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宮台真司氏:足を引っ張る連中に席と給料を与え続けるのはバカ左翼のやること

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はじめに

 社会学者・宮台真司氏の発言です。ある意味名言でしょう。

 温情とか仲間意識をベースにして、能力のない足を引っ張っている連中に席と給料を与え続けるのはバカ左翼のやること

 今回紹介するのは、2年半前にオンエアされたあるラジオ番組です。そのラジオ番組とは、TBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ!」という番組で、宮台真司氏は同番組のレギュラーを務めています。ゲストとして、投資家のやまもといちろう氏、人事コンサルタントの城繁幸氏を迎え、「雇用」をテーマに座談会を設け、3人が議論を交わしています。 


やまもといちろう、城繁幸、宮台真司 雇用を語る

 2年半前の当時は、今ほど長時間労働の問題が盛んには報道されていませんでした。この番組は、現在にもつながる日本の雇用の問題点について数々の鋭い指摘があり、傾聴に値します。番組中の3人の発言を紹介し、日本の雇用の問題点について考えます。

宮台真司氏・やまもといちろう氏・城繁幸氏の発言

安倍政権の雇用政策に点数を付けるとしたら何点か 

 安倍政権の雇用政策に対する評価(10点満点中何点か)およびその理由についての問いかけから番組がスタートしました。

 城繁幸氏は、

 3点ですね。正規雇用と非正規雇用の格差が大きく市場原理が働いていない。同一労働・同一賃金が必ずしも実現できているとはいえない。ただ、一応フォローさせていただくと民主党時代はマイナス3点なので、(3点というのは)決して低いわけではない。

 やまもといちろう氏は、

 8点。非正規雇用が増えたというが半分以上は団塊の世代。その一方で、正社員も増えた。しかし、正社員がどれだけ長く働いていたかというと、去年の数字で9.5年。昔みたいに数十年働いて退職金貰ってという状況にはなっていない。労働市場自体が変容している。

 宮台真司氏は、

 二人の真ん中で5点。国際的には正規・非正規の区別は意味がない。労働市場が流動的で、世代間の格差が存在しないことの方が重要。世代間の格差があるというのは不公正と考えるべき。

と述べました。

同一労働・同一賃金その他について

やまもといちろう氏

 日本の労働は高度成長期のもとで最適化された労働力の配分をやってきた。若いうちは安くで働いてもらって幹部になるにしたがってだんだん高くなっていくという賃金形態を堅持してきた。これについては諸外国と比べてもナンセンスなところがある。

 やまもと氏は、年功序列賃金について言及しています。この賃金体系が成立したのは、経済が高度にあるいは安定的に成長し、それに伴って生産年齢人口も増加していたことが前提となっています。今は、高度経済成長期と全く逆の状況になっていることは明らかです。

城繁幸氏

 みんな同じ仕事をしているのに、80年代に入社した正社員のおじさん(バブル組)が、時給4000円であるのに対し、2000年代に入社した正社員の若者が1800円くらい。契約社員は1500円くらいで、パートのおばちゃんは800円~1000円くらいと全く競争原理が働いていない。

 この状況を良しとする人は、はたしてどれくらいいるのでしょうか。後述しますが、この状況は反公共的と言わざるをえません。

やまもといちろう氏

 2000年くらいから、年功序列賃金という歪んだ賃金体系を持っている会社ほど業績を悪くしている。データからもはっきりしている。

 やまもといちろう氏は投資家ですが、投資家のこういった生の意見は貴重です。そういえば、この放送から2年半後の今、着々と解体に向かっている企業がありますね。

宮台真司氏

 終身雇用なるものの一般化は、高度経済成長期に熟練労働者が外に出られたら困るということから囲い込みに入ったという雇用慣行。今は、囲い込むような余裕は企業にはない。

 終身雇用というのは、安定的な働き方ではありません。単なる、労使当事者間でのコミットメントの交換に過ぎません。言うなれば「アメとムチ」のやり方です。アメは終身雇用、ムチは使用者による強大な人事権です。今は、ムチだけがそのまま残って、アメの大きさがどんどん小さくなっているのです。

 城繁幸氏

 その会社に入れば、年金支給開始年齢まで面倒を見てもらえたというのは、たまたま恵まれた一部の人たちだけであった。それをみんなで目指そうとか、企業に強制しようとか言うと、企業は海外に拠点を移し、今よりももっとひどい状況になる。

 2年半前よりも今はもっとひどい状況にあると思います。海外に拠点を移すどころか、本当につぶれかかっているところもあります。名だたる大企業が何万人もリストラしたり、外国資本に身売りしたり、文字通り解体の危機にあったりしています。

