はじめに
以前、福島県警の警察官が部下の頭に「あんかけ」をかけるというパワハラに関して記事を書いたことがあります。
しかし、消防士にとってパワハラは対岸の火事ではありませんでした。
福井市消防局のパワハラ問題
福井市は、飲み会で30代の男性消防士長と20代の男性消防士2人に全裸になることを強要したなどとして、市消防局東消防署の齊藤昭一署長(55)を停職1カ月、同署の男性消防司令(44)を減給10分の1(2カ月)にした。
また、同僚の消防士に日常的に暴力を振るったとして、同署の男性消防副士長(33)を停職6カ月の懲戒処分とした。処分は2016年11月15日付。
(参照元:『福井新聞』2016.11.16)
パワハラの定義と類型
この問題について考える前に、改めてパワハラの定義およびパワハラの6類型を再掲します。
パワハラの定義
職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。
パワハラの6類型
- 暴行・傷害(身体的な攻撃)
- 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
- 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
- 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
- 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
- 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
飲み会であっても公式なものであれば職場
飲み会とは言え、署長が参加する公式のものであれば、職場とみなされます。署長を含め上司が部下に、飲み会の場で裸をどりを命じる行為は、上記4番目の「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)」に該当し、れっきとしたパワハラ行為です。
セクハラに該当する可能性もある
また、男女雇用機会均等法11条は、職場における性的な言動(セクハラ)に対して事業主が講ずべき措置を規定しています。セクハラは必ずしも男性から女性に対して行われる行為に限ったものではありません。男性から男性、女性から男性、女性から女性へのセクハラ行為というのも考えられます。男性上司が男性部下に裸をどりを強要する場合は、男性から男性へのセクハラに該当する可能性が考えられます。
また、女性職員が同席する飲み会の場で上司が男性部下に裸をどりを強要したとすれば、その上司は女性従業員に対してもセクハラ行為を行ったとみなされる可能性あります。この場合は、環境型セクハラという部類に入ります。環境型セクハラには、職場に公然とヌードポスターを掲示するような行為が典型的な例として挙げられます。
マヨネーズやからしを弁当に注入して親睦を図れるわけがない
また、福井新聞は、部下への裸をどり強要の他に、次のようなパワハラも報じています。
停職となった消防副士長は2014年12月から今年10月ごろまで、同僚である東消防署の男性消防士に対し、腹や尻を蹴るなどの暴力行為を日常的に続けた。このほか弁当にこの男性消防士が苦手とするマヨネーズやからしを入れ、食べることを強要するなどの嫌がらせもした。消防副士長は「親睦を図るつもりだった。いたずら感覚だったが、次第にエスカレートした」と話したという。
消防副士長は、同僚に日常的にいじめを繰り返していたといいます。パワハラには「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に」という前提条件がありますが、必ずしも職位の上のものが下のものに対して行う行為とは限りません。職場内の人間関係における優位性を保持する者であれば、同僚に対する行為であってもパワハラに該当します。
消防副士長は、同僚に対する暴力行為の他に、「弁当に同僚が苦手とするマヨネーズやからしを入れて食べるよう強要していた」と報道にあります。同僚が、マヨラーであろうがなかろうが、からし好きであろうがなかろうが、このような行為はパワハラに当たります。好き嫌いは関係ありません。弁当にマヨネーズやからしを注入し食べさせるという行為は、上記パワハラ6類型のうち、「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)」に該当する可能性があります。
また、一度に大量のからしを経口摂取すれば、口から火を噴くような感覚に陥る場合もあり、暴行・傷害(身体的な攻撃)とみなされる可能性もあります。
まとめ
福井市は、福井消防局のパワハラ問題を重大と見て、消防局職員に対し、パワハラに関するアンケートを実施しました。
その結果、14.8%の職員が、1年以内にパワハラ被害を受けたとみられることがわかりました。14.8%というのは非常に高い数字であり、職場の風土や現場体質に起因しているのかもしれません。
消防士は常に危険と隣り合わせの職業であるため、上司や先輩、同僚による指導が厳しいものになりがちなのはわからなくもありません。だからといって、裸をどりや弁当にマヨネーズ等を注入し食べさせることは、明らかに業務上不要なことの強制であり、決してあってはなりません。
このようなことを強制されたら、精神の均衡が保てなくなることは、火を見るより明らかでしょう。