はじめに
昨年の12月、エイベックス・グループ・ホールディングスが社員に違法な長時間労働をさせていたとして、三田労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがわかりました。
記事によると、エイベックス社は「(是正勧告を)真摯に受け止め、社内調査を含め是正に着手している」と説明していましたが、松浦勝人同社社長の発言が物議を醸しました。内容の是非はともかく、松浦社長の発言は、働き方を考えるうえで重要な問題提起になりました。そこで、今回は、松浦社長の発言内容から、仕事と遊びの問題について考えます。
松浦社長の発言内容を考えてみよう
niftyニュースから発言内容の一部をピックアップさせていただきます(下記①~⑦の引用部分が松浦社長の発言です)。
①仕事が遊びで遊びが仕事
仕事は仕事で遊びは遊びです。
②自分が好きで働いていても法律で決められた時間しか働けなくなる可能性がある。
まず、松浦社長が言う法律で決められた時間がどこのことを言っているのか知る必要があります。もし、労働基準法32条で規定された法定労働時間のことを言っているのであれば、同法36条に基づいて36協定を締結し労働基準監督署に届け出ることで労働時間の延長を認めてもらう必要があります。ただし、当該延長時間は、厚生労働大臣が定める基準を満たすようにしなければなりません。それでも対応しきれないくらい忙しいのであれば、同協定において特別条項をセッティングする必要があります。現行法では、特別条項でセッティングできる特別延長時間は事実上青天井です。ただし、過労死認定基準を超えるような特別延長時間をセッティングした場合、労働者の健康確保措置をちゃんとする必要があります。
松浦社長の言う、「法律で決められた時間しか働けなくなる」というのは現時点では、事実と異なります。しかし、現在政府が推進している働き方改革において、青天井の特別延長時間に上限が設定される可能性があります。
③労働基準監督署は昔の法律のまま、今の働き方を無視する様な取り締まりを行っていると言わざるを得ない。
労働基準監督署は現行の労働基準法や労働安全衛生法等に基づいた取り締まりを行っています。これらの法律は、絶えず改正を繰り返しています。したがって、監督署が昔の法律に基づいて取り締まりを行うことはありません。
④好きで仕事をやっている人に対しての労働時間だけの抑制は絶対に望まない。好きで仕事をやっている人は仕事と遊びの境目なんてない。
三田労働基準監督署からは、「残業代を適正に払っていない」との指摘を受けたと聞きます。「好きで仕事をやること」が「残業代を支払わなくても良いこと」の免罪符にはなりません。労働基準法37条は、仕事が好きか嫌いかに関わらず、残業代を支払わなければならないと定めています。
⑤とりあえず場当たり的にやっつけちまえ的な不公平な是正勧告に見えてならない。
今回の是正勧告は、労働者の申告によるものか、監督官の定期監督によるものかどちらでしょうか。前者の場合、場当たり的と片付けてはなりません。なぜなら、労働基準法104条に基づく労働者による申告の場合、監督官は当該事業所に臨検を行わなければならないことになっているからです。定期監督の場合、それを不公平と言われるのであれば、松浦社長はエイベックス社以外の全事業所に定期監督をするよう監督署に促すべきです。ただし、監督署はマンパワー不足なので、監督官の人員の拡充も併せて主張すべきです。そうすれば、公平性が担保できると思います。
⑥時代に合わない労基法なんて早く改正してほしい。
有名な言葉ですね。しかし、筆者はこの言葉に込められた松浦社長の真意がいまいち汲み取れません。確かに、音楽や芸能業界の場合は就業時間が不規則になる場合が多いと思います。業務によっては、始業▢▢時、休憩〇〇時~△△時、終業◇◇時というようにきっちりといかないことも多いでしょう。しかし、労働基準法が時代に合わないのではなく、現行でもある程度対応できるようになっています。
もし、時間管理にそぐわない業務なのであれば、裁量労働制の導入を検討するべきでしょう。ただし、何でもかんでも裁量労働制にしてよいというものではありません。裁量労働制が導入できる対象業務は法律でちゃんと決まっており、導入の際はちゃんと労使協定を締結して監督署に届け出る必要があるからです。届出の際、対象業務として認められなければ導入は不可です。
対象業務の中に、
(5)放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
というものがあります。「放送番組、映画等の制作」には、ビデオ、レコード、音楽テープ等の制作及び演劇、コンサート、ショー等の興行等が含まれます。
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/a5.html
いったん裁量労働制として認められれば、業務を遂行する上で時間配分の決定に関して使用者が口を出してはなりません。時間管理にそぐわないと言っておきながら、使用者が時間配分に関してあれやこれやと口出しするのは良いとこ取りも甚だしいからです。但し、使用者が労働者の時間管理をしてはならないとはいっても、労働者の実労働時間の状況を把握すること自体が免除されるわけではありませんので気を付けましょう。
まとめ
まとめとして、もう一つ松浦社長の発言を紹介します。
⑦僕らの仕事は自己実現や社会貢献みたいな目標を持って好きで働いている人が多い。(中略)僕らのやってきた事おかまいなしに一気にブラック企業扱いだ。
利潤追求ではなく、純粋に自己実現や社会貢献が目標ならば、企業でなくNPOを立ち上げるのが適当かと思います。また、本当に社会貢献が目標ならば、所属するタレントさんはボランティアとして日テレの24時間テレビに出演することになるでしょう。