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終身雇用は長時間労働や過労死の原因…百害あって一利なし

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はじめに

 インターネットニュースメディアTHE PAGEが次のような記事を掲載しました。

thepage.jp

 同記事の内容は、筆者がこれまで本サイトにおいて述べてきた主張とほぼ同じです。筆者も、これまで首尾一貫して日本型雇用の弊害について論じてきました。今回は、これまでの議論に基づいて、日本型雇用と長時間労働との関係をまとめます。

そもそも日本型雇用とは何か

 日本型雇用という言葉を新聞や雑誌等で目にすることがしばしばありますが、その定義を述べた記事はほぼ皆無です。日本型雇用は、次の3つの要素によって特徴づけられる雇用システムです。

日本型雇用の3つの要素

  1. 終身雇用
  2. 年功序列賃金
  3. 企業別労働組合

 この他に「新卒一括採用」も要素に加えられることがあります。このような雇用システムは他国に類を見ないため、「日本型」雇用と名付けられています。

雇用調整とは

 およそ資本主義社会においては、景気変動は付き物です。好景気時には企業の製品やサービスの需要が大きくなり、生産水準を高める必要があります。生産水準を高めるには、労働、機械設備、原材料などの生産要素を多く投入する必要があります。逆に、不況時には、製品やサービスの需要が縮小するため、生産水準を低下させる必要があります。生産水準を低下させるには、生産要素の投入量を少なくする必要があります。

 企業の生産水準の変動に対応して、労働投入量を増減させ、利潤を最適化することを「雇用調整」といいます。

 では日本型雇用における、雇用調整の仕組みはどのようになっているでしょうか。

日本型雇用における雇用調整を考える

 労働投入量は、次の式で定義されます。

労働投入量=労働者数×労働者1人当たりの労働時間

 したがって、労働投入量を増減させるためには、次の3つの方法が考えられます。

  1. 労働者数を増減させる。
  2. 労働者1人当たりの労働時間を増減させる。
  3. 労働者数と労働者1人当たりの労働時間の双方を増減させる。

日本型雇用において労働者数をどのように増減させるか

 終身雇用とは、新卒者を定期一括採用し、定年まで期間の定めのない雇用として特定企業の労働市場に組み込むという雇用システムを意味します。言い換えれば、新卒者が定年まで一生同じ会社に勤め続けるという雇用システムです。

 定年までの雇用が保障されている以上、よほどのことが無い限り解雇されることはありません。

 解雇が有効か否かについては、これまでの長い労使対立の末、判例ベースの積み上げがなされており、労働契約法において成文化されています。しかし、判例ベースなので、解雇に明確な基準は存在しません。あくまでも司法判断に依拠しているため、解雇が有効なものかどうか予測が不可能と言っても過言ではないでしょう。

 したがって、一旦、終身雇用として労働者を雇用した以上、企業は、景気変動に応じてフリーハンドに従業員数の調整を図ることができません。つまり、日本型雇用において労働者数の調整を図るためには、新規学卒者の採用人数を増減させるよりほかないのです。

 民主党政権時の新規学卒者就職内定率と現政権におけるそれとの違いを見れば、このことは明らかでしょう。

日本型雇用において労働時間数をどのように増減させるか

 新規学卒時から定年まで40年ほどあることを鑑みれば、新規学卒者の採用人数のみを増減させたところで、全体の労働投入量に与える効果は限定的です。日本型雇用では、むしろ、労働時間の変動のほうが雇用調整に与える効果が大きいのです。

 どの企業も、始業・終業時刻、休憩時間が定まっていると思います。始業から終業までの時間から休憩時間を除いた時間を所定労働時間といいます。しかし、企業が設定できる所定労働時間は1日8時間・週40時間を超えることができません

 なぜなら、労働基準法32条によって、1日の労働時間は8時間、週労働時間は40時間を超えてはならないと定められているからです。(注:但し一部の小規模事業者は44時間(労働基準法40条))。したがって原則として所定労働時間は、1日8時間、週40時間を超えないように設定されています。

