Mesoscopic Systems

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酸欠の恐れのある作業を開始する前は作業環境測定が必要

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はじめに

 今回は、「送検事例をもとに、ブラック企業を検証しその対策を考える」の第14回目です。

 平成29年10月19日、神戸西労働基準監督署は、酸素欠乏の危険がある場所に労働者を立ち入らせる際、作業開始前に酸素濃度の測定をしなかったとして、油脂製品製造業のミヨシ油脂㈱(東京都葛飾区)と同社神戸工場(神戸市長田区)の担当課長を労働安全衛生法第65条(作業環境測定)違反の容疑で神戸地検に書類送検しました。

事件の概要

書類送検された企業:

ミヨシ油脂㈱(東京都葛飾区)

≪平成29年10月19日送検≫

  • 平成29年7月、同社の労働者が酸素欠乏で死亡する労働災害が発生した。
  • 同社は、労働者に原料油タンク内の原料油の残量を確認する作業を行わせる前に、酸素濃度の測定を怠っていた。
  • タンク内は原料油の劣化防止のため窒素ガスを充填していたため、酸欠を起こす危険のある場所だった。

(違反法条:労働安全衛生法65条)

(参照元:『労働新聞社』 https://www.rodo.co.jp/column/29786/

酸素すら充分に与えない会社は最もブラック

 残業をしているのに賃金が支払われないいわゆる「賃金不払い残業」を強いる会社は間違いなくブラック企業です。また、人間が健康的に生きていく上では、睡眠時間の確保は重要です。したがって、睡眠時間の確保がままならないくらいの長時間労働が罷り通っている会社も間違いなくブラック企業です。

 そして、人間が生存していく上で絶対に必要なのは酸素です。したがって、酸素が欠乏している環境下で生身の人間を作業させる会社は最悪のブラック企業です。

 何も、宇宙空間での作業を要するNASAをブラック企業だと言っているのではありません。何の安全対策も施さずに、酸素欠乏環境下で労働者に作業をさせる会社をブラック企業だと言っているのです。

酸欠の恐れのある作業を開始する前は作業環境測定が必要

 次の条文をご覧ください。
労働安全衛生法65条第1項

事業者は、有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、必要な作業環境測定を行い、及びその結果を記録しておかなければならない。

 このように事業者は、有害な作業を行う事業場において、作業環境の現状を正確に把握する必要があります。機械の運転状況等であれば、作業環境を視覚的に捉えることができます。しかし作業によっては、有害な作業環境要因を視覚的に捉えられない場合があります。

 このような場合に行われるのが、作業環境測定です。作業環境測定を行うべき作業場は、労働安全衛生法施行令21条に規定されています。

 作業環境測定を行うべき作業場は、次の10種類の作業場です。

  1. 粉じんを著しく発散する屋内作業場
  2. 暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場
  3. 著しい騒音を発する屋内作業場
  4. 坑内の作業場
  5. 中央管理方式の空気調和設備を設けている建築物の室で、事務所の用に供されるもの
  6. 放射線業務を行う作業場
  7. 特定化学物質を製造し、若しくは取り扱う屋内作業場、石綿等を取り扱い、若しくは試験研究のため製造する屋内作業場又はコークス炉上において若しくはコークス炉に接してコークス製造の作業を行う場合の当該作業場
  8. 鉛業務を行う屋内作業場
  9. 酸素欠乏危険場所において作業を行う場合の当該作業場
  10. 有機溶剤を製造し、又は取り扱う業務を行う屋内作業場

 また、それぞれの有害作業に応じて、作業環境測定を行うべき頻度が定められています。例えば、粉じんを著しく発散する屋内作業場であれば、6月以内ごとに1回作業環境測定を行わなければならないと定められています。

 また、測定記録の保存期間も法律で定められています。例えば、粉じんを著しく発散する屋内作業場であれば、測定記録の保存期間は7年間です。

 酸素欠乏危険場所における作業も有害業務であるため、作業環境測定を必要とします。酸素欠乏危険場所の場合、その日の作業を開始する前に必ず作業環境測定を行わなければならないことになっています。この場合の作業環境測定とは、酸素濃度の測定を意味します。因みに、測定記録の保存期間は3年間です。

 ミヨシ油脂㈱は、作業開始前の作業環境測定を怠っていたために、重大な労働災害を招いてしまったのです。 

まとめ

 宇宙空間に酸素が無い事は明らかです。だからこそ、宇宙飛行士が宇宙遊泳する際、宇宙飛行士への酸素供給に細心の注意が払われるのは当然です。

 これに対し、地球上では酸素は当たり前のように存在します。しかし、目には見えません。逆にここが盲点なのです。

 だからこそ、酸欠の危険が少しでもある作業に取り掛かる前には、必ず作業環境測定を行わなければならないのです。