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テスラ製EVの車載電池の耐久性は80万㎞以上!?

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はじめに

 2017年7月28日、本格的な大衆向け電気自動車、テスラModel 3の納車式が米国カリフォルニア州フリーモントのテスラ本社で行われました。Model 3の航続距離は220マイル(約354㎞)、価格は35,000米ドル~(約381万円~)です。今後、電気自動車の世界的な普及が加速していくものと見込まれています。

 テスラは、航続距離450㎞~の高級車(テスラModel S)も販売しています。最高スペックのもので572㎞の航続距離を実現しています。価格は900万円~と高額です。

 テスラでは、電池の故障に関して走行距離に関係なく8年間の製品保証を付けていますが、電池の劣化については対象外です。したがって、テスラ車のユーザーにとっては、電池の劣化についての情報を知ることは重要な関心事です。なぜなら、それがマイカーの寿命と直結するからです。

テスラ車ユーザーによる電池劣化データの収集

 ヨーロッパには、ベルギーとオランダに跨るテスラ車所有者によるフォーラムTesla Motors Clubというのが存在します(URL:https://teslamotorsclub.com/)。このフォーラムに属するテスラ車オーナーのバッテリー残量および走行距離のデータが収集されています。このデータに基づいて、縦軸にバッテリーの劣化具合、横軸に走行距離をとってプロットすると下の図のようになります。下の図は、縦軸の下限を85%にとって拡大したものです。赤は近似曲線で、6万㎞以上は直線近似できます。その傾きは、5万㎞あたり1%の減衰です。 

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 一方、下の図は、フルレンジ描画です。

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 走行距離24万㎞のバッテリー残量の平均は92%となっており、これを起点として、同様の減衰傾向が続くと仮定すると、バッテリー残量が80%に到達するまでには、84万㎞の走行距離を要することになります。 

「84万㎞走ってもバッテリー残量が80%」は何を意味するのか

 テスラModel Sにはさまざまなグレードが存在しますが、例えば、Model S 75は、1充電当たりの航続距離が450㎞とされています。

「84万㎞走ってもバッテリー残量が80%」というのは、オドメーターが84万㎞を示していても、1充電当たりの航続距離が360㎞もあることを示唆しています。これは、新車のModel 3のスペックとほぼ同じ数字であり、まだEVとして十分使えます。一般的に言って、内燃機関エンジンの自動車の寿命が22万㎞であることを考えれば、驚くべき耐久性と考えてよいでしょう。

走行距離84万㎞は一生かかる数字

 84万㎞は地球21周分に相当します。国土交通省のデータによると、自家用乗用車の年間平均走行距離は約1万㎞とされています。 

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 つまり、84万㎞は、平均ドライバーが毎年コンスタントに1万㎞づつ走行したとして84年かかる数字です。普通自動車免許は満18歳にならないと取得できないので、84万㎞走行しようと思ったら、単純計算で100歳を超えてしまいます。つまり、電気自動車の登場は、自家用乗用車が家と同じく、一生に一度の買い物になり得ることを示唆しています。ただし、走行距離がある閾値を超えると不連続に電池性能が低下する可能性も否定できないので必ずこうなるとは断言できません。

アメリカでは自家用車を必要としないと考える人が増えてきている

 アメリカでは、95%以上の時間が駐車に割かれているといいます。すなわち、路上走行のために使われる時間は5%以下です。この95%の時間を利用しない手はないでしょう。

 この点に着目したのが、アメリカのライドシェア大手Uberです。Uberは、個人が所有する自動車を他者の移動手段として用いるシェアリングビジネスを展開しました。

 ライドシェアは、言わば、自家用車を所有し空席を持て余すドライバーと任意の場所に効率的かつ経済的に移動したいと考えるユーザーとのマッチングサービスです。スマートフォンアプリを使って、GPS機能によって自分の周辺にいる車両を検索し、行き先を指定すれば任意の場所に行くことができます。

 タクシーと違うところは、移動手段に自家用車という遊休資産を使っているところです。自宅の空き部屋を遊休資産とみなし、旅行者の宿泊手段として貸し出す「民泊」と同じようなシステムです。

