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終身雇用・年功序列を改めなければ女性の活躍は夢のまた夢

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はじめに

 ビジネス インサイダー ジャパンの記事は、大企業に総合職正社員として勤める女性の悲哀や嘆きを紹介しています。 

www.businessinsider.jp

 総合職とは、「事業主の事業の運営の基幹となる事項に関する企画立案、営業、研究開発等を行う労働者が属するコース」を意味します。簡潔に言うと、将来管理職を担うべき幹部候補生が属するコースのことです。厳しい就職戦線を勝ち抜き、せっかく大手に就職したのに、離職する女性が少なくないといいます。それは一体なぜなのでしょうか?

総合職10年で6割離職の現実

 ビジネス インサイダーは、大手企業に就職したものの、離職せざるを得なかった何人かの例を紹介しています。このうち、筆者が最も注目したのは、総合職として勤務したものの離職した岩橋さんの事例です。概要は次の通りです。

  • 岩橋さんは、育児休業明けに人事部に異動になった。
  • 会社は、表向きは仕事と育児の両立のロールモデルのように扱われていたが、裏ではその実態は全く異なるものだった。
  • 表向きには妊娠を祝福しつつ陰では「うちの部署に戻さないで」とか「妊娠したハケンさんは辞めてもらう」といった組織の本音に嫌気が差した。
  • 結局は辞める選択肢をとった。

女性の活躍を阻害する要因はどこにあるか

 日本型雇用慣行のもとでは、大企業を中心に、終身雇用・年功序列賃金が定着しています。

 終身雇用とは、雇用期間を特に定めることなく、定年までの雇用が保障された超長期労働契約を意味します。終身雇用が保障された労働者は、会社が倒産しかかっているとか、重大な非違行為が認められたという場合でない限り、基本的に解雇されることはありません。しかし、これはあくまでも使用者側の視点に立った話です。労働者が、辞める選択肢を採らざるを得ない、すなわち自己都合退職とは別の話です。

 年功序列賃金の賃金構造は、勤続年数に応じて過大な賃金が支払われるように設計されています。これが、転職を未然に防止し、雇用の流動化を阻害しています。したがって、年功序列賃金も、終身雇用を正当化するための補強要素として機能しています。

 かつて、一億総中流と言われた高度経済成長期では、夫が企業の正社員として家計を担い、妻は専業主婦として育児や介護を担うことが期待されていたため、このような雇用調整のあり方はそれほど問題になりませんでした。当時の女性の労働参加の大部分は、近隣事業所でパートタイマーとして働くことでした。パートタイマーであれば、労働時間も限定的であり、転勤も無いため、育児や家事の合間に仕事をすることが可能だったわけです。

 ところが、1974年の第1次オイルショックによって、高度経済成長期が終焉を迎え、日本の経済成長に陰りが見え始めると、女性の社会進出が次第に進行するようになりました。

 下の図は、20~59歳の女性の労働力率の経年変化です。1975年以降、右肩上がりに推移していることがよくわかります。

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 (出所:平成18年版 厚生労働白書)

 女性の高学歴化に伴い、女性が大企業の総合職正社員として勤務することも多くなりました。ところが、これに伴って、大企業総合職正社員の雇用調整のあり方と女性のライフスタイルとは相容れない関係にあることが次第に顕在化してきたのです。

大企業総合職正社員の雇用調整

 終身雇用を前提とする場合、内部労働市場によって雇用調整を行わなければなりません。内部労働市場による雇用調整とは、なるべく人を雇わずに、逆になるべく人を解雇することもなしに、既存の従業員だけで雇用調整を図るという手法です。具体的には、労働時間による調整・配転や出向による調整があります。

 労働時間による調整とは、残業時間の長短を景気変動に呼応させる雇用調整です。まず、このやり方が、出産や育児を控えた女性のライフスタイルと両立しません。

 例えば、好景気のもとで妊娠・出産し育児休業を終えて、職場に復帰する女性がいたとします。先ほどの事例で、育休明けの女性を「うちの部署に戻さないで」という会話が人事部でなされたのは、まさにこの旧態依然とした雇用調整のあり方に問題があります。

 諸外国であれば、人手不足の際、外部労働市場をも包摂して柔軟に雇用調整を図れば事足ります。しかし日本では、終身雇用によって極めて硬直した労働市場が形成されているため、それができません。一方で、育休明けに職場復帰した女性は、まだ小さい子供を抱えているため、夜遅くまで残業することは許されません。

