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働くルールを理解してこれからの働き方について考えよう!

年代別の政党支持率と働き方改革関連法とは密接な関係がある

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はじめに

 10月22日、第48回衆議院選挙が行われました。結果は、与党が313議席(自民284議席・公明29議席)を獲得し、3分の2(310議席)を超える圧勝に終わりました。今回は衆院民進党が事実上解党し、希望の党・立憲民主党・無所属と3分裂しました。結果は、希望の党が50議席、立憲民主党が55議席でした。

 衆議院選挙は、小選挙区比例代表並立制という選挙制度の下で行われるので、有権者は各選挙区で立候補した候補者に一票、支持政党に一票を投じることになります。選挙に先立ち、各党は選挙公約を発表しましたが、政策も各党まちまちです。有権者は、これらの選挙公約も参考にしながら投票行動を決定することになります。

 そこで、今回は、各党の働き方政策に着目し、有権者の投票行動との関連性について論じます。

NHKの出口調査について

 NHKは、10月22日の投票日当日、全国の4,000か所余りの投票所で投票を済ませた有権者40万人余りを対象に出口調査を実施しました。67%にあたる約27万3,000人から回答を得ました。NHKは有権者の投票行動を様々な角度から分析していますが、そのうち筆者が最も注目したのは、年代別の比例投票先です。

年代別の比例投票先について

 下図は、年代別の比例投票先をグラフに示したものです。数字は第一党から第三党までの比例得票率です。

 今回の選挙は、公職選挙法改正に伴い選挙権年齢が「満20歳以上」から「満18歳以上」に引き下げられて以来初めて行われた総選挙です。したがって、グラフには、18・19歳の比例投票先が付け加えられています。

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 (第48回衆議院選挙 年代別比例投票先 『NHK NEWS WEB』)

 グラフから明らかなように、第一党の自民党は、10代と70代以上を除き、年齢が高くなるにつれて得票率が減少する傾向があります。一方、第二党の立憲民主党は、10代と70代以上を除き、年齢が高くなるにつれて得票率が増加する傾向があります。第三党の希望の党は、全世代を通じ得票率にそれほど大きな変化が見られません。

各党の働き方政策を比較する

 下の表は、働き方・社会保障に関する各党の主な公約です。

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 (参照元:『東京新聞』2017.10.16

 ここでは、特に働き方に関する公約に着目します。

 現在、働き方に関して主たる論点となっているのは、

  1. 長時間労働規制
  2. 同一労働・同一賃金の実現
  3. 高度プロフェッショナル制度

の3つです。

 ここでは、年代別得票率に大きな変化が見られた自民党と立憲民主党の働き方政策に注目します。

自民党

  1. 長時間労働規制⇒〇
  2. 同一労働同一賃金の実現⇒〇
  3. 高度プロフェッショナル制度⇒言及なし

立憲民主党

  1. 長時間労働規制⇒〇
  2. 同一労働同一賃金の実現⇒〇
  3. 高度プロフェッショナル制度⇒言及なし

 他党も、長時間労働規制や同一労働同一賃金の実現を公約に掲げているところがあります。少なくとも、これらに関して反対を公約に掲げている政党はありません。したがって、今後、長時間労働規制や同一労働同一賃金の実現へ向かっていくことは確実でしょう。

では真の争点は何だったのか?

 来月1日に特別国会が召集され、衆院選大勝の結果を踏まえ、首相指名選挙により第4次安倍政権が発足します。第3次安倍政権の下で推進されてきた「働き方改革」関連法案の国会審議は、2017年9月28日に召集予定の臨時国会において執り行われることになっていました。しかし、衆院解散により審議が先送りになりました。

 厚生労働省の労働政策審議会は、2017年9月15日、働き方改革関連法案の要綱は「おおむね妥当」との結論をまとめ、加藤勝信厚労相に答申しました。この中には、高度プロフェッショナル制度も盛り込まれています。

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 したがって、第4次安倍政権のもとでも、高度プロフェッショナル制度が推進の方向で国会審議が執り行われるものと思われます。

 野党はどうでしょうか。共産・社民は公約段階で高度プロフェッショナル制度の反対を鮮明にしています。立憲民主党は、選挙期間中の街頭演説などにおいて枝野代表が高度プロフェッショナル制度に反対する主張を展開しています。

 日本維新の会は「労働時間ではなく、仕事の成果で評価する働き方を可能とする労働基準法改正」を訴えており、高プロに肯定的です。希望の党は、高プロに関し態度を鮮明にしていません。

 つまり、今回の総選挙において働き方政策に関する真の争点は、高度プロフェッショナル制度だったのです。

 以上をまとめると、

  • 高プロに肯定的:自民党・公明党・日本維新の会
  • 高プロに否定的:立憲民主党・共産党・社民党
  • 希望の党は高プロに関して態度を明らかにせず

ということになります。

年代別の比例投票先の結果と高プロとの関連

 選挙の争点には、外交・安全保障や憲法改正などいろいろありますが、やはり多くの有権者にとって、雇用政策や働き方政策などは重要な関心事でしょう。

 高度プロフェッショナル制度を争点として考えると、年代別の比例投票先の結果が非常にうまく説明できることがわかります。

 一部マスコミ等で、若者に自民党支持層が多いのは若者が保守化したからだという見解が示されることがありますが、これは誤った見方です。高度プロフェッショナル制度も改革の一環です。改革推進の現政権に若者の支持が集まっているという現実を保守化と関連付けることはできません。

 では、高度プロフェッショナル制度とはいったいどんな制度なのか、説明します。

そもそも高度プロフェッショナル制度とは何か?