 車を単なる移動手段の一つとしか考えていない人たちは、自家用車を所有せずにライドシェア利用に移行するものと思われます。ライドシェアビジネスに新規参入する人と、それを利用する人との数が相互最適化されたら、必然的に、自動車のオーナーが劇的に減少し、最も経済的な移動手段となりえます。

 アメリカのシンクタンクの調査結果によると、2020年から10年間で全米の乗用車が2億台以上減少するという試算が示されています。 

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コネクテッドカーとは

 コネクテッドカーとは、車に付属するセンサーを駆使し、相互にセンシングし合う車を意味します。車のIT化に伴い、情報をネットワーク化し、クラウドと接続することで、情報を相互にやりとりすることができます。これにより、これまでに全く無かったサービスへの展開が期待できます。

 Uberのライドシェアサービスに配車登録された車も、コネクテッドカーの一種です。完全自動運転もその一種です。今後、ライドシェアサービスが進展し、これに完全自動運転機能が加われば何が起こるでしょうか。

 まず、ライドシェアサービスのアプリから最寄りの車両をGPS検索します。すると、無人の車両がやってきて、任意の場所に連れて行ってくれます。クレジットカード決済後、その車を乗り捨てて終わりです。

 つまり、ライドシェアビジネスに参入する人、運転を趣味とする人を除いて、自家用車を所有する意味がなくなるのです。

日産リーフについて

 以上のように、車の電動(EV)化、相互センシング化、完全自動制御化に伴って、交通手段が劇的に変化する可能性があります。この流れは全世界で驚くべき速さで進行しており、もはやこの流れを止めることはできないでしょう。

 この流れは、日本でもようやく進展しつつあります。今月6日、日産自動車が、初の量産型EV「リーフ」のフルモデルチェンジとなる新型リーフを発表しました。

 航続距離は400㎞(米国標準150マイル)と、テスラModel 3(米国標準220マイル)に比べると少し劣りますが、旧式リーフ(米国標準107マイル)と比べて大きく伸ばしています。価格は、約315万―399万円と、テスラModel 3の価格と同水準です。

 完全自動運転とまではいきませんが、自動運転技術も深化させています。高速道路の単一車線での自動運転技術と自動駐車機能を搭載しています。アクセルペダルの操作だけで発進、加減速、停止できる機能も搭載し、運転時の負担を軽減させています。

jp.reuters.com

 新型リーフ発表会を終え、日産の西川CEOは、メディアの取材に対し、こう発言しています。

 バッテリーで競争力を出す時代は終わるだろう。だからバッテリーの製造そのものはパートナーと組んでやればいい。それよりも今、重要なのは、制御やソフトの技術力を高めて、どう自社の特徴を出すか。新型リーフでもその部分の開発の陣容を厚くしたし、今後もさらに厚くしていく。

 株主総会でメソメソするどこかのボンボン社長とは違って、日産の社長は、なかなか良いことをおっしゃいますね。

 車載用バッテリーを自社のみで開発・製造するのではなく、パートナーシップ制を敷いているビジネスモデルは前例があります。テスラとパナソニックです。 

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 日産もそのビジネスモデルを前提にバッテリー製造をどこかと共同で行っていこうということですね。

 海のものとも山のものとも知れぬ材料を実車投入し、カップラーメンが出来上がるのと同じ3分でEVの満充電を果たすと大風呂敷を拡げるどこかの会社と比べたら、日産の西川CEOもテスラのイーロン・マスクCEOも経営者として一枚も二枚も上手ですね。

www.nikkei.com

まとめ

 テスラ製EVユーザーによる車載電池の劣化データは、走行距離が最大24万㎞までの劣化データであり、それから先は、近似曲線からの予測値です。したがって、走行距離が84万㎞までのデータを蓄積し、統計処理した結果ではありません。80万㎞以上の走行距離を稼ごうと思ったら相当な時間を要すると思われるので、車載電池の劣化が今後どのようになっていくのかは、まさしく未知の世界です。果たしてテスラの車載電池が何万㎞までもつのか、今後の継続したデータ蓄積に期待したいところです。