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東本願寺で修行の範囲を超えた違法残業:残業代を支払わずして何を拝んできたのか?

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はじめに

 筆者は、神社仏閣を訪れることを趣味としています。お寺の庭を眺めるととても落ち着きますし、また、紅葉シーズンのお寺の景色は最高に美しいですね。また、仏像の美術的な価値を楽しむのもいいですね。それだけに、こういうニュースはとても残念な気持ちになります。 

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東本願寺で何が起こっていたのか

 東本願寺を本山とする真宗大谷派が、東本願寺で雇用する一部職員に対して、40年以上の長きに渡り賃金不払い残業を強制していたことがわかりました。一部職員とは、東本願寺境内の研修施設「同朋会館」で勤務する「補導(ほどう)」と呼ばれる職員です。この職種で非正規雇用として勤務していた男性僧侶2人が未払いの残業代の支払い請求を行った経緯で事が明るみになりました。いやはや、お坊さんの世界に正規・非正規があるとは知りませんでした。

 真宗大谷派が、昭和48年11月に、「真宗大谷派職員組合」との間で交わした労働協約において、「時間外割増賃金は支給しない」という違法な一文を入れていたそうです。以降43年間、真宗大谷派はこの違法な労働協約を更新し続けてきました。大谷派は、2人に対し計約660万円を支払い済みですが、他の「補導」については、月23時間分の固定残業代制で対応しています。しかし、その超過時間分については残業代を支払っていません。

 本来、労働組合とは、労働者の権利擁護のために組織されるべきものですが、使用者と組合とで交わされる約束事である労働協約において、まさか違法な内容の一文が盛り込まれているとは、いくら浮世離れした世界のこととは言え、あり得ないでしょう。

労働基準法1条には何が書いてあるのか

 労働基準法の最初の条文である第1条に何が書いてあるのか皆さんはご存知でしょうか。

労働基準法1条

労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。

2 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

 このように、労働基準法で定められている労働条件は最低基準だと同条において書かれています。したがって、例え使用者と組合とで交わされた労働協約であっても、その効力関係において労働基準法のほうが優先されます。すなわち、労働基準法の基準に達しない労働協約の部分は無効となり、強行的に労働基準法で定める基準に修正されます。

就業規則と労働基準法・労働協約との効力関係について

 労働条件の決定に関しては、労働協約の他に、就業規則・労働契約があります。就業規則とは労働者の就業上遵守すべき規律及び労働条件について、使用者が定めた規則です。労働基準法89条において、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、労働基準監督署長に届けなければならないことになっています。

 労働基準法は就業規則について次のように定めています。

労働基準法92条

就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。

2 行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる。

 すなわち、効力関係は、労働基準法が最優先されその次に労働協約、そして就業規則の順になっています。

労働契約と労働基準法・労働協約・就業規則との効力関係について

 労働契約は個々の労働者が使用者から対価を得て、当該使用者の下で、自己の労務の提供を約する契約のことです。 労働基準法と労働契約との効力関係も労働基準法で定められています。

労働基準法13条

この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

 すなわち、効力関係は、労働基準法のほうが労働契約より優先されます。

 労働協約と労働契約との効力関係については、労働組合法に定めがあります。

労働組合法16条

労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となつた部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。

 このように、効力関係は労働契約より労働協約のほうが優先されます。

 最後に残ったのは、就業規則と労働契約との効力関係です。これについては、労働契約法に定めがあります。

労働契約法12条

就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

 このように、効力関係は労働契約より就業規則のほうが優先されます。

効力関係のまとめ

以上をまとめると、効力関係は、

法令≧労働協約≧就業規則≧労働契約

ということになります。「A≧B」の意味は、AのほうがBよりも優先されるという意味です。

 このように、労働協約は法令の次に優先度が高く設定されています。これは、使用者が作成する就業規則や使用者と労働者個人とで取り交わされる労働契約よりも、組合が関与する労働協約のほうが優先的に取り計らえるよう考慮したためです。

御用組合が労働者のために役に立っていないことが真宗大谷派の例で示された

 先日の記事のなかで、元経産官僚 古賀茂明氏による「連合は経団連労務部と改称すべき」との主張を紹介しました。 

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 これは、連合が労使協調路線を採っているため、労働者の味方というよりむしろ使用者側の論理に従って行動規範を置いているのではないかという主張です。そのため、日本社会において長時間労働が長らく放置され続けてきました。これと同じようなことが、「真宗大谷派職員組合」でも起きました。

 産経の報道によると、男性僧侶が過労死ラインを超える残業(130時間)や残業代が支払われないことを、同組合に相談したにもかかわらず、改善される見込みがなかったとのことです。そこで、個人加盟できる「きょうとユニオン」を頼り、団体交渉の過程で次々と違法状態が発覚したそうです。

 労働組合法に労働組合の定義があります。

労働組合法2条

この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。

 「真宗大谷派職員組合」はこの定義に外れていませんか。

寺院でのハラスメント行為について

 産経は、真宗大谷派のパワハラについても報じています。上司から暴言を吐かれたり机をたたいて怒鳴られたりしたそうです。パワハラの定義については、下記の記事において詳しく解説しています。 

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 寺院でのパワハラ被害については、昨年、比叡山延暦寺でも発生しています。40代男性僧侶が20代修行僧の頭部を数回殴って鼓膜が破れる怪我を負わせています。また、別の日にはこの40代男性僧侶は、30代僧侶の袈裟(けさ)を破って転倒させたといいます。

寺院でのセクハラその他について

 寺院でのセクハラ被害については、善光寺で大問題になっています。

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 善光寺トップの生き仏「小松玄澄貫主」(82)が、60代女性従業員に、「一人で寂しくないか。彼氏を連れ込んでいるのか。俺が行ってやろうか」などと迫る発言を繰り返していたと週刊朝日は報じています。セクハラの定義については、次の記事を参考にしてください。

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 その他には、宗教法人仁和寺が、昨年の第5回ブラック企業大賞にノミネートされています。元料理長に対して、毎月140時間以上の時間外労働、349日連続出勤などの長時間労働をさせていたことがノミネート理由となっています。

まとめ

 しかし、お寺で労働基準法違反やパワハラやセクハラ。いったいどうなっているのでしょうか。しかも、東本願寺・比叡山延暦寺・善光寺・仁和寺といった教科書にも出てくるくらい有名なお寺ばかりです。特に、延暦寺と仁和寺は世界遺産です。

 ところで、大谷大学の兵藤一夫教授(仏教学)が、『文藝春秋』2012年4月号の中で次のように語っています。

仏教は、欲望に内在するこの「もっと、もっと」という本性に気づき、先ずそれを止めるために「少欲・知足」ということをもって、生きる出発点としてきた。

 しかし、東本願寺といい比叡山延暦寺といい善光寺といい仁和寺といい、全部欲望の塊ですね。