 日本企業においては、必要最小限の労働者が所定労働時間を労働したときの労働投入量が閑散期の労働投入量になるように設定されています。

 では、景気が上向き、繁忙期が訪れたときはどのようにして雇用調整を図るのでしょうか。

 繁忙期の雇用調整は、労働時間の延長すなわち残業(時間外労働)で対応します。

 労働基準法は、1日8時間・週40時間を超える労働を基本的に禁止していますが、時間外・休日労働協定(36協定)を締結し行政官庁に届け出ることでこれが許されるようになります。36協定で延長できる時間数については、厚生労働大臣が定める基準を超えてはならないと定められています。大臣基準では、1か月の時間外労働の限度は45時間と定められています。

 しかし、36協定において特別条項と呼ばれるオプションを設けることにより、大臣の基準をも超える延長時間を設けることができます。

 このような仕組みが形成されてきたのは、既存従業員の数をなるべく変動させずに労働時間の長短のみで雇用調整を図ろうとしてきたためです。すなわち、労働時間規制にどんどん抜け穴が形成されてきたのは、終身雇用を維持するためだったのです。

 現行(2019年3月31日まで)では、延長できる時間に上限がなく、繁忙期に対応するために実質青天井で労働者を働かせることができます。すなわち現行では、特別条項付き36協定さえ締結してしまえば、使用者は労働者に対し、月100時間であれ200時間であれ労働時間を延長しても法的に問題ないことになっています。

長時間労働と健康障害との関係

 しかしながら、長時間労働と脳・心臓疾患発症リスクとの因果関係は、さまざまな疫学研究により医学的に明らかになっています。

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 また、厚生労働省の過労死認定基準は、「月45時間以下の時間外労働は、脳・心臓疾患発症リスクとの関連性は低いが、月45時間を超えるにしたがって、徐々に発症リスクが高まっていく」と指摘しています。長時間労働は、虚血性心疾患や脳血管疾患の発症リスクを特に高めます。

 正社員は終身雇用を前提とする雇用形態です。したがって、正社員ほど長時間労働に陥りやすい傾向があります。実際に、平成28年過労死等防止対策白書からは、正社員が過労死に至る確率は非正社員の18倍というデータが示されています。 

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長時間労働を解決する唯一の処方箋は雇用の流動化

 このように、長時間労働の要因は、雇用調整を労働時間のみに依存したことにあります。したがって、長時間労働を解消するためには、もう一方の変動要素すなわち労働者数によって雇用調整が図られるようにしなければなりません。

すなわち、終身雇用制を改め雇用を流動化すれば、長時間労働の問題は解決します。

 そもそも、単一企業という閉鎖的かつ小規模な労働市場において、労働者数を変えずに労働者一人当たりの労働時間数だけで雇用調整を図ろうとしていること自体に無理があるのです。

まとめ~今後どうなるかを予測する~

 もともと終身雇用制という雇用慣例が定着したのは高度経済成長期です。当時は、生産年齢人口が増加し続け、経済成長が安定的に持続していたからこそ、労働者数をなるべく変動させずに労働時間数のみで雇用調整することが可能でした。

 しかし、現代では、これらの前提が2つとも崩れています。そもそもこのような雇用調整のあり方は、閑散期に照準を合わせ必要最小限の人員で業務を回しているところに特徴があります。

 今後日本社会では、若年労働者人口の低下に歯止めがかからないことが予測されています。このまま好景気が続けば、より少ない人員で業務を回すことを余儀なくされ、長時間労働にますます拍車がかかり、ひいては、過労死発生リスクもますます高まっていくことでしょう。

 一方で、何らかの外部要因によって、特定の企業の業績が急速に悪化した場合はどうでしょうか。終身雇用を前提とする限り既存従業員を容易に解雇できません。そのため、その企業は余剰人員を大量に保蔵せざるを得なくなります。

 労働市場を、企業単位ではなく業界全体あるいは社会全体にまで拡張すれば、雇用吸収能力の高い成長産業がこれらの受け皿となり、スムースな労働移動も可能となっていくことでしょう。つまり、それぞれの企業の業績に対応して、労働者数を柔軟に変動させることができるように雇用慣例を改めることこそが重要なのです。

 終身雇用は、企業が永続的に成長し続け、かつ、生産年齢人口も増え続けるという極めて特殊な状況下でないと、とても維持できるような代物ではないのです。