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大阪ガス子会社が十分なガス抜きになる休憩を与えず是正勧告:淀川労基署

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はじめに

 大阪ガスの子会社が、警備員に適正な休憩時間を確保していなかったとして労基署から是正勧告を受けていたことがわかりました。

mainichi.jp

 充分なガス抜きとなる休憩が与えられなかったため、警備員の不満やストレスが蓄積し、ついに「爆発」したのでしょう。

大阪ガス子会社の警備会社で何が行われていたか

 大阪ガス子会社の警備業「大阪ガスセキュリティサービス」では、警備員は24時間交代制をとっていました。警備員は、会社の拠点に待機し、顧客に何か異常があった場合に駆け付ける業務に就いていました。同社では、警備員に数時間の休憩が一応確保されていましたが、休憩中にも出動体制が解除されていなかったのことです。休憩時間中なのに仕事しているのと何ら変わりは無いということで、淀川労働基準監督署は同社に対し是正勧告をしました。

労働基準法に規定する休憩時間とは

 では、そもそも労働基準法において休憩時間をどのように規定しているかについて説明します。

労働基準法34条第1項

使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。

 このように労働基準法は休憩時間を、

  • 労働時間≦6時間☞休憩時間の付与義務なし
  • 6時間<労働時間≦8時間☞少なくとも45分の休憩時間を付与義務
  • 労働時間>8時間☞少なくとも1時間の休憩時間を付与義務

と規定しています。

 使用者が、上記の休憩時間を与えなかった場合、労働基準法違反になります。もちろん、使用者が、これを上回る条件の休憩時間を与えることは差し支えないとされています(例:労働時間≦6時間で休憩時間を与える;労働時間=8時間で1時間の休憩時間を与えるなど)。

手待時間について

 手待時間とは、実際に作業に従事していない時間を意味します。例えば、警備員であれば、実際に作業に従事するのは、顧客に何らかの異常が発見され、確認作業のために出動するときです。したがって、会社の詰め所に待機しているときは、手待時間ということになります。手待時間と休憩時間との関係については、次のような解釈例規があります。

昭22.9.13基発17号

「休憩時間」とは、単に作業に従事していないいわゆる「手待時間」は含まず、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間をいう。

 大阪ガスセキュリティサービスでは、休憩時間とされていた時間においても、要請があれば出動しなければならなかったようです。これでは、休憩時間に労働から離れることを保障されているとは言えず、「手待時間」と何ら変わりはありません。

休憩時間の自由利用について

 次の条文をご覧ください。

労働基準法34条第3項

使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。

 このように、労働基準法は、労働者が休憩時間を自由に利用できるよう使用者に義務付けています。休憩時間というと典型的なものにお昼休みがあります。社員食堂を利用する人もいれば、自宅から弁当を持ち込む人、外食する人などいろいろいると思います。では、社員食堂のある事業所で、「外食する際は所属長の許可が必要」という規定があったとします。この規定は違法でしょうか、それとも適法でしょうか?

 答えは、「適法」です。

 これは、次の解釈例規に基づいています。

昭23.10.30基発1575号

休憩時間中の外出について所属長の許可を受けさせることは、事業所内において自由に休憩し得る場合には、必ずしも違法とはならない。

自由利用の適用除外

 休憩時間は、労働者が自由に利用することが原則ですが、中には職務遂行上それが難しい職業も存在します。具体的にどんな職業の人がそれに該当するのかを考えます。

 次の条文をご覧ください。

労働基準法施行規則第三十三条  

法第三十四条第三項 の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。

一  警察官、消防吏員、常勤の消防団員及び児童自立支援施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者

二  乳児院、児童養護施設及び障害児入所施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者

三  居宅訪問型保育事業に使用される労働者のうち、家庭的保育者として保育を行う者(同一の居宅において、一の児童に対して複数の家庭的保育者が同時に保育を行う場合を除く。)

 上記の職務に従事する労働者は、法34条第3項の適用が除外されています。なお、則33条第1,2号の「起居をともにする」とは、「四六時中、児童と生活を共にする」という意味です。また、第2号の適用のためには、あらかじめ所轄労働基準監督署長の許可が必要です。

警備員は警察官と異なる 

 上記の規定は、公衆の不便を避けるために休憩時間の自由利用の原則を適用除外すべき職務を限定列挙したものです。したがって、これを拡大解釈し、使用者が勝手に自由利用の原則を歪めてはなりません。今回の、大阪ガス子会社の警備員のケースは、警察官等に対し規定する休憩時間自由利用の適用除外を拡大解釈した可能性があります。警察官は、職務遂行上全ての人の治安を守る必要があります。一方、警備員は、顧客以外の治安まで守る必要はありません。この違いを明確にしましょう。

休憩付与の適用除外

 休憩付与そのものが適用除外とされるケースがあります。それは、次のような人たちです。

  1. 運輸交通業又は郵便若しくは信書便の事業に使用される労働者のうち列車、気動車、電車、自動車、船舶又は航空機の乗務員で長距離にわたり継続して乗務するもの
  2. 屋内勤務者三十人未満の日本郵便株式会社の営業所において郵便の業務に従事するもの
  3. その者の従事する業務の性質上、休憩時間を与えることができないと認められる場合において、その勤務中における停車時間、折返しによる待合せ時間その他の時間の合計が休憩時間に相当するもの

