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ヤマト運輸社員が大和魂の不足を理由に休憩を与えられなかったとして会見

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はじめに

前回、太平洋戦争のインパール作戦を題材に、旧日本軍とブラック企業との類似性について考察しました。インパール作戦では、補給が全く絶たれ、食料・弾薬が尽き果て、前線の師団長が苦境を訴える中、司令官が大和魂をもとに、なおも戦闘継続を促すという場面がありました。

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このように旧日本軍では、空腹という生理的欲求をも精神力でカバーしろという異常な体質が罷り通っていました。

したがって、おなかが空いたのでお昼休みを取りたくても、「だったらもっと努力しろ・能力を上げろ」と司令官(上司)が発言するのは、旧日本軍の体質と何ら変わりません。

ヤマト運輸配達員による労働環境改善を訴える会見

ヤマト運輸社員が、労働環境の改善を求め18日会見を開きました。  

会見の主な内容は次の通りです。

Aさんは「休憩時間に関してですが、『休憩が取れていません』と、(取れていない)休憩時間60分の給料を支払ってくださいと、書面で(上司に)出すと、『休憩が取れていないのは、君の能力が足らないからだろう』、『努力が足りないからだろう』というふうに言われて。『じゃあ、休憩取りました』と言わざるを得ない」などと話し、上司からの圧力があったことも明かした。

(参照元:fnn.news.com)

報道によると、Aさんの上司は、努力不足や能力不足を理由に、休憩時間の確保に難色を示したようですが、大和魂と休憩の確保とは何の関係もありません。

改めて休憩について考える

休憩時間の長さの原則

労働基準法34条では、労働時間に応じて休憩時間の長さを定めています。使用者が次の休憩時間を労働者に与えないと、労働基準法違反となります。

  • 労働時間≦6時間☞付与義務なし
  • 6時間<労働時間≦8時間☞少なくとも45分
  • 労働時間>8時間☞少なくとも1時間

報道によると、Aさんは、お中元シーズンの7月後半から8月前半にかけて、あわせて80時間の残業を強いられたとのことです。したがって、ほぼ毎日8時間を超える労働時間であったと考えられます。

上記の規定によると、労働時間が8時間を超える場合、使用者は労働者に対し少なくとも1時間の休憩時間を付与しなければなりません。

休憩の三原則

休憩の三原則とは次の3つのことです。

  • 休憩は、労働時間の途中に与えられなければならない
  • 休憩は、一斉に与えられなければならない
  • 休憩は、自由に利用させなければならない

以下、それぞれ見ていきます。

途中付与について

休憩は、労働が継続した場合に蓄積される労働者の心身の疲労を回復するために存在します。したがって、休憩は労働時間の途中に与えられなければなりません。これは、法律上当然に発生する原則です。

したがって、例えば、始業時刻直後いきなり1時間の休憩を与えるとか、8時間継続労働した後に1時間の休憩を与えるということは許されません。

一斉付与について

休憩は一斉に与えられることが原則とされますが、次の事業については性質上必ずしも一斉に休憩が与えられることを必要としていません。

  • 運輸交通業
  • 商業
  • 金融・広告業
  • 映画・演劇業
  • 通信業
  • 保健衛生業
  • 接客娯楽業
  • 官公署

ヤマト運輸の場合は、運輸業なので、一斉付与の例外業種に該当します。したがって、必ずしも一斉に休憩を付与する必要はありません。

また、上記の業種に該当しなくても、労使協定を締結すれば、休憩を一斉に与えないことができるとされています。具体的には、休憩の一斉付与の規定の適用を除外する労働者の範囲や、休憩の与え方などを労使協定で定めた場合、一斉付与既定の免罰的効力が発生します。

なお、この労使協定は、行政官庁への届け出は不要です。

ただし、民事的効力を発生させるためには、労働協約や就業規則等にその根拠規定を定めておく必要があります。

自由利用について

自由利用については、警察官など極めて限定的な職種にその適用が除外されているだけで、それ以外の職種については適用されます。

警察官に対する自由利用適用除外規定を拡大解釈し、警備員に休憩時間を自由に利用させていなかったとして、労基署が是正勧告した事例も存在します。 

休憩時間の労働と時間外労働との関係について

所定労働時間が8時間であるならば、使用者の懈怠により休憩時間が付与されず、当該時間に行われた労働は法定時間外労働に該当します。したがって、割増賃金の支払い義務が発生します。

しかしながら、割増賃金を支払いさえすればそれでよいかと言うとそうではなくて、使用者は、労働時間の途中に休憩時間を与えなかったとして労働基準法34条違反を免れ得ません。

管理職はどうか?

上記の話は、労働時間管理が必要な一般労働者について適用されます。では、労働時間の算定方法が異なる管理職についてはどうでしょうか? 

管理職については、労働基準法34条の休憩に関する規定は適用されません

したがって、一般労働者がお昼休みに休憩しているときに管理職が仕事をしていても、労働基準法34条違反とはなりません。

これは、管理職が経営者と一体的な立場にあるとして、一般労働者と同様の労働時間管理になじまないことに起因します。

だからといって、管理職が一般労働者に同じことを押し付けては絶対になりません。

裁量労働制の対象労働者はどうか?

裁量労働制の対象労働者であっても、休憩に関する規定は適用されます

したがって、みなし労働時間制が適用されているからといって、休憩を取らせないということはあってはなりません。

あくまでも、1日についての法定時間外労働の規定の適用が除外されるだけです。

休憩付与の適用除外について

職種によっては、休憩付与そのものが適用除外とされている場合もあります。しかし、適用除外となる職種は限定列挙されています。

どんな業務がそれに該当するかは、過去記事に記載してあるので参照ください。 

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休憩付与の適用除外とされている職種の中に、「運輸交通業又は郵便若しくは信書便の事業に使用される労働者のうち列車、気動車、電車、自動車、船舶又は航空機の乗務員で長距離にわたり継続して乗務するもの」があります。

配達業の場合、ここが最も混同されやすいと考えられます。

長距離とは、通常6時間以上の継続乗務が必要な場合とされています。

しかがって、宅配サービスのように営業所からの短距離配送業務の場合、上記の規定は該当しません。

まとめ

このように、休憩については、非常に複雑で細かい規定が存在します。しかし、休憩が与えられるか与えられないかは労働基準法の定めによるものであり、本人の努力や能力とは全く関係ありません。

報道では、「Aさん(40代)は『我慢するのか、その会社を辞めるのかという選択肢しかない』と話した」とあります。

インパール作戦では、補給が全く途絶えたことを理由に、前線の師団長が上官の司令官の命令を無視し、独断で食料補給ができる地点まで師団を撤退させました。

この英断により、1万人の兵士の命が助かったとされています。

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旧日本軍の軍人さんですら我慢の限界を通り越すことがあったくらいなのに、そのようなことを我慢する必要がどこに存在するのでしょうか?