Mesoscopic Systems

働くルールを理解してこれからの働き方について考えよう!

「働かせる」とか「働かされる」という考え方は高プロに存在しない

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はじめに

 これまでに何度か指摘しましたが、高度プロフェッショナル制度(高プロ)や裁量労働制に関するマスコミの報道姿勢は根本的に間違っています。特に、毎日・朝日・東京新聞は酷いですね。昨今のマスコミの論調を見ていると、新しい制度の導入や改革案の是非についてデメリットばかりを強調し、しかもそのデメリットの根拠が薄弱な場合が多く見受けられます。すなわち、ファクトを積み上げて報道する姿勢が見られず、酷い場合には、現行の労働基準法や改正労働基準法の内容からかけ離れた印象操作がなされる場合すらあります。

高プロに関する毎日新聞の記事はもはや偏向報道

 高プロや裁量労働制に関する毎日新聞の記事の一節を紹介します。出所は、先の衆院選の翌日(2017年10月23日)に掲載された、「衆院選2017 大勝自民へ注文新た」という見出しの記事です。

 「全国過労死を考える家族の会」代表の寺西笑子さん(68)は「過労死をなくすと訴える候補者が少なく、法案が争点にならなかったことは残念だった」と語る。「高プロや裁量労働制の対象拡大は労働者の命に関わる問題で、法案には危険が潜んでいる。遺族を含めた当事者の意見をよく聞いた上で、慎重に議論してほしい」と訴える。

(参照元:『毎日新聞』2017.10.23

 法案が選挙の争点にならなかったのは筆者も残念に思いますが、後半の記述が間違っています。「高プロや裁量労働制の対象拡大は労働者の命に関わる問題で…」とありますが、どうしてでしょうか。ふわっとした印象操作がなされているだけであり、現行法や改正法案の内容に基づいてどこに問題点があるのかという点とその論拠が示されていません。

 現行の労働基準法には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類があります。前者の場合19種類の対象業務が存在します。例えば対象業務には、大学教授・研究者などが含まれますが、彼らはみな命を賭して仕事をしているのでしょうか。そうじゃないでしょう。

 確かに、裁量労働制のもとでも過労死事例がいくつか報告されていますが、過労死全体の1%程度です。しかも、これらの多くは裁量労働制の誤った運用によるものであり、労働基準法違反です。そういう場合は、労働者が労基署に申告し是正勧告を促せば、裁量労働制の誤った運用を回避できたでしょう。

 すなわち、これらは個別事例によって対処されるべき問題であり、労働基準法という法律そのものが誤っているわけではありません。

 裁量労働制の対象業務の拡大にしても同じで、不適切な運用があれば労基署に申告すればよいだけの話です。

 なお、労働基準法38条には、裁量労働制を事業所に導入する際、労使協定を締結し、健康・福祉確保措置を使用者は講じなければならないとされています。さらに、「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」では、「健康・福祉確保措置として次のものが考えられることに留意することが必要である。」と明記されています。

  • (イ) 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること
  • (ロ) 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること
  • (ハ) 働き過ぎの防止の観点から、年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること
  • (ニ) 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること
  • (ホ) 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること

 使用者は、裁量労働制を導入するにあたって、この指針に従う必要があります。高プロにおいても、同指針における同措置と同等な健康・福祉確保措置を使用者が確保しなければならないとされています。

 すなわち、高プロや裁量労働制の対象拡大が命にかかわる問題というのはフェイクです。

 労働基準法や指針に従って適切な運用がなされている限り、これらは長時間労働や健康障害と関係ありません。むしろ、高プロや裁量労働制の不適切な運用を繰り返す使用者を厳罰に処す体制を整えることが何よりも優先されるべきなのです。もちろん、これに限らず、賃金不払い残業や36協定違反の違法長時間労働に対する監督機能強化も同様に優先されるべきです。すなわち、高プロや裁量労働制の規定に瑕疵があるのではなく、使用者の遵法意識の問題です。

毎日新聞はいつから左翼の機関紙になったのか

 五大紙という言葉があります。読売新聞・朝日新聞・毎日新聞・日本経済新聞・産経新聞の5紙このとを指し、全国紙とも称されます。発行部数が多く、世論形成に与える影響も大きくなります。

 テレビ放送の場合、放送法によって放送内容が公共の福祉に適合するように求められています。放送法4条第1項第2号および第3号によって、「政治的に公平であること」および「報道は事実をまげないですること」が厳格に要求され、これに抵触した場合、放送免許取り消しの処分が検討されることもあります。

 しかし、新聞には、このような規定は存在しません。だからと言って、正確性や公正性に欠く記事を自由に報道してもよいかというとそうではありません。

 一般社団法人日本新聞協会は、新聞倫理綱領(平成12年6月21日制定)において、新聞の「正確と公正」を次のように定めています。

 新聞は歴史の記録者であり、記者の任務は真実の追究である。報道は正確かつ公正でなければならず、記者個人の立場や信条に左右されてはならない。論評は世におもねらず、所信を貫くべきである。

 しかしながら、毎日新聞の記事においては、次のように明らかに正確性や公正性に欠く記述が見られます。

 非正規社員を支援する労働組合「プレカリアートユニオン」の清水直子執行委員長は「(与党の勝利で)このまま法案が通ってしまうようだと、残業代が減ったまま定額で働かされるようになる。社会のあり方を変えてほしい」とクギを刺した。

(参照元:『毎日新聞』2017.10.23

 法解釈がでたらめです。単なる左翼のプロパガンダであり、何の根拠もありません。改正労働基準法において、「残業代が減ったまま定額で働かせる」ことが可能になるわけがありません。

 いわゆる「残業代」とは、労働基準法37条に規定する「時間外・休日労働の割増賃金」を意味します。しかしながら、改正労働基準法において、労働基準法37条に修正は加えられていません。したがって、明らかに正確性・公正性に欠く記述です。

まとめ

 毎日新聞は高プロに関して根拠の無いフェイクを垂れ流すのをいい加減やめたらどうでしょうか。毎日新聞はその他にも高プロや裁量労働制に関してフェイク報道をしています。この件に関しては次を参照ください。

www.mesoscopical.com

 現在のマスコミは権力の監視というよりむしろ権力批判のためだけの組織に成り下がっています。そのため、正当な改革であっても政権主導という一点のみで、何でも反対の意を表明しています。批判に終始するのなら、これを上回る何らかの対案と突き合せ、比較検討するほうが言論空間として健全でしょう。

 そもそも高プロや裁量労働制は、労働基準法通り正しく運用されていれば、長時間労働と何の関係もありません。これらは、時間給から成果給へと賃金形態を移行する制度であり、OECD加盟国の中で下位に甘んじる日本の労働生産性を向上させる端緒となる可能性があります。

 時間給であれば、時間外勤務命令を基調として、労働者に対して法定時間外労働をさせることができますが、高プロや裁量労働制は、賃金形態が働いた時間ではなく成果に基づいているため、使用者が労働時間の配分に関し口出しをすることができません。

 すなわち、高プロや裁量労働制において、「働かせる」とか「働かされる」という考え方は存在しません。

 日本経済新聞にその点について言及した記事が一部見られますが、筆者は、その他の新聞において高プロと労働生産性との関連について論じた記事を見たことがありません。特に毎日新聞の論調は酷く、左翼のプロパガンダを引用してまでも、高プロを過労死や長時間労働と強引に関連付け極端な印象操作をする有様です。

 毎日新聞は、国益に反するような印象操作を「働かせる」のはいい加減やめたらどうでしょうか。