 高度プロフェッショナル制度とは、一定の年収要件を満たす高度専門職を対象として、時間外・休日労働協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外した労働時間制度のことを意味します。法律上の詳細については、下記の記事を参照しください。

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 高度プロフェッショナル制度の本質は、労働時間に応じて賃金が支払われるという時間給の概念から、成果に応じて賃金が支払われるという成果給の概念へと賃金制度を移行することです。したがって、高プロの進展は、勤続年数に応じて賃金が決定付けられるという年功序列賃金制の崩壊を意味します。

 因みに、高度プロフェッショナル制度によって、長時間労働が懸念されることはありません。むしろ、長時間労働の温床となっているのは、時間外・休日労働協定における特別条項です。現行では、特別条項の延長時間(以下、特別延長時間という。)に上限が設定されていないために、繁忙期であれば事実上青天井で労働者を働かせることが合法化されています。

 今般の働き方改革関連法案では、特別延長時間に月100時間未満・年720時間未満という上限規制が盛り込まれることになりました。筆者は、この数字でもまだ不十分と考えますが、今まで上限そのものが存在しなかったことを考えれば、一歩前進と言えるでしょう。これも安倍政権下の改革の一環であり、保守化とは無縁です。

 高度プロフェッショナル制度において最も重要な点は、労働時間配分の決定や職務遂行の方法において使用者がいちいち口出ししないという点です。

 時間給ベースならば労働時間配分の決定権が使用者側にあるため、時間外労働は時間外勤務命令の存在を基調とします。したがって、同命令が発令されているのにそれに逆らって時間外労働を行わなければ懲戒解雇に至る可能性もあります。逆に、時間外勤務禁止命令発令発令下で会社に居残って仕事をしても、時間外労働として認められません。

 これに対し、高度プロフェッショナル制度ならば、労働時間配分の決定権が労働者側にあるため、使用者が時間外勤務命令を発令することができず、長時間労働に至る余地が存在しません。

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 以上をまとめると、高プロは、生産性(成果)に見合わず過大に支払われた給与体系から、生産性に見合った給与体系へと変更することを意味します。

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 したがって、高プロの推進によって最も福音がもたらされるのは、年功序列賃金制のもとで働く若年労働者です。これに対し、高プロの推進によって一番割を食うのは、年功序列賃金制によって手厚く保護された中高年労働者ということになります。

高プロと選挙結果

 以上を鑑みると、高プロ推進派の自民党の年代別得票率が、年代が上昇するにつれ低くなっていき、逆に、高プロ反対派の立憲民主党の年代別得票率が、年代が上昇するにつれ高くなっていくのは当然の成り行きです。高プロに肯定的な日本維新の会の得票率が、年代が上昇するにつれ低くなっていることも説明がつきます。

 高プロに関し賛否を表明していない希望の党の得票率が、全世代を通じほぼ一定なのも説明がつきます。 

まとめ

 今回の衆院選は、衆院民進党が事実上消滅し、希望の党・立憲民主党・無所属の3つに分裂したことから選挙戦が始まりました。

 かつての民進党では、考え方の大きく異なる国会議員が同居しており、決して一枚岩ではありませんでした。そのため政策論争において与党とまともに対峙できず、民意を喪失していきました。しかし、民進党が3分裂したことで旗色がより鮮明になったのではないでしょうか。

 これまで民進党は、連合という大きな組織の支援を受け選挙活動を展開していました。しかし、今回の選挙戦では、連合は表立って特定の政党の支援には回らず、傘下の個別労組の独自判断で支援を行いました。

 一概には言えませんが、希望の党の候補者の多くは民間労組から、立憲民主党の候補者の多くは官公労系労組から支援を受けていたものと思われます。

 官公労系労組の典型的なものに、自治労・日教組・JR労組などがありますが、それぞれ、地方公務員・教職員・JR職員が組織する労働組合です。これらはいずれも潰れることの無い組織ばかりです。したがって、これら立憲民主党の支持母体が、高プロといった成果型報酬ではなく、年功序列型賃金制を維持しなるべくぬるま湯に浸かりたいと考えるのはある意味自然な成り行きでしょう。

 これに対し、民間労組は、大企業の正規従業員が組織する労働組合です。昨今の経済情勢を鑑みれば、熾烈な国際競争に晒されている企業も中には存在します。希望の党は、高プロに賛成か反対のどちらなのでしょうか。

 年功序列賃金制を始めとする日本型雇用をこれ以上維持し続ければ、企業の国際競争力は立ちどころに低下し沈没すると筆者は主張しています。この状態を放置すれば、ぬるま湯が熱湯に変わっていき、いつの間にかゆでガエルになっていくことでしょう。

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 「来るべき国会論戦において希望の党が高度プロフェッショナル制度反対の論陣を張るようだったら、もはや希望の党に希望を見いだせないでしょう。」と筆者は言いたかったのですが、同党に希望を見いだせないどころか、消滅してしまいました。