はじめに
今月25日、徳島自動車道でトラックがマイクロバスに追突し、16人が死傷するという大事故が発生しました。
自動車運転処罰法違反(過失致死)の疑いで逮捕されたトラック運転手は、「前をよく見ていなかった」と前方不注意を認めています。県警は事故原因を慎重に捜査していますが、現場にブレーキ痕が見当たらないことから、居眠り運転の疑いが浮上しています。人手不足に起因する長時間労働が背景にあったのでしょうか。あるいは、単なる前方不注意だったのでしょうか。
徳島道で事故を起こしたトラックに、自動運転機能が備わっていたら事故が防げたかもしれません。
トラック業者の8割超が労働基準関係法令違反
平成29年8月9日、厚生労働省は、「自動車運転者を使用する事業場に対する監督指導、送検等の状況」を公表しました。これは、全国の労働局や労働基準監督署が、平成28年にトラック、バス、タクシーなどの自動車運転者を使用する事業場に対して行った監督指導、送検等の状況について取りまとめたものです。
83.3%のトラック業者に何らかの労働基準関係法令違反が見られたことがわかりました。主な違反事項としては、労働時間が59.3%と最も多く、慢性的な人手不足を背景として、ドライバーが長時間労働に陥っている様子がこの結果から見て取れます。同省は、労働基準監督官が指導した事例も公表しています。
指導事例の概要
同省が公表した指導事例は下記の通りです。
- 運転者の拘束時間や休息期間などが集計・管理されていない。
- 監督署で集計したところ、1日の拘束時間が24時間となる日が2日間続くなどのため、1か月の拘束時間が最長400時間程度となっていた。
- 時間外・休日労働が月100時間を超える運転者が複数認められる。
- 賃金台帳に、労働日数、労働時間数等を記入していない。
いずれも、労働時間に関わるものばかりです。このような事例紹介が厚生労働省からなされると、怖くて高速道路を運転する気になれないというドライバーが多くなるのではないでしょうか。
荷台分離型トラックの導入に補助金を出しても焼け石に水
このように、トラック業界のドライバー不足は深刻であり、結果的に、ドライバーの違法長時間労働に繋がっていることが、全国の労働局・労働基準監督署の監督・指導結果から明らかになりました。
そこで、ドライバーの負担を少しでも軽くできないか、他省庁もいろいろと考えているようです。国土交通省は、車両部分と荷台とを簡単に分離できる特殊なトラック導入した会社に対し、導入費用の一部を負担するという新たな補助金制度を設ける方針を固めました。
NHKは、荷台分離型トラックを導入したニトリの例を紹介しています。荷台を切り離し、別の荷台に付け替えればすぐに出発できるほか、ドライバーが荷物の積み降ろしを行う必要がなく労働時間の短縮や輸送効率の向上につながると報道しています。
そもそも、ドライバーはドライバーであって、ドライバーに荷物の積み下ろしをさせている時点で異常です。「荷台を切り離し、別の荷台に付け替えればすぐに出発できる」というのが却って良くないですね。連続運転を誘発し、結局ドライバーを酷使することに繋がります。ドライバーの数と物量がともに変わらなければ、結局、ドライバーが運転する時間は変わらないのです。だから、この制度は焼け石に水です。
自動運転機能付電動トラックが物流業界に革命をもたらす可能性
ドライバーの人手不足を解消する究極の方法があります。それは、トラックで物を運ぶときにドライバーを必要としないことです。
米電気自動車(EV)大手テスラが、自動運転機能を備えたEVトラックを開発し、試験走行の実施に向けてネバダ州当局とやりとりしていることが明らかになりました。テスラのイーロン・マスクCEOは、航続距離200マイル~300マイルの電動セミトラックを公開することを明らかにしています。www.reuters.com
電気自動車は、ガソリン車・ハイブリッド車・燃料電池自動車と比べ、燃料コストが格段に安いので、これが物流業界に導入されれば、価格競争力が飛躍的にアップします。さらに、EVトラックは構造が比較的単純なため、メンテナンスコストもそれほど必要としません。
近い将来、完全自動運転のEVトラックが高速道路を走行しているかもしれません。EVトラックによる無人走行が実現すれば、物流業界にとって最大のコストである人件費の削減に繋がります。と同時に、ドライバーの人手不足問題も一気に解消に向かいます。さらに、EV走行のためCO2が発生せず、低炭素社会の実現に大きな貢献となります。
テスラが発表予定のEVトラックは、航続距離が200マイル~300マイル(約320~480km)と、長距離トラックとしてはまだスペックは不十分ですが、近距離配送としては十分機能します。
日本のメーカーも頑張っています。三菱ふそうトラック・バス(川崎市)は14日、ニューヨークで電動の小型トラック「eキャンター」の発売式典を開きました。
航続距離は約96kmといいます。トラックの航続距離としてはまだまだ不十分ですが、電動トラックの量産に乗り出したという意味で、その意義は大きいと思います。今後、同車に自動運転機能が備われば、ドライバーの負担軽減に大きく寄与することになるでしょう。
国は、自動運転機能付EVトラックを導入した物流業者にも補助金を出すことを今後検討すべきではないでしょうか。
まとめ
トラック業界の人手不足は深刻であり、ドライバーの長時間労働がデータから裏付けられています。したがって、車両から荷台を切り離す特殊なトラックを導入しただけでは、ドライバー不足の解消には繋がりません。
ドライバーの負担軽減のために、荷物の積み下ろし作業をドライバーが担うべき業務から切り離すことも重要ですが、それ以上に、ドライバーの運転時の負担軽減が重要です。そのためには、自動運転機能付EVトラックの導入が今後必須となっていくでしょう。