はじめに
有料放送局WOWOWが6歳の子役を、深夜までドラマの撮影で働かせていたという報道がなされました。労働基準法では、年少者保護の観点から、年少者の労働に関しては特別の保護規定を定めています。そこで、今回は、年少者の労働条件について考えてみたいと思います。
労働者として使用できる最低年齢
労働基準法では、年少者を満18歳未満の者と定義しています。このうち、労働基準法56条第1項において、義務教育課程を修了していない児童を使用してはならないことになっています。
労働基準法56条第1項
使用者は、児童が満十五歳に達した日以後の最初の三月三十一日が終了するまで、これを使用してはならない。
しかし、同条第2項において次のような例外規定を設けています。
労働基準法56条第2項
前項の規定にかかわらず、別表第一第一号から第五号までに掲げる事業以外の事業に係る職業で、児童の健康及び福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なものについては、行政官庁の許可を受けて、満十三歳以上の児童をその者の修学時間外に使用することができる。映画の製作又は演劇の事業については、満十三歳に満たない児童についても、同様とする。
この例外規定においては、児童がどのような事業に係る職業に就いているかによって異なってきます。今回は、ドラマ撮影の話ですので、映画の製作又は演劇の事業ということになります。この場合、次の要件全てを満たせば、満13歳未満の児童についても使用することができることになっています。
- 映画の製作又は演劇の事業であること
- 児童の健康及び福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なものであること
- 労働基準監督署長の許可を得ること
- 使用時間が就学時間外であること
しかし、仮に上記4つの条件全てを満たしたからと言って、一般の労働者と同じ労働条件で使用することはできません。では、年少者に対する労働条件が労働基準法でどのように規定されているか説明します。
児童の法定労働時間について
成年の労働者に対する法定労働時間は、労働基準法32条により、1日8時間、週40時間と規定されていますが、満15歳に達した以後最初の3月31日が終了するまでにある児童については次のようになっています。
労働基準法60条第2項
第五十六条第二項の規定によつて使用する児童についての第三十二条の規定の適用については、同条第一項中「一週間について四十時間」とあるのは「、修学時間を通算して一週間について四十時間」と、同条第二項中「一日について八時間」とあるのは「、修学時間を通算して一日について七時間」とする。
このように児童の場合、就学時間を通算して1日7時間を超える使用は禁じられています。「通算」ですので、7時間の中に、学校で就学している時間も算入されます。例えば、学校での就学時間が4時間30分であれば、その日は、当該児童に対し2時間30分を超える使用をしてはなりません。
深夜労働について
年少者の深夜労働については労働基準法61条に規定されています。このうち、今回の事例に関係する規定を抜粋します。
労働基準法61条第1項
使用者は、満十八才に満たない者を午後十時から午前五時までの間において使用してはならない。ただし、交替制によつて使用する満十六才以上の男性については、この限りでない。
労働基準法61条第5項
第一項及び第二項の時刻は、第五十六条第二項の規定によつて使用する児童については、第一項の時刻は、午後八時及び午前五時とし、第二項の時刻は、午後九時及び午前六時とする。
このように、満15歳未満の児童の場合、午後8時から午前5時までの就業は禁止されています。但し、演劇業界の要望から、2004年に当該規制が緩和され、2005年1月1日より演劇子役に限っては、従前の「午後8時から午前5時」を「午後9時から午前6時」と読み替えることになりました。
http:// http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/11/dl/s1116-7b1.pdf
今回のドラマ撮影はどうであったか
では、報道に即して、今回のドラマ撮影がどうであったか考えてみたいと思います。
第一報を報じたのは、週刊文春です。記事の概略は次の通りです。
①撮影は、東京都練馬区の東映東京撮影所でおこなわれた。
②1月21日の昼12時に撮影入りし、翌日午前5時まで、17時間撮影が続けられた
③深夜3時過ぎからダメ出しを繰り返し、数十回にわたる撮り直しを強行。
④この前日も稲垣は深夜2時まで14時間に及ぶ撮影をさせられていた。(参照元:『週刊文春』)
結論を先に言います。明らかに労働基準法違反です。
1月21日は土曜日ですが、仮に就学時間を除外したとしても、法定労働時間の7時間を大幅に超えています。また、前日に至っては、児童の法定労働時間を大幅に超えています。また、深夜2時・3時という時間帯は、児童の深夜就業不可の原則に違反しています。
労働者性について
芸能人の場合、そもそも労働者に該当するかという問題がよく言われますが、この場合、使用従属関係が認められるかどうかによって判断されます。
③(ダメ出しを繰り返し、数十回にわたる撮り直しを強行)という事実関係によって、制作者と当該子役とのあいだに使用従属関係が認められるのは明らかです。
まとめ
そもそもどんなドラマを撮影していたのか調べてみました。ドラマのタイトルは、「東京すみっこごはん」というもので、ホームページを見たところ、出演者から次のようなコメントが記載されていました。連続ドラマW 東京すみっこごはん|WOWOW
出演者 黒島結菜さんのコメント:
視聴者の皆さまにメッセージ
このドラマには、"きちんと伝えていく"、"お互いの尊厳を守る"という2つの軸があります。こんなにも温かく優しいドラマに参加させていただけることがとても幸せです。
番組制作者の皆さん、"お互いの尊厳を守る"ドラマであれば、せめて労働基準法を守った上で制作してください。