Mesoscopic Systems

働くルールを理解してこれからの働き方について考えよう!

大企業ほど過労死ライン超の従業員の割合が多いという事実

はじめに

 2017年4月29日、連合が主催するメーデー中央大会が、東京・代々木公園で開かれました(参照元:『テレ朝news』2017.04.29)。

メーデー=May Day=五月の日

 4月にメーデーっておかしいでしょ。

メーデーの起源

 メーデーの起源は、1886年5月1日にまで遡ります。場所は、南北戦争終結後21年が経った、アメリカ合衆国です。合衆国カナダ労働組合連盟は、1886年5月1日に8時間労働制を要求する統一ストライキを敢行しました。35万人がストを敢行し,各地でデモが行われ,約半数の18万人が8時間労働制を獲得しました。以来、5月1日を、労働者が統一してその権利の要求と国際的な連帯の活動を行う日として、「メーデー」と呼ぶようになっていきました。

 132年前、この運動のスローガンは、「第1の8時間は仕事のために、第2の8時間は休息のために、そして残りの8時間は、おれたちの好きなことのために」だったそうです。長時間労働が横行する日本の現状を鑑みれば、131年前のアメリカの人たちのほうがよっぽどマシなこと言っていますね。

日本で4月にメーデーを開催するようになった訳とは

 日本でも、5月1日にメーデーを行っていた時期もありました。しかし、近年の組織率の低下や参加者の減少に合わせて、今世紀に入ってから連合は、4月の土曜日や祝日にメーデーを開催するようになりました。

連合会長のメーデーでの発言

連合・神津里季生会長:「痛ましい過労死を防ぎ、皆が仕事と生活を両立できる社会を実現していかなければなりません」

 「皆が仕事と生活を両立できる社会を実現する」ためには、労働時間をどれくらいにしなければならないか、もっと具体的なことを言うべきです。せめて時間外労働の上限を「月100時間未満」と提案してしまったことくらいは連合として再考すべきだったでしょう。

東京都知事のメーデーでの発言 

小池百合子都知事:「長く働けば利益が上がった、そういう時代は終わりました」

 一方の小池百合子都知事はこのように発言しています。これは、興味深い発言です。都知事の言う、「そういう時代」とは、おそらく高度経済成長期を意味していると思われます。

 ところで先日、「週刊現代のフェイク記事」を検証しました。

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  週刊現代の記事には、「日本人はもはや働き者でもなんでもなく、かつてのようなモーレツ社員が減ったから労働生産性が低いのだ」という趣旨のことが書かれていましたが、これは全く誤りの内容です。高度経済成長期においては、欧米に比して人件費の安さにおいて日本はアドバンテージがありました。そのため、当時の日本では、際限なく労働力を投入しても企業は利益を得ることができました。

 しかし、今では、急激な経済成長を遂げているアジア諸国に比べ、日本の人件費は決して安くありません。したがって、かつてのようなモーレツ社員を礼賛し際限なく労働力を投入しても、企業は決して利益を上げることはできないのです。すなわち、都知事の言っていることは正しいのです。

「長く働く」の発言の中に別の意味も込めていないか

 都知事の言う、「長く働けば」は、もちろん「長時間労働」を意味しますが、筆者は、この発言の中にもう一つ重要な意味が込められていると理解しています。それは、「長く(同じ会社で)働けば」という意味です。

 そもそも、長時間労働の誘発要因は、終身雇用制にあります。その理由は、内部労働市場においてのみ雇用調整を図ろうとするやりかたにあります。生産労働人口が減少し続ける現代にあって、若年労働者の報酬を低めに抑えて、勤続年数に応じて事後的に回収するという年功序列賃金ももはや限界に差し掛かっています。生産性の低い人が長期間同じ会社に居ても、人件費ばかりが高騰し、利益を上げることはできないのです。 

一般労働者の労働時間はパートタイム労働者の労働時間の約1.9倍

 平成28年版過労死等防止対策白書では、一般労働者とパートタイム労働者の年間総労働時間数の推移がグラフ化されています。平成5年において、一般労働者の年間総労働時間数は2045時間であり、その後、ほぼ横ばいの傾向を示しています。平成27年では、2026時間となっており、平成5年に比べ約0.9%しか減少していません。一方、パートタイム労働者は、平成5年において1184時間であったのに対し、以降徐々に減少し続け、平成27年においては、1068時間となっており、約9.8%減少しました。

 なお、一般労働者には、正規従業員(正社員)のほか、契約社員・派遣労働者など非正規労働者も含まれます。

男性正社員の労働時間は一般労働者の労働時間の約1.4倍

 森岡孝二関西大名誉教授は、日本の男性正社員の年間総実労働時間は2760時間(平成23年)であることを示しました。 平成23年の一般労働者の年間総実労働時間が2006時間であることと比べたら、実に750時間以上の開きがあります。

 因みに、平成28年過労死等防止対策白書からは、正社員が過労死に至る確率は非正社員の約18倍であることがわかっています。

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大企業ほど過労死ライン超の従業員の割合が多い

 また、八代 尚宏昭和女子大学グローバルビジネス学部長は、厚生労働省就労条件実態調査の分析から、労働組合の組織率が高い大企業ほど残業時間が長く、労働組合が長い残業時間の歯止めとして機能していないことを示しました(参照元:八代 尚宏:日経ビジネスオンライン)。筆者は、この記事から、月間の残業時間が100時間以上という過労死ライン超の労働者数の割合と企業規模との相関関係をグラフ化しました。 

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 確かに、従業員数10人以上の企業では、企業規模に応じて過労死ライン超の従業員の割合が増加していることがわかります。

まとめ

 以上の結果より、大企業男性正社員の労働時間がもっとも長いと結論付けられます。大企業正社員が加盟している労働組合とは言わずと知れた、連合傘下の企業別労働組合です。連合は「痛ましい過労死を防ぎ、皆が仕事と生活を両立できる社会を実現していかなければなりません」と言う以上、もっと具体的な方策を示す必要があるでしょう。