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北海道新聞は自分の会社の労基法違反をちゃんと報道しよう!

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はじめに

 北海道新聞社が、東京支社の社員の残業代(時間外・休日労働の割増賃金)を支払っていなかったとして、三田労働基準監督署(東京都)から労働基準法違反で是正勧告を受けていたことがわかりました。是正勧告は、2016年3月18日付。社内調査で、14年2月~16年4月、計約2億8300万円の未払いがあることもわかりました。同年5月までに支給済み。対象労働者は、全社員の7割を超える1064人。会社全体で組織的に違法な賃金不払い残業(いわゆるサビ残)がまん延していた実態が明らかになりました。

何かズレていないか

 北海道新聞社が労基法違反により労基署から是正勧告を受けていた件については、5月23日に、朝日・読売・産経・毎日が一斉に報道しました。しかし、筆者の知るところ、肝心なところが未だ報道していません。北海道新聞です。同社のサイト内検索で探しても見当たりませんでした。代わりに次のような記事が出てきました。

dd.hokkaido-np.co.jp

 この記事は、電通北海道など電通の5つの子会社でも36協定に違反する違法長時間労働で、労基署から是正勧告を受けていたことを報じたものです。2017年5月15日付の記事です。

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 北海道新聞が労基署から是正勧告を受けてから1年以上が経過しています。北海道新聞は他社の是正勧告を報じる前に自社の是正勧告をちゃんと報道しましょう。

サービス残業おさらい

法定労働時間について 

 ブラック企業問題が盛んに指摘されているのに、賃金不払い残業(サービス残業)の報道があとを絶ちません。そこで、もう一度サービス残業がどうして労働基準法違反になるのか概略を説明したいと思います。

 そもそも残業とは、法定労働時間を超える労働(時間外労働)のことを意味します。労働基準法32条に、法定労働時間に関して次のような定めがあります。

労働基準法32条

使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

 このように、使用者は労働者に、1日8時間・週40時間を超える労働をさせてはならないことになっています。下線部を法定労働時間といいます。ただし労働基準法40条は、常時10人未満の一部の事業の週法定労働時間を44時間とする特例を定めています。

36協定について

 このように法定労働時間を超える労働(時間外労働)を使用者が労働者にさせることは労働基準法32条で禁止されていますが、36協定を労使間で締結し監督署に届け出ることにより、時間外労働の免罰的効果が与えられます。

 また、法定休日に労働(休日労働)をさせることは労働基準法35条で禁止されていますが、36協定を労使間で締結し監督署に届け出ることにより、休日労働の免罰的効果も与えられます。

時間外・休日労働における割増賃金

 使用者が、労働者に時間外・休日労働をさせた場合、通常の賃金に加え通常の賃金に対し所定の割増率を乗じた賃金も支払わなければならないことになっています。これを、時間外・休日労働の割増賃といいます。労働基準法37条に詳細な規定があります。どのような場合にどれくらいの割増率が適用されるのかについては、下記記事において詳しく解説しています。参照ください。

www.mesoscopical.com 

 使用者が労働者に時間外・休日労働をさせたにもかかわらず割増賃金を支払わない場合、労働基準法37条違反に該当し、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金という罰則規定が適用されます。今回、北海道新聞社は監督署の臨検により、同条違反が発覚したため是正勧告を受けたことになります。

労働時間管理の適用除外者

 そもそも、労働者の労働時間を把握することは使用者の責務です。

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 しかしながら、次に掲げる労働者は、労務管理において経営者と一体的な立場にある・使用者からの具体的な指揮監督が及ばないなどの理由により、労働時間管理の対象から外されています。

  • ①労働基準法41条に定める管理監督者等
  • ②みなし労働時間制が適用されている者

 上記①・②に該当する人には時間外労働の概念が存在しないため、割増賃金を使用者が支払う義務は発生しません。ただし、深夜労働や休日労働の割増賃金の支払い義務までは免除されていません。

 ①は、いわゆる管理職の人たちです。通常の企業であれば、課長以上の職位にある人たちが該当するでしょう。

 ②には次の3種類があります。

  • ア.事業場外で労働する者であって、労働時間の算定が困難なもの(労働基準法第38条の2)
  • イ.専門業務型裁量労働制が適用される者(労働基準法第38条の3)
  • ウ.企画業務型裁量労働制が適用される者(労働基準法第38条の4)

 アは外交セールス(外回り営業)を専らとする人たちが該当します。イは、業務遂行上、労働者の裁量の余地が大きい専門的職務に就いている人たちが該当します。ウは、企画職など事業の運営に関する業務に就いている人たちが該当します。今回は、イの専門業務型裁量労働制について考えてみたいと思います。

専門業務型裁量労働制について

 専門業務型裁量労働制のもとで労働者を働かせるためには、その適用を受ける労働者が対象業務に就いていなければなりません。対象業務の範囲は、労働基準法施行規則24条2の2第2項において次のように定められています。

新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務

二  情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務

三  新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法 (昭和二十五年法律第百三十二号)第二条第二十八号 に規定する放送番組(以下「放送番組」という。)の制作のための取材若しくは編集の業務

四  衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務

五  放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務

六  前各号のほか、厚生労働大臣の指定する業務

 第3号の記述を見ると、新聞記者は専門業務型裁量労働制の対象業務に該当することがわかります。報道によると、北海道新聞社は全社員の7割を超える労働者に残業代を支払っていなかったとあります。北海道新聞社において、全社員のうち何割くらいが新聞記者として在籍しているかは知りませんが、専門業務型裁量労働制の適用を受けていなかったのかどうかという疑問が残ります。専門業務型裁量労働制の適用には、対象業務要件のほかにさまざまな要件があります。詳細は、下記記事を参考にしてください。

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 ところで、残業代未払いによる労基署からの是正勧告をめぐっては、関西電力やエイベックス・グループ・ホールディングスにおいても発生しています。

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 エイベックス・グループ・ホールディングスでは、松浦勝人同社社長が持論を展開し話題になりました。しかし、その後同社は問題発覚を踏まえ労務管理を見直すとしており、裁量労働制の導入も検討するとしています。

まとめ

 監督署からの是正勧告について、他社(電通子会社)のものを報道し、自社(北海道新聞)のものは報道しないという姿勢は、報道機関としてあるまじき姿だと思います。