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働くルールを理解してこれからの働き方について考えよう!

雇用保険に加入できない正社員は存在するか?

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はじめに

  雑誌記事において、「正社員の働き方の変貌(劣悪化)によって、雇用保険に入れない働き方をしている正社員が増えていった」という記述を発見しました。そこで、筆者は標題のような問いを設定し、検証することにしました。

正社員とはそもそも何か

 正社員を直接的に定義する法律の条文は存在しません。しかし、下記3つの判断基準にしたがって、間接的に正社員を定義づけすることができます。

  1. 雇用契約期間に定めがあるかないか
  2. フルタイムかパートタイムか
  3. 直接雇用か間接雇用か

1について

 まず、1について考えます。労働基準法14条に有期労働契約に関する規定があります。この規定の適用を受ける労働者を有期雇用労働者といいます。契約社員として働いている方がこの範疇に該当します。有期雇用労働者は非正規社員のカテゴリーに分類されています。

2について

 次に、2について考えます。パートタイムで働く人(パートタイマーやアルバイト)を法律的には短時間労働者といいます。短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下、パートタイム労働法という。)2条は、「短時間労働者」を次のように定義しています。

パートタイム労働法2条

この法律において「短時間労働者」とは、一週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者(当該事業所に雇用される通常の労働者と同種の業務に従事する当該事業所に雇用される労働者にあっては、厚生労働省令で定める場合を除き、当該労働者と同種の業務に従事する当該通常の労働者)の一週間の所定労働時間に比し短い労働者をいう。

 このように、「短時間労働者」とは、一週間の所定労働時間が通常の労働者より短い労働者をいいます。例えば、ある事業所の1週間の所定労働時間のうち最も長いもの(フルタイム)が40時間なら、その事業所で週の所定労働時間を30時間として働いている労働者は短時間労働者ということになります。短時間労働者も非正規社員のカテゴリーに分類されています。

3について

 次に、3について考えます。就業場所の会社には直接雇用されず別の会社から派遣される雇用形態を間接雇用といいます。間接雇用で働く労働者を派遣労働者といいます。あるいは、単に派遣社員という呼称を用いることもあります。派遣労働者の用語の定義は、労働者派遣法2条に具体的に示されています。派遣労働者も非正規労働者のカテゴリーに分類されています。

正社員の定義 

 労働基準法14条・パートタイム労働法2条・労働者派遣法2条のいずれの適用も受けない労働者を正規労働者といいます。あるいは、単に正社員という呼称を用いることもあります。

 つまり正社員とは、雇用期間の定めがなく、かつ、一週間の所定労働時間が他の従業員に比して短くなく、かつ、就業場所の企業に直接雇用されている社員を意味します。

 これを踏まえた上で、標題について考えます。

雇用保険について

 強制適用事業について

 労働者を1人でも雇用する場合、その事業は雇用保険の強制適用事業とされます。しかし、労働者を雇用していても次1~3の全てを満たす場合は例外とされ、暫定任意適用事業とされます。暫定任意適用事業とは、雇用保険への加入が任意である事業です。

  1. 農林・水産・畜産・養蚕の事業(但し、水産の場合、船員法1条に規定する船員を雇用しない)
  2. 個人経営
  3. 常時雇用する労働者が5人未満

適用除外について

 強制であれ任意であれ適用事業に雇用される労働者は、雇用保険の被保険者となります。しかし、次の場合は雇用関係があるとは認められず、原則的に雇用保険の被保険者とはなりません。

  1. 個人事業主
  2. 法人の代表取締役・取締役・監査役
  3. 昼間学生
  4. 家事使用人
  5. 同居の親族

 また、次の場合は雇用関係があっても、雇用保険の被保険者になれません。

  1. 1週間の所定労働時間が20時間未満の者
  2. 31日以上引き続き雇用されることが見込まれない者
  3. 65歳に達した日以後に雇用される者
  4. 季節的・短期的に雇用され週所定労働時間が30時間未満の者(いわゆる出稼ぎ労働者)
  5. 日雇労働者
  6. 4か月以内の季節的事業に雇用される者(海の家など)
  7. 船員(例:マグロ漁師など 別の法律で支給を受けます)
  8. 公務員(別の法律で支給を受けます)

 以上のうち、正社員の可能性があるのは、

  • ①従業員数5人未満の個人経営の農林・水産・畜産・養蚕の事業で働く人
  • ②船員
  • ③公務員

だけです。

 ①の人は、まず街を歩いていないでしょう。また、昔からこの規定は変わっていないので、正社員の働き方の変質とは何ら関係ありません。また、船員も公務員も離職した時の諸給与の内容が別の法律で定められているため雇用保険に加入できないだけで、正社員の働き方の変質とは全く関係ありません。

 以上は、法律で定められていることであり、雇用保険の加入の可否と、正社員の働き方の変質とは全く関係ありません。

考えられる可能性

 次のような可能性も考えられます。

  1.  実際は、所定労働時間が週20時間未満あるいは31日以上の雇用が見込まれない非正規社員なのに本人が正社員だと勘違いしている。
  2. 会社が雇用した労働者の雇用保険加入の手続きをしていない。

 1の場合は仕方がありませんが、2の場合は、会社に加入の手続きをお願いすればよいだけです。どうしてもしてもらえなかったら、ハローワークに連絡しましょう。1の場合は当人の誤解、2の場合は会社の事務手続きの懈怠によるものであり、正社員の働き方の変質とは関係がありません。

 正社員の働き方の変質と関連性があるものとして、唯一考えられるのは、従業員の週所定労働時間が全員20時間未満の場合です。例えば、週所定労働時間を18時間といった具合に週20時間未満に設定し、18時間をフルタイムとする場合です。その会社に期間を定めずに直接雇用された場合、理論的には週所定労働時間が20時間未満でも正社員ということになります。

 果たしてこのような会社は存在するのでしょうか。仮に存在したとしても、そのような人にはそうそうお目にかかれないでしょう。アンケートで頻繁にそのような人に出くわすことができたら、それこそ宝くじレベルの確率です。