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ヤマト運輸が裏タイムカード作成し労働時間を短く改ざん

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はじめに

 ヤマト運輸の西宮柳本センター(兵庫県西宮市)で、40代男性従業員の勤務時間を短く改ざんした「裏タイムカード」が作成され、賃金の未払いがあったとして、西宮労働基準監督署が同社西宮支店に是正勧告していたことがわかりました。是正勧告は今月12日付。男性が労基署に相談したことから問題が発覚。男性自身が打刻していたタイムカードとは別に、勤務日の一部が欠勤扱いにされたり、短い勤務時間にされた別のタイムカードの存在が明らかになったそうです。

www.kobe-np.co.jp

 是正勧告段階での新聞報道は、法違反の是正を促すためにも良い傾向だといえるでしょう。

相次ぐ労働時間改ざんの例

 労働時間の改ざんに関しては、あきた湖東農業協同組合でも起きています。

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 あきた湖東農業協同組合は、従業員の残業時間の管理のために使用していた複写式の「伝票」を、幹部が毎月数枚間引きし、残業時間を過少にみせかけていました。同組合では、労基署からの是正勧告にも応じなかったため書類送検されています。

 労働時間の改ざんをめぐっては、トヨタカローラ北越でも起きています。

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 トヨタカローラ北越は、勤務中の営業社員に対し、定時近くの17~18時にタイムカードの一斉打刻(フライング打刻)を強制していました。従業員に強制するのか使用者が隠れてするのかの違いはあるものの、タイムカードの記録を使用者が改ざんしていたという点においては同じです。

 あきた湖東農業協同組合では、労基署の定期監督により一連の問題が発覚しました。一方、トヨタカローラ北越とヤマト運輸の西宮柳本センターでは、労働者が労基署に相談したことによって問題が明るみになりました。何かおかしいと思ったとき速やかに労基署に出向けば、迅速に問題を解決することにつながります。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

 平成29年1月20日、厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を策定しました。これは、使用者が労働者の労働時間を適正に把握するために遵守すべき事項をまとめたガイドラインです。「使用者には労働時間を適正に把握する責務がある」という点がポイントです。これは、「労働時間の適正把握・管理は使用者の義務である」と判示した最近の下級審裁判例を踏まえたものです。

 ガイドラインは、始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法として次の2つに限定しています。

  • 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
  • タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。

 ヤマトでは、原則的方法であるタイムカードによる方法が採られていましたが、適正に記録されていませんでした。というか、労働者が打刻した本来のものを使用せず、当該労働者にとっては誰が打刻したともわからない裏タイムカードを労働時間把握の基礎としていました。こんなことをされてしまってはとても安心して働く気が起きないですね。

医療法人大生会事件

 タイムカードに関する使用者の不法行為を巡っては、次のような裁判例が存在します。医療法人大生会事件(大阪地判平22.7.15)です。

事件の概要

  •  X(原告)は平成21年1月19日にY(被告)と雇用契約を締結し、経理事務を経て総務管理の事務を担当していた。
  • 平成21年3月9日、Xは午後9時ころ退勤したが、午後10~11時ころすぐに戻るよう電話で指示を受けた。
  • Xがこの指示を拒んだところ、翌日の3月10日には、Xのタイムカードが取り去られており、3月15日まで打刻できない状態にされていた
  • Xは3月14日に解雇通告を受けたが、Yを相手方として、未払い賃金およびタイムカード取り上げによる不法行為に基づく慰謝料を求め提訴した。

判決内容要旨

判決:一部認容

(1)労基法は、使用者みずから労働時間を把握すべきものとし、さらに使用者に対して賃金その他労働時間に関する重要な書類についての保存義務を課している。

このように、労基法上、使用者が労働時間の把握をすべきものとされ、使用者に賃金その他労働関係に関する重要な書類についての保存義務を課しているのは、労働者保護の観点から、労働時間についての規制を実効あらしめるとともに、仮に労働時間について当事者間で紛議が生じた場合には、これを使用者が作成し、保管している労働関係に関する書類によって明らかにし、労働者と使用者との間の労働条件や割増賃金等に関する紛争の発生を未然に防止し又は生じた紛争を速やかに解決することを図ったものと解するのが相当である。 