 したがって、労働時間無限定の包括的労働契約のもと、繁忙期に無制限の労働投入が期待される総合職正社員の立場と小さい子供を抱えているという女性の立場とがバッティングするわけです。

 転勤についても同じです。終身雇用を前提とする限り、全国規模で支店や工場を有する大企業は、補充要員が発生した場合、現地で人を採用することをせずに、既存従業員を転勤させることで雇用調整を図っています。そのため、長期雇用を前提とする正社員に対しては、使用者は配転命令権という人事権を無制限に行使することが認められています。配転とは、勤務地の変更および職務内容の変更の双方を含む概念です。

 まだ小さい子供がおり、夫と妻双方が正社員である共働き世帯で、どちらか一方に転勤命令が下ったらどうなるでしょうか?この瞬間に、夫婦による育児の分担が破綻します。

 終身雇用を前提とする日本企業においては、ジョブローテーションを繰り返し、勤務地の変更をも甘受し、長時間労働投入した従業員が出世し管理職となっていく傾向があります。女性の管理職比率が諸外国に比べ低水準のまま推移しているのも、女性のライフスタイルと内部労働市場における雇用調整のあり方とが相互に両立し得ないことに起因しているのです。 

「妊娠したハケンさんは辞めてもらう」について

 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)に次のような定めがあります。

男女雇用機会均等法9条

事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。

2  事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。

3  事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法 (昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項 の規定による休業を請求し、又は同項 若しくは同条第二項 の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない

4  妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

 どのような場合が、第3項の「解雇その他不利益な取扱い」に該当するかは、厚生労働省の指針に定められています。

労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(平成18年厚生労働省告示第614号)

婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(法第9条関係)

法第9条第3項の「理由として」とは、妊娠・出産等と、解雇その他不利益な取扱いとの間に因果関係があることをいう。 

法第9条第3項により禁止される「解雇その他不利益な取扱い」とは、例えば、次に掲げるものが該当する。

イ 解雇すること。

ロ 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。

ハ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。

ニ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするよう

な労働契約内容の変更の強要を行うこと。

ホ 降格させること。

ヘ 就業環境を害すること。

ト 不利益な自宅待機を命ずること。

チ 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。

リ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。

ヌ 不利益な配置の変更を行うこと。

派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。

 したがって、「妊娠したハケンさんは辞めてもらう」は、上記ルの規定によって、法9条第3項が禁止する「解雇その他不利益な取扱い」に該当します。つまり、違法行為です。

妊娠したことを理由として雇止めされた派遣労働者はどうしたらよいか

 男女雇用機会均等法は強行法規ではないので、監督署が乗り出して、是正勧告しそれでも改めない場合は、検察庁に書類送検するといった手続きが採られることはありません。したがって、事業主が均等法規定を遵守しない場合、当事者間で紛争解決するよりほかありません。

 とはいえ、このようなトラブルは民事訴訟に頼るしかないかというとそうではなくて、紛争解決の援助手段が均等法に用意されています。

 紛争解決には、

  1. 都道府県労働局長による助言、指導又は勧告(法17条)
  2. 紛争調整委員会の調停によるもの(法18条)

の2種類があります。

 1は、行政が直接双方から話を聞き、解決策を提示するというものです。

 2は、中立性の高い第3者機関が調停案を作成し、解決を促すというものです。

 妊娠したからといって雇止めにするようなブラック企業に対しては、労働局に申告して紛争を解決しましょう。

 労働局では、セクハラなど均等法関係の相談も受け付けています。なお、具体的な解決方法の流れは、このリーフレットにあります。都道府県労働局雇用均等室というところが窓口です。連絡先も記されているので、泣き寝入りせずに積極的に電話すると良いです。

まとめ

 「育休明けに復帰した女性社員をうちの部署に戻さないで」とか「妊娠したハケンさんは辞めてもらう」というのはいずれも均等法の趣旨に反します。特に後者は明確な違法行為で、当該不利益を受けた派遣労働者は直ちに労働局に申告すべきです。

 妊娠・出産を理由として、大企業の正規従業員として勤務する女性に対して不利益な配置変更が行われ、非正規社員として勤務する女性に対して不当な雇止めが行われるのは、いずれも日本型雇用に原因があります。

 雇用を流動化し、子供が成長するまで数年間のブランクがあっても、容易に職場復帰できるような労働市場が形成されれば、このような問題は一気に解決できるのではないでしょうか。