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辺野古基金寄付問題:労基法に違反する企業が平和を語る資格は無い

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はじめに

 産経新聞の記事です。

www.sankei.com

 金秀(かねひで)グループ(那覇市、呉屋守将(ごやもりまさ)会長)が7月から、米軍普天間飛行場の辺野古移設阻止を目的とした「辺野古基金」への寄付金を、従業員から給料天引きで集めていることが分かった。労働基準法が賃金控除にあたって義務付けている「労使協定」を締結しておらず、労基法違反の疑いが浮上している。

(参照元:『産経新聞』2017.09.27

民主主義の根幹を揺るがす大問題

 産経新聞によると、辺野古基金は平成27年4月、普天間飛行場の辺野古移設阻止活動への支援や移設反対の世論喚起などを目指して設立されたそうです。どこをどう見ても、政治色が極めて濃厚な基金です。

 金秀本社総務部は産経新聞の取材に対し「来年3月末までの期間限定。ほぼ半数の従業員が賛同して申込書を提出し7月に支払った給料から開始した。寄付は任意であり、申し込み者の氏名や金額、人数などの個人情報は社内で一切伏せている」としています。しかし、ここで問題なのは、寄付が任意であるかどうかとか、個人情報が秘匿されているかどうかということではありません。

 同社は、労使協定を締結せず同寄付金を給与天引きしていました。つまり、労働者の過半数の総意に基づいていない違法な寄付に該当することが問題なのです。

民主主義を理解していないのに民主主義を語るのをやめよう

産経新聞は、

辺野古基金の共同代表である呉屋・金秀グループ会長は、同基金のホームページで「地方の辺野古から民主主義とは何かを問い直し主権在民を確認したい。辺野古新基地を食い止め、全国の仲間とともに平和な国づくりを進めよう」と賛同を呼びかけている(参照元:『産経新聞』2017.09.27)。

と報道しています。何やら民主主義を語っているようですが、何か決め事をするときは、民主的手続きに従って過半数の総意を反映しなければ民主主義とは言えません。

 同社は、労使協定を締結せずに、同寄付金の給与天引きを行っていました。では、労使協定とはいったい何を意味するか解説します。

 労使協定の定義は次の通りです。

労使協定=労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定

 すなわち、労使協定とは、労働者の過半数の総意を反映する代表者と使用者との間で交わされる約束事(協定)のことを意味するのです。したがって、労使協定を締結せずに寄付金を給与天引きする会社が、民主主義を語る資格は無いのです。

賃金支払いの5原則について

 労働基準法24条は、賃金支払いの5原則を定めています。賃金支払いの5原則とは、「賃金は、

  1. 通貨で
  2. 直接労働者に
  3. その全額を
  4. 毎月1回以上
  5. 一定の期日を定めて

支払われなければならない」という原則です。3番目の原則を、賃金全額払の原則といいます。賃金全額払の原則とは、賃金の一部を控除(ピンハネ)して支払うことを禁止するというものです。

 しかし、原則には何事も例外が存在します。賃金全額払の原則の例外として、労働基準法で認められているのは、次の2点のみです。

  1. 法令に別段の定めがある場合
  2. 労使協定が締結されている場合

 法令に別段の定めがある場合とは、所得税や社会保険料など、別の法令で確固たる徴収事由が存在する場合です。

 労使協定が締結されている場合の典型例は、寮や社宅の家賃、社員食堂の昼食代などがあります。利便性を考慮して、これらを給与天引きされることに異を唱える人はあまりいないでしょう。しかし、この場合においても、民主的な手続きにしたがって、労働者の過半数の総意が反映された労使協定を締結しなければ、天引きを行うことができません。

 ましてや、政治色が濃厚な寄付金を給与から天引きするとなれば尚更です。誰しも、思想信条の自由というものがあり、基地移設に反対する人もいればそうでない人もいるでしょう。寄付金である以上、趣旨に賛同する人が任意で寄付を行うのもあり得るでしょう。

 しかし、いかなる名目であれ、労働者の過半数が賛成しないと、労働基準法24条に禁止する賃金一部控除の免罰的効力が使用者に対して発生しません。そのために必要なのが、賃金一部控除協定なのです。

 なお、労働基準法24条に違反した場合、30万円以下の罰金に処せられます。いくら寄付金を集めても、罰金を支払うような羽目に陥ってしまったら、元も子もありません。

まとめ

 産経新聞は、次のように報じています。

金秀グループのある社員は「従業員の中には翁長知事支持と辺野古移設阻止を先頭に立って訴えている呉屋会長の意向を忖度(そんたく)し、やむを得ず寄付している人も少なくない。」と話す(参照元:『産経新聞』2017.09.27)。

 このようなことになりかねないから、事前に、使用者は過半数労働組合あるいは過半数代表者に賃金控除が可能かどうかを問わなければならないのです。

 ここで、社会学者宮台真司氏がラジオ番組で語った言葉を紹介します。

温情や仲間意識をベースにして、能力のない足を引っ張る連中に席と給料を与え続けるのは「バカ左翼」のやること

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