はじめに
日本経済新聞社が16年9月~17年2月に東京本社総務・経理部門などで36協定違反の不経済な時間外労働をさせていたことが発覚しました。36協定で合意した時間外労働の上限は月45時間でしたが、上限を超える時間外労働をさせていました。東京労働局中央労働基準監督署は、労働基準法32条違反で同社を是正勧告しました。勧告は5月30日付。
メディアスクラムをやめよう
上記の毎日新聞の記事は、わずか150文字のベタ記事です。その他に朝日・産経が報じましたが、それぞれ、178文字・189文字と大差ありません。新聞社以外の労働基準法違反事例だったら、大々的に報じているように思われますが、こと新聞社の不祥事となると、小さく報じているような気がします。朝日・毎日・産経は報じているだけまだましですが、読売新聞は報じてすらいません。メディアスクラムを組むのは大概にしましょう。
新聞社への是正勧告は以前にも
先月には、北海道新聞社が三田労働基準監督署(東京都)から労働基準法違反で是正勧告を受けていたことが発覚しました。
このときは、社員7割に残業代の未払いが確認されたというもので、労働基準法37条違反に該当します。5月23日に、朝日・読売・産経・毎日が一斉に報道しました。しかし、当の北海道新聞はこのとき自社の労働基準法違反について報道しませんでした。北海道新聞への是正勧告は、昨年3月18日付。各社一斉に報じるまで、北海道新聞は1年以上是正勧告の事実を隠していました。報道機関としてのモラルが問われます。
日本経済新聞は報じたか
日本経済新聞は、自社の労働基準法違反について報じました。
ただ、こちらもベタ記事で、文字数は175文字です。ツイッターの1ツイート当たりの限界文字数(140文字)に毛が生えた程度です。自社のことなのだから、是正勧告の事実をつぶやくのではなく、せめて他社よりは詳細に報じるべきだと思います。また、勧告を受けてから公表まで1か月近くを要したのもどうかと思います。
総務・経理部門には裁量労働制を適用できない
新聞記者の場合、一定の要件を満たせば、専門業務型裁量労働制が適用される場合があります。このとき、同制度を適用された労働者は、労働時間管理の対象から外されます。
しかし、日本経済新聞社の事案のように、総務・経理部門を専門業務型裁量労働制の対象とすることはできません。したがって、時間外労働について、労使協定締結事項を厳守しなければなりません。
日本経済新聞社の東京本社総務・経理部門は、労使協定において延長時間の上限を月45時間と設定していました。この数字は、ちょうど、厚生労働大臣が定める「労働時間の延長の限度等に関する基準」と同じです。実は、時間外労働45時間という上限は非常に重要な意味を持っているのです。
「月45時間の時間外労働」が持つ意味について
労働者が、脳血管疾患・虚血性心疾患などの対象疾病を発症した時、業務起因性の存否を判断する上で、重要となる基準があります。それが、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」と呼ばれるものです。対象疾病の発症に業務起因性があると判断されるためには、長期間の過重業務に就いていたことが認定要件の一つに数え上げられます。
この通達文書には、新聞報道等でよく目にする「発症前1か月間におおむね100時間の時間外労働・発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間の時間外労働」(いわゆる過労死ライン)が記述されています。時間外労働が過労死ラインを超えた場合、業務と発症との関連性が強いと評価されます。
しかし、この文書には、それだけが書かれてあるわけではありません。業務と発症との因果関係については過労死ラインの他に次のような記述が見られることがわかります。
発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること
このように、時間外労働が月45時間以下の場合は、関連性が弱いが、月45時間を超えて時間外労働が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まるとされています。したがって、45時間くらいと思って甘く見ているととんでもないのです。
まとめ
日本経済新聞は、働き方改革について今までどういう感覚で報道していたのでしょうか。また、なぜ労使協定の延長限度を超えてしまったのでしょうか。日本経済新聞を含め各社ベタ記事だし、筆者にとってはクエスチョンマークだらけです。もう少し詳細を報じるべきではないのでしょうか。