬物を増やし、人体に有毒な物質を用いることにもつながり、エコという観点からも、クリーンという観点からも、経済合理性の観点からも理に適っていません。

 現在、東京オリンピックの選手村を中心に水素タウン構想の実現に向けた国家プロジェクトが推進されていますが、無駄なことに税金を使ってほしくないと国民の一人として心底思います。

 オリンピックで日本が世界中から笑い物にされないためにも、この無駄なプロジェクトの再考を促したいですね。