(2)使用者がタイムカード等の機械的手段によって労働時間管理をしている場合には、使用者において労働時間に関するデータを蓄積、保存することや、保存しているタイムカード等に基づいて労働時間に関するデータを開示することは容易であり、使用者に特段の負担は生じないことにかんがみると、使用者は、労基法の規制を受ける労働契約の不随義務として、信義則上、労働者にタイムカード等の打刻を適正に行わせる義務を負っているだけでなく、労働者からタイムカード等の開示を求められた場合には、その開示要求が濫用にあたると認められるなど特段の事情のない限り、保存しているタイムカード等を開示すべき義務を負うと解すべきである。

そして、使用者がこの義務に違反して、正当な理由なくタイムカード等の打刻をさせなかったり、特段の事情なくタイムカード等の開示を拒絶したときは、その行為は、違法性を有し、不法行為を構成するものというべきである。

前半部分(1)をどう読むか

 労働基準法に次のような規定があります。

労働基準法108条

使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。

 賃金台帳に記入するべき事項には、次のようなものがあります。

  1.  氏名
  2.  性別
  3.  賃金計算期間
  4.  労働日数
  5.  労働時間数
  6.  法第三十三条 若しくは法第三十六条第一項 の規定によつて労働時間を延長し、若しくは休日に労働させた場合又は深夜労働させた場合には、その延長時間数、休日労働時間数及び深夜労働時間数
  7.   基本給、手当その他賃金の種類毎にその額
  8.   法第二十四条第一項 の規定によつて賃金の一部を控除した場合には、その額

 5および6のように、労働時間数、時間外・休日労働時間数及び深夜労働時間数を各人別に賃金台帳に記入しなければならないことになっています。また、保存期間については、労働基準法109条において3年間と定められています。本判決は、使用者による労働時間の適正把握義務の法的根拠が、労働基準法108・109条にあると判示しています。また、労基法上このような記録の保存義務を使用者に課している趣旨が、労働時間について当事者間での紛争の未然防止又は迅速な紛争解決にあるとも判示しています。

後半部分(2)について

 後半の箇所は、タイムカード等機械的な手段によって労働時間管理をしている場合の使用者の義務について判示しています。 具体的には、

  1. タイムカード等の打刻を適正に行わせる義務
  2. 保存しているタイムカード等を開示すべき義務

の2点です。正当な理由なくこれらを拒絶した場合不法行為を構成します。

タイムカード等の打刻を適正に行わせる義務について

 トヨタカローラ北越では、営業社員に対し、まだ仕事中であるにもかかわらず、定時近くで使用者がタイムカードの一斉打刻を強制していました。これは、明らかにタイムカード等の打刻を適正に行わせる使用者の義務を怠っています。したがって、使用者からこのようなことを求められたら断固として拒否しましょう。労働者が拒否したにもかかわらず使用者がこれを求める場合は、不法行為を構成することになります。そのときは、速やかに監督署に駆け込みましょう。

保存しているタイムカード等を開示すべき義務について

 ヤマトでは、労働者が適正にタイムカードの打刻を行っていました。しかし、労働時間と比べ給料が少ないことを労働者が不審に思い監督署に相談し、裏タイムカード問題が発覚したそうです。

 このようなことを防止するためには、毎月の給与明細を確認し、おかしいと思ったら使用者に対し、タイムカード等客観的資料の開示請求を行うべきです。使用者が正当な理由なくこれを拒絶した場合、不法行為を構成します。なるべく早いうちに監督署に相談しましょう。

まとめ

 残業時間として申告した資料を使用者が勝手に間引いて残業時間を少なく改ざんしたり(あきた湖東農業協同組合)、まだ仕事中なのにタイムカードの定時フライング打刻を強制し残業をなかったことにしたり(トヨタカローラ北越)、極めつけは使用者が裏タイムカードを作成して勤務日が休みにされていたり(ヤマト運輸西宮柳本センター)、何をやられるか分からないほんと世知辛い世の中ですね。

 一生懸命仕事をしているのに無かったことにされるくらいだったら、さっさと帰った方がマシです。皆さん気を付けましょう。