1について

 例えば次のような人たちが該当します。長距離列車の運転士・車掌、長距離船舶の船長・クルー、国際線のパイロット・客室乗務員など(ただし、列車内販売員は該当しません)。長距離とは、6時間以上の継続乗務が必要な場合とされています。確かに、休憩時間だからと言って国際線航空機の機長に仮眠を取られたらたまったものではありません。したがって、この規定は必ず必要です。

3について

 長距離と言わずとも勤務ダイヤ等の都合上、別の電車・列車・自動車等に乗務せざるを得ない乗務員等が該当します。あくまでも勤務ダイヤの都合上なので、規則正しい休憩付与が難しくなります。したがって、特例的に、手待ち時間を休憩時間に代替せざるを得なくなります。

その他

 いくら休憩時間の自由利用の原則があるからと言って、何をやっても構わないというわけではありません。すなわち、自由利用は絶対的な概念ではなく相対的概念です。これは、次の解釈例規に基づいています。

昭22.9.13 発基第17号

休憩時間の利用について事業場の規律保持上必要な制限を加えることは、休憩の自由を害わない限り差し支えない。

 このように、企業の施設管理権・企業秩序保持・他の従業員の休憩時間の自由利用の妨害に対する未然防止などの観点から、使用者が、休憩の自由利用に対し一定の制約を加えることは差し支えないとされています。この点については、次のような最高裁判例があります。

目黒電報電話局事件 最三小決昭52.12.13

事件の経緯

  • 被上告人は、日本電信電話公社目黒電報電話局(以下「目黒局」という。)施設部試験課に勤務する公社職員であるが、継続して、作業衣左胸に、青地に白字で「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と書いたプラスチツク製のプレート(以下「本件プレート」という。)を着用して勤務した。
  • その間、目黒局の局長及び次長は、被上告人に対し、「局所内でそのようなものをつけては困る。局所内で右のような主義、主張をもつた札、ビラその他を胸につけることは許可しない方針なので直ちに取りはずしてもらいたい。」旨注意を与えた。
  • 被上告人は、本件プレートの取りはずし命令は不当であると考え、これに抗議する目的で、許可を受けることなく、「職場のみなさんへの訴え」と題し、プレート着用について注意を受けた状況及び管理者側の態度が職場の組合活動や労働者の政治的自覚を高める活動を抑えて公社の合理化計画をよりスムーズに進行させるための地ならしであるとの抗議の意見を記載し、職場の要求をワツペン、プレートにして皆の胸につけることを呼びかけた内容のビラ数十枚を試験課、線路課など各課の休憩室及び食堂で職員に手渡し、休憩室のない一部の職場では職員の机上に置くという方法で、配布した。
  • 公社は、被上告人に対し、被上告人のプレート着用行為やビラ配布行為上長の命令に服さないなどの行為は就業規則に違反し、懲戒戒告処分に付する旨の意思表示(以下「本件処分」という。)をした。
  • 原審は、本件処分は懲戒権の濫用というべきであつて無効である、と判断した。
  • これを不服とし、公社が上告した。

判決主文

原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

被上告人の請求を棄却する。

訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

判旨

 休憩時間の自由利用といつてもそれは時間を自由に利用することが認められたものにすぎず、その時間の自由な利用が企業施設内において行われる場合には、使用者の企業施設に対する管理権の合理的な行使として是認される範囲内の適法な規制による制約を免れることはできない

 また、従業員は労働契約上企業秩序を維持するための規律に従うべき義務があり、休憩中は労務提供とそれに直接附随する職場規律に基づく制約は受けないが、右以外の企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れない

 上司の適法な命令に対し抗議をするものであり、また、違法な行為をあおり、そそのかすようなものであつた以上、休憩時間中であつても、企業の運営に支障を及ぼし企業秩序を乱すおそれがあり、許可を得ないでその配布をすることは就業規則に反し許されるべきものではないから、これをとらえて懲戒処分の対象としても、労基法三四条三項に違反するものではない

どう読むか?

 このように、いくら休憩時間中の自由利用が保障されていても、何をやっても良いというわけにはいきません。

 使用者は、企業施設を管理する権限を有しています。したがって、労働者は、いくら休憩中と言えどもその管理権を侵害する行為を行ってはいけません。最高裁は、「管理者側の態度が組合活動を抑えるためだなどと主張する抗議のビラを休憩時間中に配布する行為は、企業秩序を乱すおそれがあり、懲戒処分の対象としても、労基法三四条三項に違反するものではない」と判示しています。

まとめ

 休憩時間については、あまりよく知られていない規定が多いとの印象を持たれた方が多かったのではないでしょうか。労働時間の長さに応じた休憩時間の原則については、もちろん知っておく必要がありますが、休憩時間の自由利用については特に注意が必要です。労働者は、原則として休憩時間を自由に利用することができます。しかし、警察官や消防士のようにその適用が除外されている職業も存在します。使用者は、警察官が適用除外規定に該当することを拡大解釈し、警備員にまでこれを当てはめ、休憩時間の自由利用を妨げてはなりません。一方で、労働者も、自由利用の原則を、「休憩時間には何をやっても良い」と拡大解釈し、企業秩序を乱すほどの行為に及んではいけません。

 使用者が労働者に適正な休憩時間を与えずガス抜きをさせないと、不満の爆発に繋がる一方で、労働者が休憩時間に適正な範囲を超えたガス抜きをすると、企業秩序が吹っ飛んでしまうのです。