やまもといちろう氏

 いつまで右肩上がりの高度成長の気持ちでいるんだという話。これからは、同じ会社に何年もいられるのではないという人生設計でないと難しい。同じ会社で一生終えようと思うのはそもそも幻想であった。

 その通りだと思います。

宮台真司氏

 同一労働・同一賃金は、労働組合運動の方向性が変わることを意味している。これまで、賃上げ闘争主体だったがそれをやめるということ。会社の業績が良くなったら、賃上げを要求する代わりに従業員を増やし、自分たちの労働時間を減らせと要求することを意味している。

 同一労働・同一賃金の実現と長時間労働の是正とは切っても切り離せない関係にあります。前者は非正規労働者の待遇改善、後者は正社員の待遇改善に繋がります。これまで組合は、無限定な労働時間を受け入れる代わりに、賃上げ闘争を主体としてきました。

 景気が上向き業績が良くなったら業務量も増大します。この増大した業務量をこなすために人を雇わなければ、内部労働市場すなわち既存の正規従業員の労働時間を長くするよりほかありません。すなわち、賃上げ主体の労使交渉を継続するということは、長時間労働の問題の抜本的な解決に繋がらないことを意味します。残業時間の上限規制を巡る議論において、連合が月100時間未満という過労死寸前の条件を提案したということが、これを如実に示しています。

 一方、賃上げ主体の労使交渉は、同一労働・同一賃金の実現にも繋がりません。すなわち、賃上げ闘争を組合運動の方向性とする限り、正規・非正規のどちらの待遇改善にも繋がらないのです。

やまもといちろう氏

 EUにおいては、会社というのはいつ雇用を切っていてもしょうがないので職業訓練やセーフティーネットをどうやって社会として作っていくかという議論になっている。

 この点については筆者も既に本サイトの記事で述べています。

www.mesoscopical.com 

 日銀は、北欧諸国では雇用を流動化したほうが高い雇用者保護に繋がっているという客観的データをレポートで示しています。日本も、他国の良い点を学ぶ余地は大いにあるでしょう。

宮台真司氏

 バカ左翼っていうイメージがある。バカ左翼は、温情とか仲間意識をベースにして、能力のない足を引っ張っている連中にいつまでも席と給料を与え続けている。

 そんなことをしているとその会社は沈んでいくんです。高度経済成長期の非常に短期間のいい時代を除けば、そんなことが許されるはずがない。

 公共的ではないんですよ。反公共的なんです。

 人件費が安く、労働集約型の産業に無尽蔵に労働投入することで外貨が獲得できた時代は終わりを告げました。高度経済成長期では、仲間意識だけで何とかなったでしょうが、グローバル化が進展しアジア新興国の台頭を許した以上、1つの会社に終身留まるという極めて内向きかつローカルな思想では会社が立ち行かなくなるのは当たり前です。反公共的も甚だしいでしょう。

やまもといちろう氏

 会社にしがみつくなとは言わないけれど、会社にしがみついてあなたはこれだけ損するよっていうことに気付いて欲しんです。

 これも名言ですね。これだけ終身雇用制が形骸化しているのに、1つの会社にしがみつくのは人生の消耗以外の何物でもないでしょう。人の価値観はそれぞれですので、筆者も、氏と同様、しがみつくなということまでは言いません。しかし、本当にそれが良い事なのかどうかについて一度くらい考える機会があっても良いと思います。

まとめ

 解雇の金銭救済制度の創設を巡っては、2002~03年と05年の過去2回、導入が検討されましたが、いずれも連合の猛反発にあい実現しませんでした。その間、OECDのデータが示しているように、企業の名目労働生産性水準はどんどん低下し、国際競争力が損なわれていきました。公益財団法人・日本生産性本部のデータによると、製造業の名目労働生産性水準は、2000年に世界第2位だったものが、2005年には世界第14位と急激に順位を落としています。

 名目労働生産性水準が急激に落ち込んだ2000年~2005年は、ちょうど金銭救済制度の導入が検討された時期と一致しています。アジア新興国の急激な台頭が要因の一つとして挙げられますが、労働市場改革について早めに手を打たなかったことも、企業の国際競争力の急激な低下の要因の一つとして挙げられるでしょう。

 いつまでも高度経済成長期という古き良き時代のノスタルジーに浸り続け、何ら対案を示すことなく唯反対の狼煙を挙げることしか能がない人たちの姿勢は、大きな誹りを受けてしかるべきでしょう。「温情とか仲間意識をベースにして、能力のない足を引っ張っている連中に席と給料を与え続けるのは『バカ左翼』のやること」とはまさに言い得て妙です。