Mesoscopic Systems

働くルールを理解してこれからの働き方について考えよう!

トヨタ系列社員の過労死裁判:遺族側逆転勝訴

f:id:mesoscopic:20170313163231j:plain

トヨタ系列社員の過労死裁判

 トヨタ系列会社に勤務する社員が2011年に突然死したのは過労が原因とする判決を名古屋高裁が下しました。 報道をまとめます。 

  • 愛知県安城市の三輪敏博さんは、トヨタ自動車系列の下請け会社に勤めていた。
  • 救急車の部品組み立てをしていたという。
  • 2011年9月、虚血性心疾患で死亡。
  • 敏博さんの妻が2012年に半田労基署に労災保険支給を申請。
  • 労基署は不支給の決定をした。
  • 遺族が国を相手取り、労災保険不支給決定の取り消しを求め提訴。
  • 2016年3月16日、名古屋地裁は原告の訴えを棄却。
  • 2017年2月23日、名古屋高裁は一審の判決を取り消し、「直近1カ月は100時間超の時間外労働に匹敵する過重な負荷だった」と労災を認定。
  • 2017年3月9日、国は上告を断念し判決が確定。
  • 参照元:『産経WEST』;『SANSPO』

www.sankei.com

 いろいろ探しましたが、5大新聞のうち産経と朝日だけが報道していました。読売・毎日・日経はどうしたのでしょうか。因みに、東洋経済新報社の広告宣伝費の多い企業ランキングによると、トヨタ自動車は1位で、4890億円の広告費を投じています。パナソニック(1042億円)の4倍以上の広告宣伝費です。

toyokeizai.net

トヨタ自動車では過去に同様の裁判も

 トヨタ自動車社員の過労死を巡って、過去にも今回のケースと同様な裁判がありました。トヨタ自動車の工場内で夜勤残業中に倒れ、急死した内野健一さんの過労死裁判です。

toyokeizai.net

  • 内野健一さんは、トヨタ自動車の堤工場に勤めていた
  • 2002年2月8日、残業中に突然倒れ、搬送先の病院で翌日死亡
  • 内野さんの妻が、豊田労働基準監督署に労災保険支給を申請
  • 労基署は不支給の決定をした
  • 遺族が国を相手取り、労災保険不支給決定の取り消しを求め提訴
  • 2007年11月30日、名古屋地裁は原告の訴えを認め、内野健一さんの死を「過労死」(労災)と認定
  • 2007年12月14日、国は控訴を断念し判決が確定

 三輪さんのケースとよく似ています。違っていることといったら、1審で決着したか、2審までもつれ込んだかの違いくらいです。

厚生労働省の過労死認定基準について

 労働時間に着目した厚生労働省の過労死認定基準を下に示します。 

 次の(1)、(2)又は(3)の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、「その他業務に起因することが明らかな疾病」として取り扱う。

(1) 発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと。

(2) 発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと。

(3) 発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと。

 疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、その時間が長いほど、業務の過重性が増すところであり、具体的には、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて、

① 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること

② 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること

 よく報道等で目にする過労死認定基準は、(3)の②を意味します。しかし、①にも着目してください。協定延長時間が限度基準(月45時間)を超えると、時間外労働が長くなるほど業務と発症との因果関係が強まるとはっきり書いてあります。

 時間外労働の上限規制を巡っては、経団連は月100時間以下、連合は月100時間未満を主張しました。確かに、月100時間の時間外労働は過労死の危険性が強まります。一方で、「月100時間未満の時間外労働なら過労死の危険性がない」とは、厚生労働省の過労死認定基準のどこにも書いていないのです。

まとめ 

  先日、パナソニックでの過労死事例を紹介しました。 

www.mesoscopical.com

 いずれも、工場における過労死の事例です。工場労働の場合、生産ラインに拘束される業務が多く、労働過密性が高いので、特に労務管理を徹底すべきです。 

 今回のトヨタ系列会社のケースも工場労働による過労死の事例です。当初、労働基準監督署は「直近1カ月は100時間超でなかった」として過労死認定をしませんでした。一方、高裁判決では、「直近1カ月は100時間超の時間外労働に匹敵する過重な負荷だった」と認定しました。

 三輪さんのケースも内野さんのケースも製造業が集積する愛知県で起きた出来事です。工場労働も他府県よりも数多く存在します。